最近の業務の中で、「この治療や検査を自費診療で行うとどうなのか?」という問題を考える機会が何度か続きました。いわゆる、『混合診療』の問題についてです。
この問題は現在の日本の医療保険制度ではグレーゾーンにあり、個別の事例について詳しくここで書くことはできないません。
ただ何となくモヤっとした仕事になってしまったので、自分の思考の整理のために、混合診療についてこの場でまとめてみようと思います。
1.そもそも、混合診療とは?
厚労省のホームページを見ると、「保険診療と保険外診療の併用は原則として禁止しており、全体として自由診療として整理される」と記載されています。
なんだか分かりにくいのでまとめなおすと、『同一疾患を同一期間内に同一の医療機関で受診する場合は、自由診療と保険診療の混在を認めません。もし混在するのであれば、保険証は使用せずにすべて自費で払ってください』、ということになるかと思います。
Wikipediaを見ると、混合診療は下記の5つに分類されると書いてあります。
- 保険診療範囲内の診療で回数などに制限があるものを制限以上に行う場合(制限外混合診療)
腫瘍マーカーの制限回数を超える医療行為など - 新医療技術でまだ保険診療として認められていない行為を保険診療と同時に行う場合(新技術的混合診療)
特定療養費制度の一種である高度先進医療など - 患者の価値観によって選択されるような保険範囲外の医療(価値観的混合診療)
健康診断などの予防医学的行為や美容整形的手術など - 政策的に決定された混合診療(政策的混合診療)
政策的判断から患者からの費用徴収が認められている特定療養費制度など - 医療行為ではない特別なサービスを保険診療中に受ける場合(アメニティー的混合診療)
特別室に入院した場合、医師を定めて予約した場合など、限定された少数のサービスなど
今回は、この中で「治療行為」が直接的にかかわる1~3の事例を考えていきたいと思います。
2.これは混合診療にあたるのか?を考える
以下に書くのは個人的な解釈に基づくものであり、厚労省から直接「この解釈でOKです」と言われている訳ではありませんので、悪しからず…。。
A)普通分娩目的で入院した妊婦さんが緊急で帝王切開手術を行った場合
これは割とよくあるケースなのでご存知の方も多いかと思いますが、混合診療には該当せず、帝王切開手術の治療からは保険診療として扱われます。つまり、一入院の中に保険診療の期間と自費診療の期間が混在することがOKと見なされます。
理由としては、「普通分娩」は病気・治療ではないからです。このため、「普通分娩を控えて病院に来た妊婦」は治療目的ではない入院ということになります。
一方で、帝王切開が必要な患者さんは「異常分娩」であり、これは一疾患と見なされ、治療目的での入院となります。
このため、妊婦さんの場合は『同一疾患を同一期間内に同一の医療機関で』のうちの『同一疾患を』に該当しないことになり、混合診療に該当しないという解釈でOKのようです。
B)人間ドックで入院していたが、ドックの検査で新しい疾患が見つかりその治療を行うことになった場合
Aと比べると混合診療っぽく見えますが、これも恐らく混合診療には該当しないのではないかと考えます。
なぜなら人間ドックを受ける患者は、例えば胃がんに対する内視鏡検査を目的で来た患者とは異なり、「具体的な疾患」を抱えている訳ではないからです。
ドックでの検査がきっかけになり、自由診療である検診を中止して保険診療での治療に切り替えた場合は、混合診療には該当しないと考えます。
C)保険診療で認められていない抗がん剤投与を入院患者に対して行った場合
これは混合診療に該当します。抗がん剤分はもちろん、それ以外の入院基本料や検査費用、食事代に至るまで、すべてが患者負担になります。
Cのようなケースで厄介なのが、「自費治療期間中に合併症などが発生し、予定していた入院期間が大きく超過した場合」です。
これは『同一疾患を同一期間内に同一の医療機関で』の定義をどこまで厳密にとらえるべきか?、という各病院の考え方によって対応方法が変わってくると思います。
もしかすると、「合併症はもともとの疾患とは違う病気で、予定していた治療期間とも大幅に異なる。患者に説明の上で、保険診療に切り替えよう!」という病院もあるかもしれません。
ただし、恐らく厚労省の立場からは、「自由診療に伴う合併症への治療は自費診療であり、保険診療への切り替えは混合診療である」と捉えるでしょう。その場合は、追加負担分を患者が払うか、病院が追加負担分を持つか、いずれにせよどちらかが泣くことになります。こういった入院が長期化し、患者の医療費負担が膨大になる、または病院が赤字になるケースがあることを認識したうえで、自由診療を受け入れることが病院側としては健全な在り方かと思います。
長くなってきたので、「混合診療について思うこと」は別の記事でまとめてみようと思います。
今、この本を読んでいるのですが、混合診療についての基本的な考え方が丁寧に書いてあり、勉強になります…。