今年度になって、ありがたいことに色々な病院を見学させていただく機会が増えています。
そんな中で、500床を超える急性期病院で病床稼働率が100%近い病院を見学させていただきました。
病院経営の一番の稼ぎどころは「入院診療」で、入院収入は患者単価×ベッド数×病床稼働率、の掛け算で成り立っています。
このうち、病院側の努力で最も改善しやすいのが「病床稼働率」であり、病院経営の良し悪しと連動する重要な指標ですが、各病院ともにそれを上げることに苦戦をしているという印象です。(私が勤務している病院も同様です)
今回の見学で学んだことを、自分へのメモとしてもう一度まとめておこうと思います。
体制
「救急患者は受け入れる」というルール
来てくれる患者さんはベッドが空いている限り受け入れる、という病院としての方針が非常に明確になっており、それが実践されていました。
このような病院としてのルールがあることで、受け入れをするスタッフが働きやすくなります。
病床管理の担当者は事務職員
ここが他病院と一番の違いだと思ったのですが、病床管理の担当者を看護師ではなく事務職員が行っていました。
「病床管理という、医療者と直接やり取りをする業務を事務職員が行うことに問題はないのか?」という質問には、
・「救急患者は受け入れる」というルールがあり、各部門が病床管理に理解を示してくれること
・入院ベッドを決める際の基本的な確認項目(認知症など)が決まっていること
により、事務職員でも業務ができる環境やルールがあるので問題ない、という回答でした。このルールに沿いつつ実践あるのみ!、という非常に力強い回答でした。
ベッドコントロールのテクニック
「診療科系病棟」はあるが、ルールに縛られない
医師の回診の効率性、看護師のケアの習熟性などを考えると、診療科毎に入院する病棟を決めることは運営にとって効率的です。しかし一方で、「○○科の病棟なので××科の患者さんはちょっと…」と言い訳を作ることにもつながります。
見学した病院では、この原則論はありつつも、空いた病床にはどんどん他科の患者が入っていきます。それが「文化」になっているとのことでした。病床管理を担当する事務職員が医師・看護師に時に頭を下げ、時に正論を通しながらこの文化を作って言ったのか…と思うと、本当に凄みを感じてしまいました。
長期入院の患者は長期連休の前に入院してもらう
普通の会社と同じく、病院でも月~金で医師の勤務が組まれますので、月~金に患者は治療を受けます。なので、病院の病床稼働率は火・水・木あたりがピークになり、逆に予定入院のない土・日は病床稼働率が低めになります。
そして病院の病床稼働の天敵は、正月・GWなどの長期連休です。予定入院がいないので、かなり稼働率が落ち込んでしまいます。この対策として、こちらの病院では長期連休の前の週には手術スケジュールの中に「予定で長期に入院する患者」を多めに組み入れて、長期連休の終盤に退院できるようなスケジュールを組んでいるとのことでした。これにより、長期連休中も予定入院の患者が一定数存在するようになり、病床稼働率の低下を最小限に抑えられます。
「ベッドが空いたので入院してください」と電話を入れる
入院スケジュールは、手術・内視鏡・放射線治療などの空き状況と連動して決定することが多いです。しかし一方で、点滴治療などは病室内で治療を完結することができるため、病床稼働率に合わせて調整することが比較的容易になります。
この病院では、後者の治療についてはある程度病院側で裁量を持っておき、病床稼働が高くない時期に患者へ連絡を入れ、入院してもらう、という手法をとっているとのことでした。
気づいたこと
ここに書いたことは、「病床稼働率を高くする」ということを考えた戦略としては、実に当たり前のことのように思います。病院業界では異端でも、ビジネスの世界ではこれくらいやるのが当然なのかもしれません。
しかし、この「当たり前のこと」をプランニングして、それを実践しきることというのがとても難しいのは、ここまで高い病床稼働率の病院が全国にほぼ存在しないことを見ると明らかだと思います。
トップがシンプルな方針を立てて、それを現場がきちんと実践すること。その難しさと、実現された時に起きるインパクトの大きさというのを、まざまざと見せつけられた病院見学になりました。
PDCAサイクルという言葉はよく聞きますが、シンプルかつ明確なPを立てて、ガッツで徹底的にDoDoDo!、が病院経営において大切なのかもしれません。