医療安全の基本中の基本は、「患者確認」です。
患者さんの取り違いミスは、病院内の全ての場所で起こりえます。そしてそのミスは、病院運営の根幹を揺るがすような事故につながります。
「院内全体で正しい患者確認を行うこと」が、適切な医療を患者さんに提供するうえでの大前提であり、医療安全の出発点と言えます。
正しい患者確認の方法とは?
患者確認で望ましいとされている方法は、次の二点を守ることです。
➀患者さんを二つの識別子で確認すること(氏名&生年月日、氏名&病院でのID番号など)
②患者さんと一緒に患者情報を確認すること
➀について、例えば「フルネーム」だけでの確認ですと、同姓同名患者の取り違えを防ぐことはできません。特に1日何千人という患者さんが外来に来院する総合病院では、1日の間に何人もの同姓同名患者が来院することもあります。エラーを防ぐためにも、「二つの識別子で患者を確認」が患者確認の大原則と言えます。
②について、病院側から「○○さんですね?」と聞く方法は、エラーが起こりやすいとされています。病院側・患者さん側双方が「間違いないだろう」という思い込みのもと患者確認が進んでしまうことや、周りの雑音で自身の情報をはっきりと聞こえないことがあるといったことがその要因です。患者確認をする際は、まず相手に名前を名乗ってもらうところから始めるのが望ましいです。
また注意点として、「位置情報(病室番号や外来の場所など)では患者を確認しな」ということがあります。患者さんが入院している病室は日々移動がありますし、「循環器内科にかかっている田中太郎さん」は、その日の病院に2名以上いる可能性があります。
ちなみにこちらは最近ネットで見かけたポスターなのですが、これらの患者確認に必要な要素が分かりやすく詰まっていて、素晴らしいなーと思いました。うちの病院にも貼らせていただきたいです。。
※参照元
患者さんが自身で情報が言えない場合は…
病院なので、患者さんに自身の情報を名乗ってもらうことができない状況も当然あります。
・患者が麻酔や昏睡状態などで自身の名前を言えない患者さん
・身元不明のまま運ばれてきた患者さん
・両親が名前を付けていない新生児
この場合、「患者さんと一緒に患者情報を確認する」ことは出来ないので、病院側が「患者さんを二つの識別子で確認する」ことを徹底する必要があります。
具体的には、患者さんにネームバンドを付けるなどをして、病院スタッフが患者さんを見て患者情報を判断できるようにしておくなどの対策が考えられます。(最近では、全ての入院患者さんに対してネームバンドを付ける病院がほとんどのようです)
患者さんが自身の情報を言えない立場にあるからこそ、「二つの情報で患者確認」を徹底することがとても大切です。
患者誤認が引き起こした医療事故
患者誤認が招いた医療事故として、平成11年1月11日に横浜市立大学医学部附属病院で発生した、「本来行うべき手術を相互の患者にに誤って行ってしまった」という医療事故に触れないわけにはいきません。
ホームページからの抜粋ですが、概要は以下の通りです。
- 病棟から手術室へ患者を引き継ぐ際に患者を取り違え,そのまま手術室へ送ってしまった。
- 手術室に携わる医師側(手術担当,麻酔担当)においても,予定された患者が来ていることを前提に臨んでいることなどにより,患者が入れ替わっていたことに気づかずに手術を行ってしまった。
- 手術後の患者を集中治療室(ICU)において観察中,担当医師が患者の入れ替わりに気づいた。
患者さんの情報が以下のように比較されていますが、もちろん「共通点があって間違えてしまった」では済まされない医療事故です。手術前で患者さんが覚醒していれば、患者さんに名前を名乗ってもらうこともできます。
A氏(74歳男性) |
B氏(84歳男性) |
|
疾 患 |
心臓疾患 |
肺疾患 |
入 院 日 |
平成11年1月7日 |
平成10年12月28日 |
予定手術名 |
僧帽弁形成術又は弁置換術 |
試験開胸術中生検 悪性の場合右上葉切除 |
予定手術室 |
3番手術室 |
12番手術室 |
実施手術室 |
12番手術室 |
3番手術室 |
手術時間 |
10:05~13:50 (入室8:20、退室15:45) |
9:45~15:45 (入室8:20,退室16:15) |
実施手術 |
右肺嚢胞壁切除縫縮術 |
僧帽弁形成術 |
手術に関わった 関 係 者 |
手術担当医師 (R,S,T) 3名 麻酔担当医師 (J,K) 2名 看護婦 (F,E) 2名 |
手術担当医師 (X,N,Q) 3名 麻酔担当医師 (L,M) 2名 看護婦 (G,H,I) 3名 |
体 型 等 |
身長:166.5cm 体重:54kg |
身長:165cm, 体重:47.3kg |
「安全な医療は正しい患者確認から始まる」ということを、私のような事務職員も含めて、病院の全スタッフが意識する必要があります。
患者さんの協力が患者確認の徹底には不可欠
最後に、患者確認を病院に根付かせるためには、患者さん側に協力してもらうことも不可欠になります。
特に顔なじみの患者さんだと、病院側の患者確認が疎かになりがちだったり、中には「なんで今更名前なんて聞くんですか?」と怒る患者さんもいるようです。しかし病院全体で患者確認の習慣を身に着けるために、患者さんを特別扱いせず、すべての場面ですべてのスタッフが患者確認をし続けることが必要になります。
「○○先生は私の名前を確認しなくていいんですか?」と患者さんから言ってもらえるくらいになれば、ある意味その病院は患者確認の文化が完全に浸透したといえるのかもしれませんね。
まとめ
正しい患者確認をするために心がけることは、以下の二つ。
➀患者さんを二つの識別子(氏名&生年月日、氏名&病院でのID番号など)で確認すること
②患者さんと一緒に患者情報を確認すること
患者確認は、医療現場はもちろん、事務スタッフも含めて病院全体が関わる医療安全の基本です。どの病院でも患者確認を徹底して、誰もが安全な医療が受けられる体制が構築されていくとよいなと思っています。