中医協資料を読む(第412回・2019年4月10日):2020年度改定に向けた周産期の課題

2020年度の診療報酬改定の議論に向けて、中医協で「患者の疾病構造や受療行動等を意識しつつ、年代別に課題を整理する」ということが行われています。

※年代別課題の概要は、前回記事のまとめをご参照ください。

medical-administrate.hatenablog.com

・乳幼児期から学童期・思春期

・周産期

が今回の中医協では議題として挙げられていましたので、各テーマでまとめをしたいと思います。今回のテーマは「周産期」。

中医協資料リンク:中央社会保険医療協議会 総会(第412回) 議事次第

周産期に関する課題

ハイリスクな妊婦への対応

初産年齢の高齢化や、産婦の高齢化を背景に、基礎疾患や精神疾患等をもつ妊婦が増加しています。これに伴って、ハイリスクな妊婦への対応がさらに求められていることは、今後の医療を考えるうえで間違いなく大きな論点となります。

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f:id:espimas:20190504162838j:plain「偶発合併症(妊娠していなくても発症する疾患)は増加傾向にあり、全妊産婦の32.2%を占めている」
「偶発合併症の増加は妊産婦の高齢化に依存している」
ということは、データとしても出ており、このような周産期医療の高度化に対する対応として、周産期母子医療センターの整備、また、診療報酬においては、ハイリスク妊婦の診療に係る加算等を行ってきました。

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しかしながら、2018年度改定で新設された外来での妊婦加算が「妊婦税」などと批判が相次ぎ、2019年1月に算定自体が凍結されたのは記憶に新しい方も多いと思います。

headlines.yahoo.co.jp

分娩ができる医療機関には、24時間体制での患者受け入れ体制が求められます。また初産年齢や産婦の高齢化などに伴い、緊急での帝王切開や、出産前後での外来での管理、合併症リスクへのフォローなど、様々な医学的な問題への対応も今後ますます必要になってきます。

このような背景から、「妊婦診療を安全に行える医療機関への経営支援」という観点からも外来の妊婦加算が2018年度の改定で新設されたのではないかと考えていますが、改定後の騒動でこの妊婦加算は取りやめになってしまいました。

2020年度改定では、より分かりやすいルールのもとで、外来での妊婦加算を算定できる診療報酬の案が出てくるのではと考えています。

「周産期医療は儲からないしリスクも高い」となって、分娩を安全に行える医療機関が減ることが、今後の日本社会にとって最も悪いシナリオです。病院の経営に関わる立場としては、「妊婦診療を安全に行える医療機関への評価」が適切にできる診療報酬になることを期待したいと思います。

※参考:2018年度改定時の周産期医療充実の取り組み

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妊婦を取り巻く健康上の不安や問題等への対応

中医協資料で取り上げられているのが、「妊娠と薬情報センターでの相談」です。国立成育医療センターが中心となって行っている取り組みで、概要は以下の通りです。

厚生労働省の事業として、2005年10月より、「妊婦・ 胎児に対する服薬の影響」に関する相談・情報収集を実施しています。現在、我が国においては、医薬品の妊婦・胎児への影響に関して、必ずしも十分な情報があるとはいえません。相談に際しては、トロ ント大学(カナダ)と連携し、小児科病院で蓄積された データ他、既存の文献を基礎情報として活用し、科学的に検証された医薬品情報を妊婦や妊娠希望者に提供することで、妊婦・胎児への影響を未然に防ぐことに務めています。

 ※参照元

妊娠と薬情報センター:妊娠と薬情報センターについて | 国立成育医療研究センター

全国47都道府県に、「妊娠と薬情報センター」と連携する拠点病院(2019年4月時点で全国に52カ所)が構築されており各拠点病院で「妊娠と薬外来」を開設しています。

このような取り組みが診療報酬上でも手厚く評価されることで、全国の妊婦さんがより手軽に相談ができたり、安全な情報を収集できるような体制になっていくとよいなと思います。

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まとめ:2020年度改定に向けた周産期の論点

中医協資料には、課題点として「周産期における評価は、これまで入院医療を中心とした提供体制の評価やハイリスクの妊婦への評価を重点的に行ってきたが、主に外来医療での対応が中心となる基礎疾患をもつ妊婦等に対する支援ついてどう考えるか。」と記載されています。2020年度の改定で改めて外来での妊婦加算が論点になることは間違いありませんので、今後の動向に注目していきたいと思います。

 

ちなみに、「課題」のところに「妊産婦本人にとっても、納得の得られるような医療提供のあり方」という内容が含まれているのがなんとも興味深いところです。

もちろん、国のお金としてこの領域に投資されるべきという話は別問題としてあるのだと思います。しかし、短期的に解決する問題でもありません。今後の日本の周産期医療の充実のためには、「初産年齢や産婦の高齢化」という状況をマスコミや受診者が理解し、そのリスクを軽減するための医療にお金を払うことに納得する必要があります。外来での妊婦加算は、日本人の「医療リテラシー」が求められる問題と言えるのかもしれません。

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「乳幼児期から学童期・思春期」のまとめについては、前回記事をご参照ください。

 

その他、過去の中医協まとめの資料はこちらから。

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