厚労省若手チームの改革プランに思う、組織改革の基本。

2019年8月26日に、厚生労働省のホームページに「若手チームによる業務・組織改革のための緊急提言」という資料がアップされました。

www.mhlw.go.jp

マスコミ各社ともニュースで取り上げており、「強制労働省」とも揶揄される行政の働き方が改めて浮き彫りになってしまいました。。

www.jiji.com

中身を見ると、現場の問題点に即した提言が多く、「厚労省から始まる組織・働き方改革」にふさわしいもののように思いました。ご存じの通り医療機関厚労省が管轄の行政機関であり、真似できるところも多いのではと感じ、今回の記事で厚労省若手チームの改革プランから考える、組織改革の基本をまとめてみたいと思います。 

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改革の目指す方向性

厚生労働省の職員の増員が必要」という前置きのもと、以下の三つから改革を実践していくべきであると提言されています。

  1. 生産性の徹底的な向上のための業務改善
  2. 意欲と能力を最大限発揮できる人事制度
  3. 「暑い、狭い、暗い、汚い」オフィス環境の改善 

それぞれ簡単に中身についてご紹介します。

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1.生産性の徹底的な向上のための業務改善

具体的な提案として、以下のような内容が挙げられていました。

  • 審議会等の会場設営などの準備業務の分業・集約化
  • 給与支給事務の集約・効率化
  • 「ナッジ」を活用した広報等の推進(※ナッジ:行動経済学上、対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する手法。)
  • コールセンターの大幅人員増
  • 自動文字起こしシステムの導入
  • 問表作成の効率化
  • 答弁資料審査の効率化
  • オンライン議員レクの実証実験の実施
  • 国会に対する申入れ(質問通告2日前ルールの徹底など)
  • 議員別の質問通告時間・空振り答弁数の分析・公表
  • スケジューラーの活用の徹底
  • 省内チャットシステムの積極的活用
  • テンプレートの共有

議事録の文字起こしシステムの導入、オンライン議員レク、省内チャットシステムの積極的活用などは、ITを活用した業務改善として厚労省で実践されて成功すれば、それが各会社レベルに降りやすくなっていくはずなので、是非是非実践されていってほしいなと思います。

スケジューラーの活用、テンプレートの共有などは、「まだそんな環境なの?」という印象を持ちました。ただ、農水省が2018年に一太郎を廃止してWordに統一するというニュースもありましたし、様々な年代・背景を持つ人と一緒に働く中ではITレベルの引き上げ、標準化が重要であるのも確かです。

個人的に一番面白いなと思ったのは、「議員別の質問通告時間・空振り答弁数の分析・公表」

・議員別の質問通告時間を集計して、議員ごとの平均通告時間等を算出・比較し、求めがあれば公表する。

・質問通告をしておきながら、実際には質問しなかった質問(通称「空振り答弁」)の数についても集計・分析する。

というもので、官僚から政治家に対して「仕事を依頼する際は、前もって連絡してください」「そもそも、その依頼した仕事は、本当に意味がありますか?」と問いかけています。

業務を個別で測定されることで人は行動を変えやすいですし、お金や手間をかけなくても改善できるアイデアになっているところが素晴らしいなと感じました。きちんとルールを守っている政治家に何の影響もありませんし、これは是非、来週から一斉公表してほしいですね。

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2.意欲と能力を最大限発揮できる人事制度

「人事」に関わる内容は、どうしてもその人の理想論が突き付けられやすい分野だと思うのですが、客観的で相手の立場に立った人事考課や労働管理などの「日々の仕事の中で改善してほしい部分」が中心になっているのが印象的で、厚労省の若手チームの方々がきちんと現実を見ていることが感じられる内容でした。

  • 人事課の大幅な体制強化
  • 採用業務への十分なリソース配分と効果的な採用活動の実施
  • 客観指標に基づく人員・定員・ポストの管理
  • 労働時間管理の効率化(出勤簿・休暇簿・出退勤報告書・在庁時間管理簿の一元化と押印の廃止)
  • 「当たり前」の人事評価・人事面談、キャリア支援の実施(具体的な目標設定と評価結果の伝達、定期的なキャリア面談など)
  • C評価以下の基準の明確化・厳格化
  • 職場満足度調査の定期実施・公表
  • 「年功」ではなく「意欲」と「能力」を重視した人事施策への転換
  • キャリアパスの見直し、内示時期・異動期間の設定見直し
  • ハラスメント対策
  • 研修の改善(行政官が共通して理解すべき内容を研修内容に組み込む)
  • 残業代支払い実務の省内統一

この中で私が面白いと思ったのは、「客観指標に基づく人員・定員・ポストの管理」。

どの組織でも大体そうだと思うのですが、ある部署で新しいポストを要求する場合には、同じ数の既存ポストを廃するのが基本となっています。これに対し改革プランでは、部署ごとの業務量に差があるなかでは、現行の人員体制を前提とするのではなく、客観的指標(退庁時間など)に基づいて定員を采配するという提言がなされています。

「部署の人数の定数」は設定することが非常に難しいものですが、部局間の忙しさを定員調整で平準化することは、会社内の不平等感を無くす上でも非常に重要だと思います。ぜひこの改革を成功させて、その事例を全国の企業に公表してほしいですね。

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3.「暑い、狭い、暗い、汚い」オフィス環境の改善 

最後は、厚労省で働く方々のオフィス環境の改善の問題。長時間労働が必要な時もあるのなら、せめていい環境で働きたいという気持ちは、よくわかります。。

  • 生産性・創造性向上のためのオフィス・レイアウト
  • 打ち合わせスペース・会議室の確保・手続簡素化
  • エアコン稼働時間や温度調整の柔軟化・手続簡素化

確かにこれは暗いかも…。

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厚労省分割論」には、あくまでも反対。

改革プランの中でいいなと思ったのは、「厚労省分割論」のは反対のスタンスを取っていたこと。

・人材不足を解決しないまま組織を二分しても、管理組織が2つ必要になる

・一体的な連携が後退すれば、政策のスピードは遅くなる

という観点から、組織はそのままで中身を変えていきましょうという方向性には非常に好感を覚えました。

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厚労省若手チームの改革プランに思う、組織改革の基本。

資料を読んでいて思うのは、「あれ、これうちの病院でも同じことが起きている気がする…」ということ。

「組織改革」というと、組織再編やら制度の見直しやら、大きなところがクローズアップされがちなのですが、一番に解決すべきなのは現場の苦労や身体的・精神的な疲労をどう取り除いて、仕事に集中できる環境を作るかということなのだと個人的には思います。

その意味で、組織や制度の再編についてはほぼ触れず、「どのようにすれば現場が働きやすくなるか」という観点から

「生産性の徹底的な向上のための業務改善」

「意欲と能力を最大限発揮できる人事制度」

「オフィス環境の改善」

の三つに絞って提言を行った今回の改革プランはどの組織にも応用可能であり、組織改革の優先順位を明示してくれているように思います。

 

最後の難しい問題は、「これをどう実践するか」ということ。問題を提言するのは簡単ですが、それを実践して成功に導くのは本当に難しい。。

あとはもちろん、厚労省の幹部レベルがリーダーシップをとって、組織改革にきちんとコミットすることが絶対条件です。

どのように厚労省の組織改革が今後動いていくのか、引き続き注目していきたいなと思います。一年後とかに、若手チームからの中間報告をまた見てみたいですね。