今年は関東圏を大きな台風が直撃し、計画運休もこれまでにない大々的なレベルで、事前にアナウンスされて行われるようになりました。
社会全体として、台風の日は国民の身の安全のために休業しましょうという文化が出てきたのは、日本全体がいい方向に変わってきている証拠であり、とても良い変化だと思っています。しかし一方で、そんな台風の日でも営業させないといけないところがあるのも事実です。
いわゆるインフラ系企業(鉄道や電気、水道、通信会社など)や報道機関、行政サービス(警察、消防など)などが挙げられてくると思うのですが、「医療機関」も災害時にこそ必要とされる組織の一つです。今回は、台風の日の病院運営について考えてみたいと思います。(想定するのは、急性期の病院です。)
病院全体の運営:どのレベルまで規模の縮小が可能か?
鉄道の計画運休が行われ、患者さんの足が停止している中でまず考えるべきは「どのレベルまで病院運営を縮小すべきか?」ということです。
最小限の運営を考えると、以下のような感じでしょうか。
〇外来
・予定の診察は予約日を変更してすべて休診。
・救急外来は通常通りの対応。
〇入院
・予定入院患者は入院時間を変更か、翌日以降に入院してもらう。
・救急外来受診後の緊急入院患者は通常通りの対応。
・台風の日より前に退院できる患者は、緊急事態時の病床確保という観点からも、早めに退院してもらう。
〇手術室
・緊急手術は通常通りの対応。
・予定手術は、原則翌日以降に変更。(スタッフの確保及びインフラ面での安全性(停電や断水のリスクがない)が担保されれば実施されるのかもしれませんが。)
全体として、「外来部門は縮小が可能だが、入院機能はほぼ通常通りの対応となる」という想定で、病院の運営を考えていく必要があると思います。
誰が出勤すべきか?
・医師
・看護師
・薬剤師
・放射線技師
・臨床工学技士
・栄養科(給食部門含む)
・医事課
・施設課(清掃部門、警備部門含む)
・情報システム(常駐の担当者含む)
・診材管理(SPD部門含む)
あたりの部署・職種が、緊急時の病院運営にはまず必要であると思われます。
先にも述べた通り、救急外来と病棟部門(場合によっては手術部門も)は平常時とほぼ同等の人数が必要になるので、勤務スタッフの交代などは早め早めに決めておきたいですね。
難しいのが、病院の直接雇用でないスタッフの勤務についてです。特に上記のうちの事務部門(医事、清掃、警備、SPD)は委託・派遣なしでは成り立たない病院がほとんどだと思います。委託については「業務としてお願いしている」という観点から、人繰りは委託業者の責任で依頼が可能になるのかもしれませんが、派遣については病院側の判断が問われます。
派遣スタッフは一律休みとして病院雇用の職員の勤務を優先させるのか、それとも通常通りの勤務を依頼するのか。ここは「病院の方針」によりますが、勤務者確保のマニュアルを作成するうえでは絶対に考えなくてはいけない部分だと思っています。
緊急時の勤務者確保のために考えるべきこと
①部署として必要な最低人数は?
まず「部署の運営で求められる最低人数が何人なのか?」を、平日・土日・夜間のそれぞれのパターンで考えておくことが大事です。次の日に回せる仕事は全て回したうえで、何人のスタッフが必要になるのか?を決めることが第1ステップだと思います。
②誰が出勤するのか?
部署運営に必要な最低人数を確認したうえで、「誰が出勤するのか?」。部署の管理者はシフトや居住場所関係なく必ず出勤とするのか、病院の近隣に住んでいる/電車が動くエリアのスタッフに出勤を依頼するのか、それともスタッフの業務スキルを優先させて出勤させるのか。その部署の特性に合わせて決めることが大切です。
③どのように出勤させるか?
計画運休の中で、タクシー代の補助や前泊をさせるルールを作るのか、その際のお金はどうするのか。それとも「来れたら来てね」のスタンスでOKとするのかなど。出勤者の足をどのように確保するのかも、決めておく必要があります。
大切なのは、これを「平時」に決めておくべきということです。台風が来てから考えると、どうしても「誰が行かされるのか」という議論になって、いやな思いをするスタッフが出てきてしまいます。緊急時に個人判断を強いるのではなく、病院・部署の方針としてこのように動くことになっているよ、ということを決めておくことが、その日働いてくれるスタッフのためになると思います。
また、個人の安全や家庭環境が常に優先されるよう、管理者が緊急時の勤務の可否を事前に把握し、関わる同時に病院のルールをスタッフに理解してもらうこともとても重要です。
台風時の医事課の運営
医事課のスタッフは、台風の日に勤務していなくても患者の命に関わることはないかもしれませんが、患者の案内や連絡窓口として必要になる部署だと思っています。またそのようなスタッフがいることで、医療者の事務的な業務を軽減し、必要な患者対応に集中してもらう環境を作ることができます。
個人的に考えておくべきは、以下の三点かなと思っています。
①「やらないこと」を決める
患者対応や、その日の事務業務の中で「何をやめるか」を、その日の勤務者の人数に応じて考えておく必要があります。(例えば台風で人が来なかったら、一部の窓口は締めるとか、その日の会計業務は後日対応にして、患者の受付・案内のみ行うようにするなど。)
1日の中で様々な業務を行っている中で、何が次の日に回せるのか。看護部や外来の医師とも相談のうえで、部署としてマニュアルを決めておく必要があります。
②患者への連絡
「明日は休診です」という連絡や、その後の予約調整を行うのは主に医事課の担当だと思います。ホームページに休診のお知らせを掲載しても、残念ながらそれを全員が判断してくれるわけではありません。
こんな時に思うのは、患者用のメーリングリストやLINEでのお知らせ通知、Web上での予約変更システムがあると便利だなぁということです。「緊急時に電話で連絡をする」という運用を、病院業界も早く脱してほしいなぁと思っています。
③委託・派遣スタッフへの対応
先に述べた内容と重複しますが、ほとんどの病院の医事課が委託・派遣会社に入ってもらっていると思います。台風で一般の方の足が止まってしまう際に、委託・派遣のスタッフにどのように来てもらうのか、または来てもらわない場合の運用をどうするのか。
医事課の責任者が、委託・派遣会社と基本的なルールを取り決めておくべきだと思います。
最後に…個人的な私見。
全国の医療機関とスタッフは頑張っている
Twitterを見ても、「これから夜勤です」とか「呼び出しがあってこれから病院へ」など、やはり病院は「台風でも休めない企業」なのだと思わされます。「台風の中で出社されるなんでブラック企業、なんて前時代的!」みたいな意見をよく見かけますが、このように緊急時にも人のために働く企業があるということを世の中の方には知ってほしいなぁと思います。
#台風だけど出社させた企業
— ぱんだまん@どうやら金沢マラソン (@koolbox16) 2019年10月12日
↑これがトレンドで「病院とか休めない職種だってあるんだ!」という意見があります。
そう。私達医者は休めません。お願いだから休める職種の方々は休みましょう。家にいましょう。
そうすれば、私達の仕事はむやみに増えません。それが一番助かります。。。
また、被害に遭われた方を救助・搬送される救急隊の皆様にも本当に感謝です。
大荒れの天気のなか現場に向かう隊員たちは命懸けです
— ぽんこつQ²隊のぼやき💭 (@80lightyear) 2019年10月11日
救急車が強風で煽られ大雨で視界も悪くなるため速度は出せず、現場到着や病院到着に普段以上の時間がかかります
残念ではありますが「救急車だから安全」とは言い切れません
台風上陸時にはいつも以上の慎重な救急車の適正利用をお願いします pic.twitter.com/UirlrnNecV
全国の病院で「危険日手当」の検討を!
病院として求められる機能があり、それを維持するために台風の中でも出勤してくれたスタッフには、「危険日手当」を支給することを検討してもよいのでは?というのが個人的な意見です。
自分の身の安全の確保、家族を守ること、電車が止まっていて来れないなど、どれも正当な理由であり、「台風で出勤できないこと」を責めることはできません。しかしその中で出勤してくれたスタッフには、何らかの労いをするべきではないでしょうか。(甘いかな?)
お金がすべてではないですが、お金で解決できる感情もあると思っています。
とにもかくにも、現場のルール作りを!
今回の台風対応でも、「誰が出勤するか問題」が場当たり的になって結局ごたごたしてしまい、調整の当事者になった私もやりきれない思いをすることがありました。
上で述べたような出勤のルール作りは、部署の管理者の仕事であり、また管理者にしかできないことです。来年もこのような大型台風が来ることや、冬場は大雪で首都圏の交通網が麻痺することもは十分予想されます。
「今回何とかなったから、次回も何とかなる」は、管理者として一番やってはいけない思考方法です。私自身はスタッフの立場ですが、来週以降にルール作りについて管理者働きかけていきたいと思っています。
最後になりますが、台風の中でも勤務してくださっている医療関係者の方に本当に感謝です。また、今回の台風の被害が最小限に抑えられることを願いたいです。