公立病院の独法化がもたらす病院経営への影響とは?

12/3に、東京都にある8カ所の都立病院を、独立行政法人に移行するというニュースがありました。 

www.nikkei.com

今年の9月に発表されて大きな話題となった「再編の検討が必要な公的病院リストの発表」と併せて、公立病院の運営が大きく変わろうとしている転換期であることを示すニュースでした。

ただ一方で、「そもそも独立行政法人って何?」「独法化されて病院の何が変わるの?」と思う方が、私を含めて一定数いるのではないかと思っています。

ということで今回は、「公立病院の独法化がもたらす病院経営への影響」について考えていきたいと思います。

独立行政法人とは?

そもそも、独立行政法人とは何なのか?

医療機関における独立行政法人の定義について、既に独法化への転換を遂げている神奈川県立病院機構、大阪市立病院機構のHPからご紹介したいと思います。

地方独立行政法人とは、県立病院を運営するために、地方独立行政法人法に基づいて、県が100%出資して設立する法人であり、医療環境の変化や県民の医療ニーズに応じて柔軟で弾力的な病院運営を行うことにより、高度・専門医療等を担う県立病院の役割を、今後とも安定的・継続的に果たしていくためのしくみです。(神奈川県立病院機構HPより)

地方独立行政法人とは、住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地から、その地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業で、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものを、効率的かつ効果的に行わせることを目的に、市が設立する法人です。(大阪市立病院機構HPより)

県立病院と独立行政法人の違いはどこにあるのか?

組織図上の違いで言うと、「県立病院が県の組織の一部である」ことに対して、「独立行政法人は県が設置する法人」になります。このため、県立病院は地方自治法地方公務員法など、地方自治制度の枠組みの中での運営が求められるので、経営の自由度に限界があります。

これに対して独立行政法人の病院ではこれらの法律の枠組みからは外れての運営になるため、経営の自由度や柔軟性を高くすることが可能になります。

ただし完全に民営化されるというわけではなく、

・病院の運営定款や中期目標、医療サービスの内容は、県の議会によって定められる。

・救急医療などのいわゆる「不採算」とされる医療領域や、がん医療や周産期医療等の高度・専門医療などを実施するために必要な経費については、これまでと同様に県が負担する仕組みが取られる。

ことから、独立行政法人が運営する病院は、県の議会が適切に機能している限り、いわゆる「公立病院に求められる病院像」は守られるということになります。

公立病院が独政化することによる病院経営の変化

神奈川県のホームページには、公立病院が独政化することによる病院経営の変化が詳細に紹介されています。今回の記事では、そのホームページの内容を抜粋しつつ、

➀人事・組織面

財務会計

の観点から、ひとつの病院の経営にどのような変化が起こるのか?をご紹介したいと思います。

➀人事・組織関連

採用手続きの柔軟化

地方公務員法に基づく人事制度の下では、県立病院側が自由に採用を行うことはできませんでした。またこの法律での制限に加えて、県の行政システム改革基本方針や国の集中改革プランなどの意向も汲み取ったうえでの職員定数で運営が求められます。

これに対し、地方公務員法の適用外となる独立行政法人では、法人(病院)が独自に採用できるため、診療報酬改定や医療環境の変化に即した医療スタッフの採用が可能になります。実際に神奈川県の事例では、医師の確保をスムーズに行うことで救急医療体制や手術実施体制を充実させることが出来たり、看護師の増員により7対1の手厚い看護体制の実現ができたなどの事例が紹介されています。

中長期的な事務職員の育成・配置の実現

これまでの神奈川県の県立病院は、事務職員の平均在所属年数が3年4月であったそうです。こちらも地方公務員法に関わる話で、県立病院の運営体制では知事部局中心の人事・給与体系となることがその理由なのですが、独法化されることによりこれらの事務職員を病院雇用とすることができます。

これにより、診療報酬制度や病院経営に精通した職員の養成・配置ができるため、効率的な経営が可能となったそうです。 

財務会計関連

中期計画での人員や医療機器・設備の整備

地方自治法では、予算単年度主義が取られるため、医療機能の充実にスタッフの確保や、施設・医療機器の整備を中期的な視点から実施することが困難でした。

これに対し独法化の運営では、議会の議決を経た中期計画(3~5年間)もとで、これらの整備を行うことができます。人員・設備・施設のいずれも、医療機関にとっては高額な投資の話となるため、これらを計画的に実現することが可能な体制になったことは病院経営上で非常に大きなメリットとなっています。

適切な契約形態の選択が可能に

地方自治法では、県立病院が長期契約をできるものが、医療事務業務、臨床検査業務、患者給食業務等に限定されています。このため、その他の領域(施設管理や消耗品のリース・購入など)では長期契約を締結できず、継続的なサービスの提供や発注規模の拡大によりスケールメリットを享受することが困難でした。

これに対し独法化の運営では、各分野ごとに病院の運営にとって適切な契約形態を選択することが可能となり、上記の問題点を解決することが可能になります。 

不採算とされる医療領域の扱いはどうなるか?

公立病院の改革に際してよく言われることが、「経営重視の病院運営により、不採算とされている医療領域が切り捨てられるのではないか」という点です。

この点については、最初にも述べましたが、

・病院の運営定款や中期目標、医療サービスの内容は、県の議会によって定められる。

・救急医療などのいわゆる「不採算」とされる医療領域や、がん医療や周産期医療等の高度・専門医療などを実施するために必要な経費については、これまでと同様に県が負担する仕組みが取られる。

という独立行政法人の運営形態を鑑みるに、そのような事態は起きにくいのではないかと思っています。実際に、現在のところ独法化されたことで不採算領域がカットされてしまった、という話を聞いたことはありません。

独法化がもたらすものはあくまでもいち病院の経営の枠組みの変化であり、大きな運営方針は都道府県の議会のもとに定められていく、という点は知っておかなければいけないポイントだと思っています。

県立病院を独法化することで経営改善はなされるのか?

都道府県の一組織から外れ、地方自治法など行政特有の制約がなくなることで、経営の自由度や柔軟性を高くなる独立行政法人の経営形態ですが、それにより経営改善はなされるのでしょうか?

個人的には、「独法化により経営の仕組みは良い方向に変化したが、独法化にしたことで経営の改善につながるわけではない」と考えています。経営改善には、その仕組みをうまく活用するリーダーが必要であり、独法化は経営改善をもたらすための魔法の仕組みではありません。

また公立病院には、

・運営方針を決める都道府県の議会

地方独立行政法人評価委員会による経営指標の評価

・病院運営の変化を見守る市民

・「公務員」として働いているスタッフ

などなどステークホルダーが多く、一般の民間病院よりも経営の難易度が高い事業体なのではないかと感じています。

今後公立病院の独法化が進むにあたり「病院の経営改善のために、病院の経営改善を進めるための人物をどのように登用・育成するか?」という点が、重要な論点なのではないかなぁと思っています。今後どのような変化が起きるのか、引き続き注目をしていきたいですね。

まとめ

  • 「県立病院が県の組織の一部である」ことに対して、「独立行政法人は県が設置する法人」が両者の違いである。
  • 独立行政法人の病院ではこれらの法律の枠組みからは外れての運営になるため、特に人事面や財務面において、経営の自由度や柔軟性を高くすることが可能になる。
  • 病院の運営定款や中期目標、医療サービスの内容は、県の議会によって定められるため、「経営重視の病院運営による不採算医療領域の切り捨て」が起こることは考えにくい。
  • 公立病院の独法化がもたらすものはあくまでもいち病院の経営の仕組みの変化であり、それ自体が経営改善をもたらすものではない。病院の経営改善のためには、その仕組みを活用して変化をもたらすリーダーが必要になる。

参考

www.pref.kanagawa.jp

www.osakacity-hp.or.jp

 

www.nikkei.com

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