2020年診療報酬改定を読む①:地域医療体制確保加算の新設

2020年診療報酬改定の内容について、2/7(金)にとうとう点数も含めて個別改定項目の詳細が出揃いました!

このブログでも、改定の中でも特に病院経営に深く関わる項目、社会的意義がある項目をピックアップして取り上げていこうと思います。

今回は、新設された「地域医療体制確保加算」について。

f:id:espimas:20200207111133j:plain

地域医療体制確保加算とは?

この加算は、地域の救急医療体制において重要な機能を担う医療機関への評価として、2020年改定から新設されたものです。

救急車による搬送件数は、年々増加の一途を辿っています。

f:id:espimas:20200208155113p:plain

そしてその救急車を受け入れる地域の医療体制体制は、臨床現場での過酷な勤務環境と引き換えに確保されてきている現状があります。これを是正するために、適切な労務管理等を実施することを前提として、地域の救急医療体制において一定の実績を有する医療機関を対象に入院医療の提供に係る評価を新設し、地域医療の中核病院の経営に良い影響を与えることが本診療報酬の目的になっています。

入院初日に限り所定点数に加算が可能になり、1患者につき520点となっています。

年間1万人の入院患者がいる病院では、年間で5200万円の収益が純増となりますので、経営的に大きなインパクトがある加算であるといえるでしょう。

施設基準

「救急医療の実績」と「病院勤務医の労務環境改善の体制」の二つが、施設基準を満たすカギになります。

救急医療に係る実績

「救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上であること」が、一つ目の施設基準です。

2019年12月18日の中医協資料で討議されているのですが、

年間2,000件以上救急搬送を受け⼊れている救急医療機関が、全体のおよそ71%の救急搬送を受入れていること」

「 年間救急搬送受⼊件数が2,000件以上の⼆次救急医療機関において、より受⼊件数の少ない⼆次救急医療機関よりも⻑時間勤務(週60時間以上等)を⾏う医師の割合が⼤きいこと」 

ということが統計から分かっています。

f:id:espimas:20200208152813p:plain

f:id:espimas:20200208152833p:plain

これらの現状も踏まえ、救急車の受け入れに協力をしている上位20%の医療機関に対して診療報酬で加算を付けて、経営を支援するという考えのもとに、本加算が新設されているといえるでしょう。

病院勤務医の労務環境改善の体制

もう一つが、「医師の働き方改革推進のための体制づくり」です。「救急車2000件以上で1患者につき5200円が加算」がクローズアップされがちなのですが、こちらの施設基準の方が今後を考えると実は重要な気がしています。

施設基準は以下の5つの項目から成り立っています。

① 病院勤務医の負担軽減・処遇改善のため、病院勤務医の勤務状況の把握とその改善の必要性等について提言するための責任者を配置すること。

② 病院勤務医の勤務時間及び当直を含めた夜間の勤務状況を把握すること。

③多職種からなる役割分担推進のための委員会を設置し、「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」を作成すること、またその計画の達成状況の評価を行うための会議を開催すること。

 ④ ③の計画は、現状の勤務状況等を把握し、問題点を抽出した上で、具体的な取組み内容と目標達成年次等を含めた病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画とするとともに、定期的に評価し、見直しを行うこと。

 ⑤ ③の計画の作成に当たっては、次に掲げるア~キの項目を踏まえ検討した上で、必要な事項を記載すること。

ア 医師と医療関係職種、医療関係職種と事務職員等における役割分担の具体的内容(例えば、初診時の予診の実施、静脈採血等の実施、入院の説明の実施、検査手順の説明の実施、服薬指導など)

イ 勤務計画上、連続当直を行わない勤務体制の実施

ウ 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間の一定時間の休息時間の確保(勤務間インターバル)

エ 予定手術前日の当直や夜勤に対する配慮

オ 当直翌日の業務内容に対する配慮

カ 交替勤務制・複数主治医制の実施

キ 育児・介護休業法第23条第1項、同条第3項又は同法第24条の規定による措置を活用した短時間正規雇用医師の活用

⑥ 病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に関する取組事項を当該保険医療機関内に掲示する等の方法で公開すること。

 

「当直・休日勤務医の勤務状況の把握」

「勤務医の労働負担削減のための計画作成」

「医師から他の病院職員へのタスクシェア」

と、働き方改革で求められるキーワードが並んでおり、「加算を算定する代わりに、医師の働き方改革への対策をとってくださいね」というメッセージが伝わってくる施設基準となっています。

方で「月の労働時間を〇時間まで削減する」といったような、具体的な基準までには踏み込んでいないこともポイントです。この加算で問われるのは、あくまでも「医師の勤務環境改善のための体制」であり、結果自体は各病院での基準を決めて対応して下さい、という収め方になっています。(ただし次回以降の改定では、労働基準法と診療報酬がコラボレーションして、具体的な数値目標が出てくる可能性も大いにあるとは思いますが…。)

とはいっても、まずは体制を整えることがその後の改善プロセスや結果につながります。2020年改定への対応を通じて、医師の勤務環境を改めて見直すことが問われていると言えるでしょう。

病院経営への影響

臨床現場

「医師の働き方改革」を促進するための診療報酬ですので、「医師不在時の対応」を各時間帯×各職種で改めて洗い出す必要があります。

例えば、

・患者の主治医・担当医が休日や夜間などで不在時に、その時間帯にいる当直医やオンコール医師とどのように連携を取るか

・医師以外の医療職種や、事務職員がどのように医師が行っている業務を法律の範囲内で分担するか

などなど。いずれも患者さんの安全を運用面でこれまで通り守りつつ、医師の労働時間の削減のための体制に取り組まなければいけませんので、文字通り病院全体で医師の働き方改革に取り組む必要があるでしょう。

事務部門

この加算は、「医事課の努力」よりも「管理部門の医師管理体制の強化」がカギになると思われます。

届出をすれば算定可能になるため、医事課側にとっては運用変更なども無いはずです。

一方で管理部門、特に医師の勤怠管理を行う人事部門の働きが、本加算の算定を成功させるための重要な要素となってきます。施設基準で問われている5つの要件を毎月チェックし、委員会でその結果を共有・議論し、次の改善につなげる…、という一連のプロセスを回しきることが求められていくでしょう。(そして、ある日突然監査などを通じて「その活動の記録を見せてください」と言われるはず…)

また、今後医師も含めて勤務時間の管理がますます厳格化されていくことを考えると、本加算の増収分を救急や集中治療に従事している診療科の増員予算に充てる、というのも中長期的には重要な施策になると思います。働き方改革と言っても、24時間体制で患者を受け入れる病院に医師は常にいなくてはいけません。「医師をどう確保していくか」という点も、特に急性期病院が考え続けなくてはならないテーマの一つでしょう。

まとめ

  • 地域の救急医療体制において重要な機能を担う医療機関への評価として、2020年改定から「地域医療体制確保加算」が新設され、入院初日に限り1患者につき520点の算定が可能になった。
  • 「救急医療の実績」と「病院勤務医の労務環境改善の体制」の二つが、施設基準を満たすカギになる。
①救急医療の実績:救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上であること。
②病院勤務医の労務環境改善の体制:「当直・休日勤務医の勤務状況の把握」「勤務医の労働負担削減のための計画作成」「医師から他の病院職員へのタスクシェア」を計画・実行していくこと。
  • 医師の勤怠管理を行う人事部門の働きが、本加算の算定を成功させるための重要な要素となると予想される。

参考資料

中央社会保険医療協議会 総会(第451回) 個別改定項目の詳細について

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000593368.pdf

中央社会保険医療協議会 総会(第442回) 個別事項について

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000577665.pdf