病院には、各部署での業務以外に、「委員会」という業務があります。
外から見える「病院運営」は、医師が診察や治療をして、看護師が病棟や外来で患者さんのケアにあたり、事務は患者さんへの請求回りの仕事をして…、といったように部署ごとに分かれた仕事をこなすイメージだと思います。
しかしそれは一面で、それ以外に病院内で重要な役割を果たす組織体として、各部署から選抜されたメンバーからなる「委員会」が存在します。今回は病院特有の「委員会」について、その役割や重要性を書いていきたいと思います。
病院運営における委員会の役割
委員会は何をしているのか?
あえてざっくりと説明するならば、日常業務では各部署が縦割りで動いているのに対して、委員会では部署横断的にメンバーが選抜され、テーマごとに討議をして院内全体に関わる業務の方針決定を行う役割が求められています。大体は月に1回の会議が開催されます。
例えば、医療安全に関する委員会では、様々な職位や診療科の医師、看護師、コメディカル、事務が一堂に集まって、
・前月の医療安全で問題があるケースがなかったかのモニタリング
・病院としてテコ入れを図るべき医療安全に関わる事象への討議
などを行っていくという感じです。委員会で決まった運用ルールは、各会議体を通じて院内全体へ発信されていきます。
委員会は病院のオフィシャルな会議体という位置づけであり、毎月決まった日時場所で、多職種が集まりオープンな話し合いをすることが出来ます。昼夜問わず忙しく働いている医療機関の人々にとって、定例で情報共有や院内のルール決めをすることが出来る貴重な機会となっています。
病院における諮問機関としての役割
前段で少し触れましたが、病院にある各委員会は「医療安全」「感染管理」「手術室運営」「医療機器購入」などなど、各領域での専門分野を取り扱っています。
委員会で取り扱うのは、病院運営において重要な分野ばかりなのですが、すべての領域に経営者が首を突っ込むわけにもいきません。そこで、「医療安全の問題があったら医療安全の委員会で討議して決めてね」といったように、病院内で起こる専門性の高い各分野の問題は、実質的には委員会が方針を決定することになります。
行政において、行政庁の意思決定に対して、専門的な立場から特別の事項を調査・審議する機関を「諮問機関」と呼びますが、委員会はまさに「病院の諮問機関」としての役割を果たすことが求められていると言えます。
ここで大切なのは、委員会は「諮問機関」としての役割を果たすべく、きちんと毎月会議が行われ、参加者が各部署の立場と専門性をもとに活発に意見交換し、合理的な意思決定をする必要があるということです。また諮問機関として、反対意見もきちんと引き出したうえで決を採ることが大切です。いわゆる、「良い会議」を繰り広げる必要があります。
しかしながら、実際にはなかなかここまでの水準にたどり着かず、粛々と統計報告だけして終わってしまう委員会があることもしばしば…。あとで詳しく書いていきますが、委員会には事前準備や目標管理能力が問われることになります。
既存の委員会をきちんと回すことが病院活性化のキモ
上にも書いた通り、委員会は昼夜問わず忙しく働いている医療機関の人々にとって、定例で情報共有や院内のルール決めをすることが出来る貴重な機会となっています。
そして、この既存の委員会をいかにきちんと回し、院内ルールの決定や諮問機関としてジャッジする役割を果たせるかどうかが、病院活性化のキモになると個人的には思っています。
私の病院でもよくあるパターンが、何か病院内で問題があった際に「○○に関するワーキンググループを立ち上げよう!」と号令がかかり、院内で顔の広いキーパーソンが集められて検討を行う…というものです。しかし一つ一つの問題を見ると、これは手術室運営委員会で考える問題、これは医療安全管理委員会で考える問題、これは人事課で考える問題…と、意思決定をするべき会議体(または担当部署)がきちんと機能すれば済む話もとても多い印象。
院内のキーパーソンが集う「○○ワーキンググループ」は一見便利な仕組みなのですが、既存の会議体や部署の役割を無視していることを意味します。そしてそれは、中長期的に見ると病院の現場レベルでものごとを決める力や仕事への責任感を奪い取ることにもつながります。
そのためにも、平時からきちんと委員会を機能させ、諮問機関としての役割を果たしてもらうことが、病院活性化のための原点になるはずです。
委員会運営におけるポイント
ここからは、個人的に考える委員会運営のポイントを書いていきます。会議運営では当たり前のポイントなんですが、徹底して実践することがなかなか難しい…。
議題は事前に共有し当日は「決める」ことに集中
ひとつ目が、議題を事前に共有して、当日の会議スタートと同時に「この件については私はこう思います」といった具合に、「決める」ことに集中する会議にすることです。
委員会でよくある光景が、資料などは一通り準備できているものの参加者が議題を理解できておらず、「これってどういう意味?」という資料内容の理解で終わってしまうというパターンです。なんとなく問題点は分かったので、また来月に続きを話しましょう→先月の会議のコレって、どんな意味だったっけ??、と、議題の共有されない委員会の議論は無限のループに陥りがちです。
そういった意味でも、委員会の三日前くらいには資料も含めて議題はすべて設定され、委員のメンバーへ伝え、先に疑問点・反論点があれば前日までにメールしてください、くらいまでの下準備が出来るとよいはずです。(ちなみに大体の委員会は30分枠で設定されているので、情報共有だけではあっという間に終わってしまいます。)
年度ごとに問題点を設定して追いかけ続ける
ふたつ目が、「委員会目標」を年度初めにきちんと立てて、その目標を愚直に追い続けることです。
委員会あるあるとして、毎月の議論の最中に「最近気になっているトピック」がポンと投げられ、話の本筋がずれていってしまうことがあります。もちろんその意見自体はとても大切なものとしても、毎月新しい目標や問題解決テーマが1~2個ずつ増えていってしまうと、委員会を何回開催しても時間が足りなくなります。
委員会の時間や扱える議題にも限界がありますので、多くて三つの目標設定をしてPDCAを回すことが、年度単位での限界だと個人的には思っています。大切なのは委員会として設定した目標を毎月きちんとモニタリングすること、そして改善の見込みがなければその理由を掘り下げていくことです。3か月くらい同じ議題を出していると、委員のメンバーは飽きてくるのですが、それをどのように興味深く見せるか、また違った切り口から料理していくかが事務局としての腕の見せ所にもなります。
また、委員会目標の立て方はより上位の目標、つまり病院全体の重点目標とリンクしたものが望ましいです。例えば、病床稼働率を3%上げる、という目標に対して、救急に関する委員会では「救急車の応需率を高める」、手術室に関する委員会では「土日の稼働率も意識した手術枠の設定を行う」など。そういう意味では、病院全体の重点目標の設定も非常に重要になってきます。
議事録をきちんと書く
最後がこれもまたまた当たり前のことなのですが、議事録をきちんと書くことです。
「先月の会議のコレって、どんな意味だったっけ?」という議論のループや、また「先月決まったこの提案について、私はやっぱりこう思うのですが…」というちゃぶ台返しを防ぐためにも、議事録は非常に重要な存在になります。
私が1年目の時に教わった議事録の書き方ですが、各議題に対して「誰が、何を、いつまでに行う」が分かるように意識しながら議事録を書くことで、次の委員会につながる議事録が書けます。
また委員会内での議論を議事録にどこまで載せるかという点について、私は「主要な賛成意見・反対意見はすべて載せる派」です。(人によっては「結論だけ載せる」タイプもあり、ここは仕事のスタイルにも寄る気がしますが。)
これはなぜかというと、先の例にも出した通り、1か月前の議論のプロセスを意外とメンバーは忘れているためです。「A案B案で賛否があり、でも今回はこのポイントを重視したいのでA案になった」というところまで議事録に残せることで、後戻りのない積み重なった意思決定を行うことが出来るようになります。
委員会活動は面倒くさいけど…
臨床や患者サービスがメインになる病院職員にとって、「委員会」は面倒くさい仕事・会議の代名詞です。
また病院には無駄な定例会議が多く、その中に様々な委員会が含まれていることも事実でしょう。
しかしここまで書いたように、病院運営において委員会はなくてはならない存在で、組織活性化のためのキモとなる会議体です。各委員会をきちんと活用し切って、合理的・生産的な意思決定が出来るようになれば、病院はもっと良くなるはずです。
ちなみに事務局を務めることが多い事務職員にとっては、委員会活動は「会議運営を通じた問題解決」という定型業務とは離れたスキルを求められ、貴重な訓練の機会だとも思っています。この点については、また別の機会に…。
まとめ
- 病院における委員会では、各部署から横断的にメンバーが選抜され、テーマごとに討議をして、院内全体の業務に関わる意思決定を行う役割が求められている。
- 病院内で起こる専門性の高い各分野の問題は、実質的には委員会が方針を決定することになる。
- 個人的に考える委員会運営のポイントは以下の三つ
- 議題は事前に共有して、当日は「決めること」に集中
- 年度ごとに目標設定をして追いかけ続ける
- 議事録をきちんと書く
- 病院内の既存の委員会をいかにきちんと回し、院内ルールの決定や諮問機関としてジャッジする役割を果たせるかどうかが、病院活性化のキモになる。