2020年4月に行われる診療報酬改定に向けて、特に病院経営に深く関わる項目、社会的意義がある項目を注目すべきトピックをご紹介します。
今回のテーマは、「救急医療管理加算の算定」です。
救急医療管理加算とは?
救急医療管理加算とは、入院時に重篤な状態の患者に対して、入院した日から7日間に限り算定ができる項目です。2018年時の診療報酬では、2種類の加算が存在します。
〇救急医療管理加算1 900点(1日につき)
以下のアからケまでの状態にあり、医師が診察等の結果、緊急に入院が必要であると認めた重症患者が対象。
ア 吐血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害又は昏睡
エ 急性薬物中毒
オ ショック
キ 広範囲熱傷
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA 療法を必要とする状態
〇救急医療管理加算2 300点(1日につき)
アからケまでに準ずる重篤な状態にあって、医師が診察等の結果、緊急に入院が必要であると認めた重症患者が対象。
救急医療管理加算の算定状況とそこから見える課題点
平成30年度のPDCデータをもとに、以下のような分析が行われています。
➀救急搬送から入院した患者のうち、救急医療管理加算を算定する患者割合をみると、50~60%未満の施設が最も多かったが、分布にばらつきがみられた。
②救急医療管理加算を算定する患者のうち、加算2を算定する患者が占める割合をみると、20~30%未満の施設が最も多かったが、分布にばらつきがみられた。
という問題点が挙げられており、
「救急医療管理加算の算定が可能な患者の対象の定義を明確化し、医療機関ごとの対象患者の算定のばらつきを減らすこと」
「救急医療管理加算の1の算定が可能な患者の対象の定義を明確化し、医療機関ごとの1と2の算定のばらつきを減らすこと」
が2020年の診療報酬改定でのテーマになることが分かります。
2020年診療報酬改定での変更点
今回の改定で、「算定点数」と「救急医療管理加算算定時のレセプト記載」の二点が変更になります。
点数
救急医療管理加算1 900点→950点
救急医療管理加算2 300点→350点
と、加算1・2ともに50点ずつ増点になっています。
これだけ見ると経営的に追い風ですが、その分レセプトへの記載要件が厳しくなっています。
レセプトへの記載
- 救急医療管理加算を算定するに当たって、イ(意識障害又は昏睡)、ウ(呼吸不全又は心不全で重篤な状態)、オ(ショック)、カ(重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等))、キ(広範囲熱傷)の状態又はそれに準ずる状態を選択する場合は、それぞれの重症度に係る指標の入院時の測定結果について、診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
- 救急医療管理加算を算定すべき重症な状態に対して、入院後3日以内に実施した検査、画像診断、処置又は手術のうち主要なものについて、診療報酬明細書の摘要欄 に記載すること。
という要件が追加されています。
「救急医療管理加算を算定する患者の定義を明確化する」という点について、「重症度に係る指標の入院時の測定結果をレセプトに記載する」という方法をもって踏み込んできています。
一方で、「重症度の指標」については現時点で診療報酬上では明確化されていないため、各病院の運用に沿った指標を記載してくださいと読むことができます。具体的にどのような指標を算定の根拠に用いればよいのか?について、2019年10月25日の中医協資料をもとに考えてみたいと思います。
救急医療管理加算の根拠となる重症度の指標
意識障害又は昏睡
意識障害又は昏睡について、JCS(Japan Coma Scale/急性期患者の意識障害レベル)のレベルをもとにした分析結果が紹介されています。
- 救急医療管理加算1の算定患者のうち「イ 意識障害又は昏睡」の患者の入院時のJCSをみると、JCS0(意識清明)が16%弱であった。
- 加算算定患者のうちJCS0の患者が占める割合を施設ごとにみると、0-5%未満が多かったが、割合が高い施設もあった
ということがDPCデータから分かっており、JCS0以外の患者に対し、のどのレベルを加算の算定条件にするかを、医事課と院内の医師・看護師で詰める必要がありそうです。
呼吸不全又は心不全で重篤な状態
呼吸不全又は心不全で重篤な状態について、NYHA心機能分類(心不全の重症度判定スコア)のレベルをもとにした分析結果が紹介されています。
NYHA心機能分類でみると、救急医療管理加算1で「ウ 呼吸不全又は心不全で重篤な状態」の患者について、傷病名が心不全の患者の入院時のNYHA心機能分類がレベルⅠ(身体活動に制限のない心疾患患者)が1割弱であったとのこと。
少なくともNYHA心機能分類がレベルⅡ以上で、算定要件を考える必要がありそうですね。
広範囲熱傷
広範囲熱傷について、Burn Indexのレベルをもとにした分析結果が紹介されています。
Burn Indexとは熱傷の重症度指標であり、「Ⅲ度熱傷面積(%)+Ⅱ度熱傷面積(%)×1/2」で計算がなされます。(Ⅲ度が全層熱傷、Ⅱ度が真皮まで達する熱傷)
中医協資料の説明では、Burn Index 10~15以上が重症とされていますが、
- 救急医療管理加算1の算定患者のうち「キ 広範囲熱傷」の患者の入院時のBurn Indexをみると、0-5未満が約35%であった。
- 加算算定患者のうちBurn Indexが0-5未満の患者が占める割合を施設ごとにみると、0-5%未満が多かったが、100%の施設も約2割あった。
という結果となっています。上記のデータを見ると、Burn Index 10未満が救急医療管理加算1の算定患者のうちの約65%を占めており、この患者層をどのように算定するかが大きな課題となりそうです。
病院経営への影響
臨床現場
一番のキモになるのは、「救急医療管理加算の算定要件に関わる記録」です。
先に挙げたJCSやNYHA心機能分類、Burn Indexなどは該当患者のDPCデータでも求められますし、各病院で記載する運用はある程度整っていると予想されますが、各疾患に関わる重症度の指標が救急医療管理加算の根拠にもなっていることを改めて意識し、入院日に記載を徹底する必要があるでしょう。(入院から時間が空いて記載すると、監査などで「入院日の指標のアセスメントが出来ていない」として返還を求められる可能性もあるかもしれません。)
今回の記事では紹介を割愛していますが、
・吐血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態
・ショック
についても入院時の重症度指標がそれぞれ求められており、この疾患の治療に関連する医師・看護師の入院日の指標の評価・記載を徹底してもらう必要があります。
医事課
医事課にとっては、算定要件が厳しくなり、おそらく多くの病院で算定件数を減らす必要に迫られるのではないでしょうか。(積極算定している病院は査定に悩まされそうです)
取り急ぎ4月までにやることは以下の三つになるでしょう。
・各項目の重症度指標を決めること。
・各重症度の疾患に関わる医師・看護師に、算定の根拠としての記録を徹底してもらうこと。
・医事課スタッフに各重症度指標のが持つ意味と院内の算定基準を理解させること。
「カルテ記載が正確になされている該当患者に対して、然るべき診療報酬を算定する」ということは基本中の基本ですが、今までカルテ記載を適当に(不備が多い、記載時間が遅い)行っていた病院にとっては算定要件をクリアするのに苦戦を強いられるかもしれません。
そういった意味で、臨床現場と医事課が一体となって取り組むべき改定項目だといえるでしょう。
まとめ
- 救急医療管理加算とは、入院時に重篤な状態の患者に対して、入院した日から7日間に限り算定ができる項目。
- 2020年の改定で、救急医療管理加算1 900点→950点、救急医療管理加算2 300点→350点と、加算1・2ともに50点ずつ増点となっている。
- 一方で、救急医療管理加算の算定に当たり、重症度の指標や、入院後3日以内に実施した主な治療内容をレセプトに記載することが求められ、算定のハードルは上がっている。
- 重症度の指標は各病院で決めることになるため、記載の徹底を臨床現場と医事課が一体となって取り組む必要がある。
※「2020年診療報酬改定を読む」:過去記事はこちらからどうぞ!