2020年度診療報酬改定を読む③:医療機関における業務の効率化・合理化の推進

2020年4月に行われる診療報酬改定に向けて、特に病院経営に深く関わる項目、社会的意義がある項目を注目すべきトピックをご紹介します。 今回のテーマは、医療機関における業務の効率化・合理化の推進」です。

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診療報酬に関わる業務や会議の特徴

患者さんから診療報酬を算定するにあたり、各医療機関には定例会議の開催や院内職員への研修、対象患者へのカルテ記載が数多く義務付けられています。

もちろん、安全で質が担保された医療を患者さんへ提供する単価として、診療報酬でそういった業務が義務付けられているわけなのですが、これがとにかく「多い」「長い」。

これらを少しでも減らし、医療の安全・品質を担保しつつ医療者に業務に集中してもらえる環境づくりが、いち医療機関でなく診療報酬制度として見直しが必要になっています。

具体的な効率化・合理化案

今回の改定で見直される業務の効率化・合理化について、

  • 会議の開催方法見直し:医療安全管理委員会の会議体制
  • 院内研修の合理化:抗菌薬適正使用に関わる研修、重症度・看護必要度の指導者研修
  • カルテ記載の効率化:栄養サポートチーム加算、がん患者指導管理料

を例にしてご紹介します。

会議の開催方法見直し:医療安全管理委員会の会議体制

これまでの医療安全管理体制の基準として、「安全管理の責任者等で構成される委員会が月1回程度開催されていること」という条件がありました。

これに対し、2020年の診療報酬改定から「安全管理の責任者が必ずしも対面でなくてよいと判断した場合においては、対面によらない方法でも開催可能とする。」という補足条件が付くようになりました。具体的には、メールでの情報共有や院内チャット機能などによる意見交換でも可能とする、といったことになるでしょうか。

院内感染防止対策の基準や医療安全対策加算についても同様の措置が取られるそうですので、医療安全・感染管理に関わる方々は効率的な委員会運営の在り方を次年度に向けて検討できるかもしれません。

院内研修の効率化

抗菌薬適正使用の院内研修

今回の改定から、「抗菌薬適正使用支援加算に係る院内研修を院内感染対策に係る研修と併せて実施してよい」ということが明確化されました。

これまでは院内感染対策と抗菌薬適正使用の研修を別々に行っていた病院でも、これにより一つの研修会やE-learningに両方の内容を盛り込むことが出来るようになり、研修時間の効率化・短縮化につながりそうです。

看護補助者に係る院内研修

「急性期看護補助体制加算に係る看護補助業務に従事する看護補助者は、基礎知識を習得できる内容を含む院内研修を年1回以上受講した者であること。」という要件があり、具体的には以下の6つの項目の研修が求められています。

ア 医療制度の概要及び病院の機能と組織の理解

イ 医療チーム及び看護チームの一員としての看護補助業務の理解

ウ 看護補助業務を遂行するための基礎的な知識・技術

エ 日常生活にかかわる業務

守秘義務、個人情報の保護

カ 看護補助業務における医療安全と感染防止 等 

これについて、アについては、内容に変更がな い場合は、2年目以降の受講は省略して差し支えないものとする。もっとも、イ~カは同じ内容が毎年求められますので実質の負担はあまり変わらないかもしれませんが…。

一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の院内研修の指導者に係る要件

「重症度、医療・看護必要度Ⅰ・Ⅱ (Ⅱにあっては、B項目のみ)に係る評価票の記入は、院内研修を受けたものが行うものであること。なお、院内研修は、次に掲げる所定の研修を修了したもの(修了証が交付されているもの)又は評価に習熟したものが行う研修であることが望ましい。」という要件があり、指導者になるスタッフには院外研修の受講が望ましいという意味合いの内容が含まれていました。

これについて、2020年改定からは下線部の要件が削除され、指導者になるスタッフへの要件が緩和されました。院外研修には費用負担やスタッフの勤務管理に関わる問題も含まれてくるため、現場的には妥当な見直しと言えるでしょう。

カルテ記載

栄養サポートチーム加算等について、これまでは診療録への記載を算定に当たっての留意事項としていましたが、これが今後は栄養治療実施計画の写しを診療録に添付すれば良いことになっています。

栄養サポートチーム加算

「点数を算定する場合は、栄養サポートチームの医師、看護師、薬剤師及び管理栄養士の全てが、栄養治療実施計画に基づき実施した治療等を診療録に記載すること。」という要件が削除されました。チームとしてどのような栄養治療実施計画を行うことを指導したか、という点が分かれば、職種別のカルテ記載は問われなくなるようです。(外来緩和ケア管理料についても同様。)

がん患者指導管理料「ハ」

「指導内容等の要点を診療録又は薬剤管理指導記録に記載すること。」という要件が、「指導内容等の要点を診療録もしくは薬剤管理指導記録に記載し、又は説明に用いた文書の写しを診療録等に添付すること」と変更になっています。

ちょっとわかりにくいですが、こちらも栄養サポートチームのように、個別でカルテ記載をしなくとも、指導内容の説明書がカルテに残っていればOK、と読むことが出来るでしょう。(退院時共同指導料1及び2についても同様の変更あり)

その他

業務の効率化・合理化の推進の一環として、以下のような変更点もあるようです。

  1. 診療報酬の算定に当たり、文書による患者の同意を要件としているものについて、電磁的記録によるものでもよいことを明確化する。
  2. レセプト摘要欄に記載を求めていた事項のうち、画像診断の撮影部位等について選択式記載とする。

1の「電磁的記録」というのは、いわゆる電子署名などでもOKとする、という意味でしょうか?

これまでは同意書を紙で出力したものに患者さんから直筆で署名をもらい、それをカルテにスキャン取り込みするか紙カルテとして長期間保管するという運用がどの病院でも取られていましたが、これが一部分でも電子署名に置き換わればかなりの業務効率化になりそうですね。

まとめ