初診オンライン診療の現在地点とこれから

2020年4月にコロナウイルス流行下で特例的に規制が緩和されたオンライン診療について、初診も含め原則解禁・恒久化していく流れの話が出てきています。

www.nikkei.com

2021/5/31に開催された「第15回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」でも、この件を踏まえてデータを交えてディスカッションが行われています。

今回の記事では、話題になっている「初診オンライン診療」にテーマを絞り、検討会で公表されているデータを読み解きながら現在地点とこれからを考えていきたいと思います。

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オンライン診療の現在地点

オンライン診療の歴史的経緯

もともとオンライン診療は、保険診療においては再診患者を対象として存在していた仕組みでした。再診患者に対しては、厚労省も診療報酬改定を重ねるごとに対象範囲を少しずつ広げたり、要件を緩和させていく取り組みがみられていました。

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オンライン診療料の他にも、遠隔連携診療料やオンライン在宅管理料など通院による対面診療とオンライン診療を組み合わせることで、患者さんにとってより良い治療機会を提供するための仕組みは制度上は整っているように感じていました。(それを実際に運用できている医療機関は一部だったかもしれませんが)

そんな中で起きたのが、2020年2月~3月から始まったコロナウイルス流行でした。

コロナウイルス流行による特例措置の開始 

2020年4月より新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、これまでの再診患者に対するオンライン診療だけでなく、初診患者に対してもオンライン診療が特例的に認められました。

初診患者でオンライン診療が認められていなかったことは、オンライン診療だと画面上の情報でしか患者さんのことが分からず不明情報が多いため、患者さんと医療機関の双方ににとってもメリットよりリスクが大きいことが一番の理由だといえるでしょう。しかしコロナウイルス流行による外出自粛の流れの中で、背に腹は代えられず初診もオンライン診療が認められた、という形でのスタートでした。

今回の特例措置を2022年の診療報酬改定以降でどのように引き継ぐか、また位置付けるかが現在の焦点となっています。

特例措置上の診療報酬 (初診の場合)

よく「オンライン診療は安い」と言われますが、実際にはどの程度安くなるのでしょうか?

初診の場合ですと、対面診療は288点に対して、オンライン診療は214点。

再診の場合ですと、対面診療は73点に対してオンライン診療は71点で、その他にも医学管理料等はオンライン診療のほうが低めに設定されています。

特例措置を設ける中でも、厚労省の意向としては、オンライン診療はあくまで対面診療に対する補助的・オプション的位置づけであり、保険点数もその分低めに設定をしていたことが分かります。

検討会で分かったこと 

つづいて、「第15回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で公表されているデータをもとに、初診オンライン診療の現状を確認していきましょう、

電話診療やオンライン診療の患者は小児・勤労世代が多い 

年齢層の分析を見ると、電話診療・オンライン診療ともに約75%が40歳までの年齢層の人たちで占められています。いわゆる「前期高齢者」の70歳以上は全体の約5%なので、後述しますが想定される疾患群を考えると、少なくとも初診のオンライン診療は 完全に小児と勤労世代に特化したものであるといえるでしょう。f:id:espimas:20210613232251j:plain

風邪症状の患者を中心に、初診からの電話診療・オンライン診療が行われている

つづいて、どのような疾患で初診からのオンライン診療が行われているかについて。

一言でまとめると、「初診からのオンライン診療ではほぼ風邪を見ている」ということが分かります。

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ただ補足として、オンライン診療に適していない症状リストが「風邪以外のもの」として実質定義されているという実態もあります。このため、結果的に上記のような疾患傾向になるのはやむを得ないところでしょう。

f:id:espimas:20210613232438j:plain一部において、物理的に大きく離れた地域に対して診療が行われている

 数値のブレはありますが、平均してみると全体の約5%の患者がオンライン診療において県外の患者であることが分かります。このあたりは、たまたま県境の患者を診ていただけなのか、それとも意図的に他県のオンライン診療をやっているクリニックを探して受診しているのかの分析が必要ではあります。f:id:espimas:20210613232805j:plain

一部において、時限的・特例的な取扱いで禁止されている麻薬・向精神薬の処方等が行われていたこと 

最後が、特例措置の要件で禁止されている処方について。

こちらも、割合は少しずつ下がってきてはいますが、全体の1%程度で本来行ってはいけない処方があることが分かります。

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個人的に思うこと:初診オンライン診療は診療報酬の対価があるだけの仕組みになるのか?

今回の資料を見て分かったことは、

・オンライン診療の初診については、感冒症状の診療がメインになる

・そもそもオンライン診療の初診で見れる疾患にはかなり制限がある

・上記の経緯から、初診オンライン診療は実質クリニック限定の仕組みで、地域の中核病院にはほぼ当てはまらない仕組みである

ということです。

言い換えれば初診のオンライン診療が役立っているのは、OTC医薬品(ドラッグストアなどで処方箋なしに買える医薬品)で解決できる程度の疾患がほとんどなのでは?とも思ってしまいます。

地域医療連携ネットワークが発達してクリニックが患者さんの診療情報をすぐに把握できるシステムができたり、健康情報と連動するようなデジタルデバイスを国民のほとんどが持ち歩くようになって、より高度な疾患までオンライン診療の対象になってくれば話は別だと思いますが(ただそのような疾患ほど患者さんは対面での診察を好む気もします)、たぶんそれはだいぶ先の話になるでしょう。

もちろん、オンライン診療の可能性について議論が進むことは良いことだと思いますが、現状の初診オンライン診療の疾患背景を考えると、OTC医薬品(もっと言えば、1~2日の休暇で治るような病気)に国の診療報酬を突っ込む価値はどれほどあるのか?と疑問に思っています。

一方で、オンライン診療の診療報酬が低く設定されているのを鑑みると、厚労省は国民が風邪をひいたときの行動をオンライン診療に切り替えさせて、全体として風邪に払われる診療報酬を少しでも低くしたいのかな?とも思いました。(それだったら、休みの取りやすい文化の醸成やOTC医薬品利用の推進活動に力を入れていきたいところですが)

そういった意味では、コロナ流行による今回の特例措置に隠れてしまいましたが、もともと厚労省がひっそりと推し進めていた慢性疾患や希少疾患のフォローアップに対する「再診のオンライン診療」こそが、短中期的に力を入れていくべき未来なのかなぁと思います。

このあたり、2022年の診療報酬改定でも必ず話題になってくるはずですので、こちらのブログでも引き続きチェックしていきたいと思います。

参考資料

www.mhlw.go.jp

gemmed.ghc-j.com

令和2年度診療報酬改定説明資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000605491.pdf