スマートホスピタルランキングから考える病院運営のIT化

先日、Newsweek社が、”World's Best Smart Hospitals 2021”を発表していました。

www.newsweek.com

「Smart Hospital」なんてなんだか聞いたことのない言葉ですが、コンセプトとしては「AIや情報通信技術(ICT)、ロボットなどの最新技術を導入して、より安全で効率的な医療サービスを、待ち時間や無駄な手間を無くしながら、より利用しやすく提供する病院」というイメージでしょうか。(ここに、これらのオペレーションから生まれる医療・健康データの活用と蓄積も含まれてくると思います。)

世界一位には、医療業界ではだれもが知っているMayoClinicがランクイン。

続いてThe Johns Hopkins HospitaやCleveland Clinicなどなど、世界の有名どころの医療機関が数多く名を連ねています。

ちなみに、ランクインしている日本の病院は大学病院が多いのが特徴で、民間病院は亀田メディカルセンターと倉敷中央病院の2病院のみとなっていました。

今回の記事では、今後の病院運営を考える上での重要キーワードになりそうな「Smart Hospital」について、その概要や可能性、取り組みの事例をご紹介したいと思います。

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Smart Hospitalランキングの5つの調査項目

「World's Best Smart Hospitals 2021」では、「デジタル手術(ロボット手術など)」「デジタルイメージング」「人工知能」「遠隔医療」「電子医療記録」の5つの調査項目をもとにランキングをまとめています。これらの項目は今後の病院運営を考える上でも外せない分野になってくると思いますので、それぞれ記事の内容を要約しながらご紹介していきます。

デジタル手術(ロボット手術など)

「デジタル手術」というとなんかピンと来ないですが、

・術前:VRや3D画像を用いた手術シミュレーション・術前カンファレンス

・術中:ロボット手術(合併症のリスクを低減し、患者の安全性を高め、再入院による費用を削減することが可能に)

・術後:術前~術中の臨床データを用いた患者ケア

などなど、世界ではこのような研究や実践が多く進んでいるようです。術後の遠隔ICUとかもここに含まれていくかもしれませんね。

デジタルイメージング

こちらは、放射線や病理などの画像診断の領域。

AIソフトウェアをもとにした画像スクリーニングは、すでに臨床現場の方も多くご存じの仕組みかと思います。いわゆる「医師の読影業務」は、今後デジタル化やAIとの両立を図っていく必要性に迫られていく可能性が高いです。

また後でもご説明しますが、遠隔診療と掛け合わせた「遠隔画像診断センター」のような取り組みもここに含めることが出来そうです。

人工知能

機械学習やその他の形式の人工知能(AI)は、ケアのまったく新しい可能性を開き始めています。外来や病棟にいる医師が、何百人といる患者さんのデータの推移を診続けることには限界があります。スマートホスピタルの考え方では、ここにAI(機械学習アルゴリズム)が入ることによって、医師に対して適切な患者情報のサマリーとアラートを送り込みながら、ノイズと誤警報を除外して、適切な治療がタイムリーにできるような支援がなされる、とされています。機械学習は、診断と臨床的意思決定においてまもなく中心的な役割を果たしていくのかもしれません。

遠隔医療

最後が、遠隔医療。コロナ流行期間中に一番浸透したものかもしれません。

「診察」はもちろん、上記で述べた画像診断やAIの領域と掛け合わせることで、世の中の医療を大きく変える可能性を秘めています。記事内では、これらの領域はもちろん、在宅でのリハビリや入院患者のモニタリングにウェアラブルバイス等の技術を掛け合わせることで、患者さんがより安全に、ストレスなくケアを受けることができる可能性が示唆されています。

電子医療記録(EHR)

最後が、電子健康記録(電子カルテ)。

記事内では、スマート病院が電子カルテから得られる情報をもとにケア計画や治療方針を立てることのメリットについて触れています。

現状は記録管理に重点が置かれ、データの二次利用に時間と手間がかかる日本の電子カルテですが、未来の医療では問診結果やバイタルを入力するとその場での診断やケア計画がサジェストされるような機能も含めた電子カルテが一般的になっていくのかもしれません。

日本でのスマートホスピタルの事例

実際に、日本ではどのような事例が存在するのか?

スマートホスピタルランキングに紹介されていた病院が取り組んでいる事例を二つ、取り上げてみます。

①亀田京橋クリニックの遠隔デジタル画像診断センター

亀田グループでは、2018年8月より東京中央区にある亀田京橋クリニック内に遠隔デジタル画像診断センターを開設しています。病理と画像の2つのデジタル画像診断を集約させることで、病理医と放射線医が互いのデジタル情報を元に合同カンファレンスなどを通じて総合的な診断を行う場所を作ることが狙いのようです。

www.kameda-kyobashi.com

こちらの取り組み、インターネットを通じてカンファレンスがいつでもできるというのももちろん素晴らしいのですが、病理診断と放射線診断が同じところにあるというのは、院内のコミュニケーションにおいてもとても有益なものであるように感じます。

名古屋大学のメディカル×Rセンター

名古屋大学では、手術のシミュレーション教育にVRの技術を積極的に取り入れているようです。

www.med.nagoya-u.ac.jp

サイト内には全ての手術に有用なシミュレーションができているわけではない、というメッセージも率直に添えられていますが、一方で特定の術式にはVRシミュレーションが極めて効果があるという結果がでているとのこと。患者個々の情報を利用した訓練も可能になってきており、日本でも 術前検査の解剖情報を入力し個々の症例の手術リハーサルが行えるVRシミュレータが市販に至っているとのことで、今後の発展に期待したいですね!

スマートホスピタルの未来

市場規模

記事中に、今後の市場規模展開についての記載があったのですが、「スマートホスピタルに関するテクノロジーの市場は2021年に350億ドルに達し、2026年までに830億ドルに膨れ上がる」と書いてあってビックリしてしまいました。。世界中で10兆円近い市場に今度なっていくんでしょうか!?

これらの技術が、治療の質向上だけでなく、今まで個人が行っていた業務の標準化・効率化につながり、経営にかかる費用の削減につながるとよいなと思います。

院内オペレーションの構築

一方で、難しいのはこのような技術を病院運営の中にどのように取り込むか、ということ。それぞれを単独運用しても効果は限定的なので、ここで出てきていない技術も含めて、どのようなつながりのもとに病院運営が最適化されていくのかの全体像を適切に描いていく必要があります。このあたりの人材確保が実は極めて困難だと思っており、ボトルネックになるのは技術の進歩ではなく、病院側がキャッチアップするための体制なのかもしれませんね…

まとめ

  • World's Best Smart Hospitals 2021では、「デジタル手術(ロボット手術など)」「デジタルイメージング」「人工知能」「遠隔医療」「電子医療記録」の5つの調査項目をもとにランキングをまとめている。
  • 日本でも基幹急性期病院(特に国立大学病院)を中心とした取り組みが始まりつつある。
  • 市場規模は世界的に大きく広がる一方で、各病院単位ではどのようにIT戦略を描き現場にキャッチアップしていってもらうかがカギになると思われる。