医事課業務のリモート化を考える

コロナウイルス流行以降、多くの企業で「在宅勤務」を前提にした勤務形態の見直しが取られています。そんな中でも医療機関で働く方々は、事務職員も含めて「在宅勤務」はほとんど経験をすることがなかったと思います。

もちろん医療機関は患者さんを受け入れる場所なので、その中にいる現場スタッフが在宅勤務をすることにはなかなかハードルがありますし、事務職員についても同じことが言えます。一方で、オンライン診療はもちろん、遠隔での画像読影やロボット手術などのすでに現在のテクノロジーで対応可能な医療も世の中に出てきており、将来的にはそのような領域が事務職のフィールドにも出てくるのではないかと思っています。

先日、医療事務関連の事業をしているソラストが「リモート医事」サービスを開始したというニュースが出ていました。

www.solasto.co.jp

今回はこちらのリリース資料などを紐解きながら、「医事課業務のリモート化」について考えていきたいと思います。

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ソラストが提供する「スマートホスピタル事業」の概要

まず初めに、ソラストの2020年度決算資料をもとにリモート医事を中心としたスマートホスピタル事業の概要を確認していきましょう。

現在、ソラストの中核事業は医療関連受託事業と介護事業の二つという位置付けにとなっていますが、第3の柱となる事業として、2030年度までにスマートホスピタル事業を成長させていく、という中期イメージが描かれています。

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そのスマートホスピタルの中心となる事業が医療事務の領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)であり、いわゆるリモート医事の領域となります。

市場イメージが記載されていますが、日本全体で7800億円もの見込みがあり、その中でも「医療事務業務の委託」という市場はその約25%に過ぎないことがわかります。

特に中小病院の市場はまだ手付かずの部分が多いようで、今後大きな伸び代がある市場として位置付けをしているようです。

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実際のリモート医事がどのようなコンセプトで運営されているかということですが、これまで窓口で行われていた医療事務業務(レセプト業務、計算、問い合わせ対応など)をリモート医事センターで請け負えるようにして、現場業務の負担軽減や業務の質の標準化を目指すような取り組みになるようです。

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リモート医事事業が提供するメリット

私も医事課で働いていた時は、以下のような現象によく悩まされていました。

・業務のピークタイムに対するマンパワー不足

・ルーチン業務とイレギュラー業務の混在

・エース級人材がいち窓口も並行して対応するシフト

患者さん対応が個別対応になってしまうこともあり、特に病院の規模が大きければ大きいほど現場レベルで人流を分岐させることがなかなか難しいため、このようなリモート医事センターと共同で仕事ができる体制は今後の流行になるのだろうなと、直感的に思っています。

この辺りの業務メリットは、こちらのスライドでわかりやすく解説されています。業務集約による生産性の向上はもちろん、業務の一部がリモート維持センターに置き換わっていくことにより、スタッフひとりへの採用・教育コストも減っていくという面でも、可能性があるサービスと言えそうですね。

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ここまではサービスとしてのメリットを述べてきましたが、このような体制を敷けるようになれば病院側も事務部門全体での生産性・働きやすさ向上にむけて次の構想を描きやすくなるのではと思っています。

・多拠点展開をしているグループ病院での、医事課をはじめとするバックヤード業務のリモート化による集約

・日本全国同じルールで請求業務を行うことによる査定・返戻条件の分析

・院内職員のリモートワーク推進の足掛かり

もちろん、セキュリティ全般での問題や電子カルテを外部でどのように閲覧できるようにするかの設計、また現場での「顔が見える形での医事業務サービスの提供」という反発にどのように対応するかなど、導入にあたってのハードルは高いそうですが、多分このようなサービスと並行して医療機関の事務業務が形作られていくのだろうなという想像が膨らみます。

医療機関の非コア業務はアウトソーシングしていく時代に?

ここまでは、ソラストの資料をもとに医事課業務のリモート化を考えてきましたが、最後に少し話を大きくして「医療機関における非コア業務のアウトソーシング」について考えていきたいと思います。

先日、「医療費請求アウトソーシングの市場規模、2027年に247億米ドル到達予想」というニュースが出ていました。

医療費請求アウトソーシングの市場規模は、2021年から2027年の間にCAGR13.4%で成長し、2027年には247億米ドルに達すると予想されています。医療機関や組織の請求業務を外部に委託することを、医療費請求アウトソーシングといいます、この仕組みを利用することで、医療機関や病院、クリニックは、患者の治療や施設の管理など、本来の業務に専念することができます。また、返済額の減少に対応するために、複雑な蓄積プロセスを簡素化することもできます。

元記事:

医療費請求アウトソーシングの市場規模、2027年に247億米ドル到達予想|株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース


今回は「医事業務のリモート化」というテーマで話をしましたが、例えば資材管理・医療連携・医師事務作業補助などの病院特有の事務部門から、総務・経理・人事といった一般企業と共通する事務部門まで、様々な分野での業務アウトソーシングが今後当たり前になっていくと思われます。

病院内では「非医療従事者へのタスクシフト」が進んできていますが、非医療従事者側のリソースももちろん限りがあるので、この辺りの設計を上手くしていかないと結果的に病院が回らなくなるところが数多く出てくると予想されます。

・病院内の事務職にとってのコア業務とはなんなのか?

アウトソーシングが可能な業務領域やオペレーションはどこにあるのか?

は、常に考え続けることが、今後の病院経営において不可欠であると感じている今日この頃です。

参考

株式会社ソラスト 2020年度決算資料

https://ssl4.eir-parts.net/doc/6197/ir_material_for_fiscal_ym8/99816/00.pdf