「自分の病院にどのようにして患者さんに来てもらうか?」は、各病院にとって最も重要な経営テーマの一つです。
そんな中で、自院の集患につながるPR・広報活動は日に日に重要性を増しています。
前回は「営業活動から考える医療連携」というテーマで、営業活動全体を俯瞰していくことにについて記事を書きましたが、今回は「集患につながるPR・広報活動」をテーマに、PR・広報活動の全体像、及びその具体事例をご紹介したいと思います。
前回分のおさらい
・病院における集患活動を四つのプロセスを置き換えて、どのような業務が発生しているのか?を考えてみると新しい視点が生まれそう。
・各施策のプロセスで共通のKPIを追いかけながら、分業体制を敷くことで集患活動の効率化を図れるのでは?
PR・広報活動を考えるにあたって
PR・広報の活動目的
PR・広報の活動は、一言でまとめれば、
「患者さんが受診が必要な時に「〇〇病院がよいかも」と思わせること」
「医療機関が紹介をしたいときに「〇〇病院に送ろう」と思わせること」
につながるための施策を打つことです。
患者さんや近隣の医療機関に自院の存在を広く認知すると言うことはもちろん、困った時に多数ある病院の中から今回はここ!と選ばせるための施策も掛け合わせて必要になります。
紹介状を書くのは医師ですが、実際に病院を選ぶのは患者さんです。病院によっては、病診連携の関係性強化よりも患者さん向けのPR・広報に重点をおくところもあるそうです。
顧客の態度変容の5つのステップ(AIDMAモデル)
マーケティングのフレームワークから、PR・広報活動を考えることも大切です。
消費者の購買決定プロセスを説明するモデルの1つに「AIDMAモデル」というものがあります。「注意を引く」から始まり「行動する」までの5段階のプロセスで購買決定に行きついているという考え方です。
このうち医療をテーマにした時、「受診が必要」というニーズ・行動の喚起は突発的に起こるものですので、アプローチが難しい部分が大きいです。このため、病院の集患と言う観点で考えると、AIDMAモデルのうちで特に大切なのは図でピンク塗りにしている「注意を引く」「興味を持つ」「記憶する」の3つのプロセスかと思います。
このことを踏まえると、日頃から「自院ではこんなことをしていますよ/できますよ」という情報発信をするPR・広報活動は、医療機関の集患活動において非常に重要であると考えられます。
医療機関でのPR・広報施策例
まずはホームページの充実を!
病院を探すのに一番見られるのは、なんと言っても病院ホームページです。
まず、ホームページ設計をするうえで念頭に置かなければいけないのは「患者さんは病院のことを調べ尽くしてから病院に来ている」ということです。
医師情報、治療実績、対応疾患、外来受診の方法など、受診を決めるための情報はわかりやすく掲載するのはもちろんのこと、初診診察時に対応するクラスの医師の顔写真は絶対にあったほうが良いでしょう。(もちろん、個人情報との兼ね合いはありますが…)
病院ホームページで特に異質的存在なのが、小倉記念病院。
部長クラスの顔写真はもちろん、専門分野や診療実績、患者さんへのメッセージまでがビジュアルで伝えられるようなホームページの構成になっています。小倉記念病院は広報誌も含め、病院としてのPR・広報活動に非常に力を入れていることで有名ですので、よろしければぜひホームページを見てみてください。
また、以下のような観点でのホームページ上の導線設計も非常に重要になります。
・患者さんが「診療科」のページにわかりやすくたどり着けるか
・地域医療機関が受診紹介をしたい際にストレスなく連絡先を見つけられるか
病院ホームページは、それ一つだけでいくらでも記事を書くテーマがあるくらいの奥深い領域です。ひとつの病院ホームページをどのような角度から見ていけば良いのか?ということについては、こちらの記事が詳しいかと思いますので、合わせて是非ご覧ください。
健康講座の開催
患者さんとのタッチポイントを増やすという点では、「健康講座の開催」も重要なイベントの一つです。(コロナ禍において対面開催が難しくなってしまいましたが…)
病院によっては、クリニック向けの営業活動にはほとんどリソースを割かずに、ひたすら市民向けの健康講座を開催し続けて患者さんの認知度を上げることだけに特化するようないところもあるとか。
健康講座で言うと「院内の講堂で開催する」と言う形式が一般的かと思いますが、例えば休日のデパートで生活習慣病に関する講演をする、市民プラザで月に1回講演するなどの外部出張講座ができると、病院と普段接点がない方々へのアプローチもできるようになります。
より患者層に近いところへのアプローチとしては、有料老人ホームとタイアップした企画なんかも開催されています。(古い内容の紹介ではありますが…)
健康講座の開催は工数がかかりますが、医療者と市民の方々が診察の場以外で直接コミュニケーションが取れる貴重な機会です。
「病院のファン」を作る活動が、患者さんが病院を選んでくれるきっかけになり、またその方々がインフルエンサーとして良い口コミを広げてくれることを期待できるのであれば、決して軽視すべきでないPR・広報活動の一つと言えるでしょう。
外部メディアとの共存共栄
攻めの広報
自院のホームページ管理はとても大切ですが、一方でそれだけでは情報発信の範囲に限界もあります。
外部メディアとの連携による病院紹介は、うまく活用できれば一般市民の方へ積極的に情報発信をする手段としては効果絶大です。また、第三者による評価がもたらす信頼性・安心感や、そこから生まれる口コミ効果も大きいものでしょう。
・病院検索サービスにおける病院紹介記事の掲載
・新聞や雑誌などで紹介される病院ランキング
医療関係者的に見ると、これが正しい評価かと言われると?かもですが、それはさておき広報効果としては非常に高いものが望めます。
守りの広報
一方で、「守りの広報」も非常に重要になってきます。
例えば、病院の口コミ管理。
昨年、「病院の口コミを改ざん業者が高評価に書き換え」と言う話がニュースになりましたが、本質的な対策ではないとは言え、この口コミに困らされている病院関係者が多数いることもまた事実です。
Twitterへの口コミ内容のチェックなども含め、悪評価のコメントを認識しておくこと、また自院内で対処できるものには粛々と対処することは、守りの広報活動として非常に重要であると言えるでしょう。
取り上げるテーマは選択と集中を
集患のためのPR・広報活動においてもうひとつ大切なのは、「選択と集中」です。
例えば健康講座の開催をするのであれば、各診療科で持ち回りに開催をするのではなく、外来初診患者数や入院患者数が落ち込んでいる診療科をテーマにした健康講座を重点的に開催するといった具合に、「いま自分の病院が何にフォーカスしたいか?」から逆算してテーマ選びをするといった具合です。
この辺り、メディア露出や健康講座運営などは連携部門ではなく広報部門が主導になっていることも多いと思いますが、連携部門から「どの診療科のテーマを重点的に扱ってほしいか」というコミュニケーション量を増やすことがとても重要になってくるでしょう。
まとめ
今回の記事では、医療機関でできる集患のためのPR・広報活動の事例を紹介してきました。
どれか一つやればいいと言うわけではなく、複数の施策の組み合わせが大切になるのでなかなか一筋縄ではいきませんが、一定の閾値を超えた段階で効果を発揮してくるのがPR・広報活動だと思います。
中長期的に粘り強く活動していくのが、集患につながるPR・広報活動への成功の鍵と言えるでしょう。