病院運営における委託・取引先企業との付き合い方

先日Twitterのやり取りの中で、「ビジネスパートナーへの接し方で、その病院の運営の良し悪しが分かる」という話題になりました。

このことは私が病院職員時代にずっと思っていたことだったので、Twitterでこの話題を見た際には自身の考えがクリアに言語化されたように感じました。

一方でそのツイートに対するリアクションを見ると、「自部署の課長は取引先に圧力ばかりかけている」「院内で委託業者の方にすれ違っても挨拶しない人たちが多すぎる」など、とても残念な意見を見かけたこともまた事実です。

今回は「病院運営における委託・取引先企業との付き合い方」をテーマに、病院運営の質向上を目指すための外部企業との関係性構築について書いていきたいと思います。

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病院運営における委託業者・取引先業者の業務範囲

病院の中には、院内スタッフだけではなく、契約関係にある企業も多数病院に出入りして業務を行なっています。

「病院運営において、委託業者や取引先業者が関わる業務って何があるだろう?」と思い書き出してみましたが、病院運営のインフラを担う部分はほとんどが外部企業によってもたらされていることがわかります。

  • 医事課や各診療科の受付・会計・クラーク業務
  • 院内清掃業務
  • 患者用給食の調理・提供業務
  • 院内警備業務
  • 診療材料等の院内物流業務(SPD
  • 診療材料や医療機器の調達・利用・保守
  • 薬剤の調達・提供
  • 患者用・職員用のリネンサービスの提供
  • 電子カルテやその他情報サービスの提供・保守
  • 院内施設の保守・修繕

例えば病院の中で当たり前のように使われている薬剤や診療材料は、メーカーや卸業者による不断の努力によりその供給が支えられていますし、院内清掃も常に危険と隣り合わせな作業の中で、分刻みのスケジュールのもとに院内全体の安全・清潔を契約業者の方が実施されています。

これらの業務は極めて専門性が高く、人的リソース・物的リソースがあって初めて提供可能になるため、病院内の職員であっても「この業務を明日からやってくれ」と言われても対応はできません。

そういった意味で、委託業者や取引先業者は病院運営の重要なビジネスパートナーです。病院側は「発注元」という立場であぐらをかくのではなく、パートナー企業のパフォーマンスをできる限り引き出す環境づくりをすることが、結果的により良い病院運営をもたらすことができるでしょう。

委託・取引先企業との付き合い方

次に、どのような付き合い方を心がけるべきか、という点について書いていきたいと思います。自分自身が病院勤務時に求められていたこと・心掛けていたことをベースに3つご紹介します。

定期的なパフォーマンス評価とフィードバック

まずひとつ目が、委託業者・取引先業者への定期的なパフォーマンス評価とフィードバックです。

発注先と仕事内容は決めたからあとはよろしく、では正しい業務状況は理解できませんし、正当なパフォーマンス評価もできなくなってします。

相手のビジネスへの干渉はできないとはいえ、業者側がどのような働きをしているのか、また病院として相手にどのような仕事を今後してほしいかを評価し、フィードバックしていくことは、病院運営の質向上のためにもとても大切です。

パフォーマンス評価の指標の具体例をいくつか考えてみました。

・清掃業務:年間の院内定期清掃の進捗状況

・レセプト点検業務:医療事務スタッフによるレセプトの返戻率・査定率

・システム管理業務:電子カルテのエラー報告と対応の進捗状況

その部署の管理者が1ヶ月に一度数字を見て方針を立てたり、業務に関する話のきっかけになるようなをものが理想でしょう。

スタッフのマネジメントへの関与

委託業者の場合だと、スタッフへの指示命令系統はその業者を通じて行うことになりますが、実務的な監督は現場のマネジメント担当者が行うことになります。

指示命令系統の違いは頭に入れつつですが、病院職員と同じように声をかけたり、時には業務の相談に乗ることは、部署全体のパフォーマンス引き上げにもつながっていくはずです。

またこのような取り組みをすることで、結果的により良い人材を紹介してもらいやすくなるというメリットもあります。各施設への営業担当者も人間ですので、良い人材の派遣先を決める際に、条件が同じであればコミュニケーションを取りやすい人のところに送り込みたい、と思うのは当然でしょう。

ビジネスパートナーからの情報収集

最後に、デキる病院職員の人が実践しているのが、「委託業者や取引先業者から最新の病院運営・経営情報を収集すること」です。

委託業者や取引先業者の担当者は、そのサービスを介して各病院を横断的に見ているプロフェッショナルであり、特定の分野に関しては院内の担当者よりも豊富な知識や鋭い見解を持っていることも多いです。日頃から関係性構築をしている企業から最新の病院運営・経営情報を引き出すことで、自院の運営にも大いに生かすことができるはずです。

また「業者から頼られる病院担当者」になることで、自院のインタビュー記事や特集記事を組んでもらいやすくなり、結果的に自院のPRやブランドイメージアップにつながるといったようなところまで展開できるかもしれません。

パートナーマネジメントは重要な企業戦略のひとつ

一般企業では当たり前に実践されているパートナーマネジメント

ビジネス用語として、「パートナー・リレーションシップ・マネジメント」という考え方が存在します。

例えばある製品を開発運営元が広く売り込みたい時に、その販売店や代理店、小売業者などのビジネスパートナーとの関係を構築し、全体の利益を向上させることを指します。具体的にはパートナーに対する販売支援の強化や顧客情報などのデータの共有、製品情報や販売ノウハウなどなどの情報共有などが挙げられます。

営利目的でつながっている一般企業におけるパートナーマネジメントと病院におけるパートナーマネジメントは異なるかもしれませんが、提携する企業との関係性構築はビジネスの成功において当たり前の戦略ですので、病院職員も考え方として持っておくべきことだと言えるでしょう。

困った時ほどパートナー企業の力が必要になる

例えばモノの供給分野において、医療機関運営は完全に外部企業頼みです。新型コロナウイルスが最初に流行した際に、マスクやガウンの供給が多くの病院でストップしかけたことは記憶に新しいでしょう。

そんな時に頼りになるのは、日頃関係性構築をしている企業です。いざ自院が大変な状況に陥った時に、普段から圧力をかけている企業がどこまで親身になってくれるでしょうか?

ビジネスの関係性ですので、契約書に基づく動き方は存在するにせよ、最終的には人と人のつながりの世界。緊急時に頼れるパイプを外部にいくつ持っていられるかが、病院運営の対応力の表れと言えるのではないでしょうか。

立場を利用した交渉行為は法に触れる可能性も

最後に、外部企業との関係性を持つ際の注意点について。

私もいまの企業に転職した際に知ったのですが、「優越的地位の濫用」「下請法」という概念のもとに、企業間の交渉は対等であるという考えが存在します。

もちろん、実際には発注元と受注元での価格をはじめとした交渉の繰り返しではあるのですが、企業間取引に存在する法令をきちんと理解することは、特に部署管理者には必須のスキルであると言えるでしょう。

◯優越的地位の濫用

自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対しその地位を利用して正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことです。この行為は独占禁止法により、不公正な取引方法の一類型として禁止されています。

◯下請法の存在

下請法は、下請代金の支払遅延等を防止することにより親事業者の下請事業者に対する取引を公正にし,下請事業者の利益を保護するために制定された法律であり,適用対象を明確にし,違反行為の類型を具体的に法定したことが特徴です。

例えば、下請事業者に責任がないのに親事業者が発注後に下請代金の額を減じることや、下請事業者からの請求書が提出されないことを理由に下請代金の支払日を遅らせることが禁止されています。

まとめ

今回の記事では、病院運営における委託・取引先企業との付き合い方について書きました。

病院自体でも人手不足が続く中で、外部企業と良いパートナーシップを結んでいくことは今後の病院運営において必要不可欠になっていきます。

業者との関係が、お互いにとって良いものとなり、病院から見て相手側の力を最大限に引き出せるようになっていけるようになるためにも、今回の記事がヒントになれば嬉しいです。

参考

www.synergy-marketing.co.jp

www.jftc.go.jp