東京都立病院での次期医療情報基幹システム更新についてまとめてみた

東京都副知事を務められている宮坂さんのXで、先日このようなポストがありました。

 

電子カルテの更新は病院の一大プロジェクトですが、それが都立病院の14病院合同のプロジェクトとして、しかも同一事業者の標準パッケージに更新するというのは前代未聞な規模。

東京都立病院機構のホームページにも、本件のお知らせが掲載されています。

期待する効果

(1)標準パッケージ・ノンカスタマイズで目指す「情報の標準化及びコスト削減」

 14 病院で同一ベンダーの標準パッケージ製品を導入することで、マスターなどシステム面から共通・標準化に取り組みます。これらの取組により、他医療機関や患者さんとの情報共有をより実現しやすくするとともに、マスタメンテナンスやシステム改修などの維持管理費用の削減を実現します。

(2)システムに合わせた業務の見直しを契機として進める「しごと改革」

ベンダーの標準パッケージに合わせて業務の見直しを図ることで、病院によって異なる業務運用の標準化・共通化を目指します。「14病院統合」の象徴的な取組として、全病院が一体となって様々な業務の見直しに取り組み、機構としての「しごと改革」も実現します。

(3)東京のモデル医療機関として牽引する「医療DXの推進」

更新に合わせて、AIや音声ツールなど先進的なサービスを実装することで、更なる医療の質向上や業務効率化につなげていきます。また、標準パッケージ導入で汎用性を向上させることで、他病院のモデルとして、国や都が進める医療DXの様々な取組を牽引します。 

参照:

「次期医療情報基幹システム開発作業委託契約」を締結しました(令和7年9月18日) | 東京都立病院機構

 

興味が湧いたので、どのような取り組みになっていくのか、まとめてみました!

 

三つの期待する効果とその論点

先に引用していますが、今回の取り組みでは大きく三つの効果が期待されています。

それぞれ、どのような論点がありそうかを見ていきたいと思います。

(1)標準パッケージ・ノンカスタマイズで目指す「情報の標準化及びコスト削減」

病院の電子カルテは、病院ごとにベンダーが異なり、かつ病院の運用フローに合わせたカスタマイズがなされるのが一般的です。

病院独自の運用を反映した「最適化」がなされるという見方もできますが、一方で長期的には電カル更新時にカスタマイズが複雑すぎて修正が難しくなったり、ガラパゴス化しすぎて、電カルの仕様がもとでかえって運用面に悪影響を与えてしまうことも。

 

今回は「マスターなどシステム面から共通・標準化に取り組む」と都のホームページには記載がありましたが、これが出来るとマスタメンテナンスやシステム改修などの維持管理費用の削減ができることはもちろん、他医療機関や患者さんとの情報共有をより実現しやすくなります。

医療現場のみなさんもこのメリット自体は理解していますが、いざ自部署の運用の話になると現行ルールをシステムに当てはめたい、という要望が多く出る中で、「標準パッケージ・ノンカスタマイズ」での医療情報システムの更新が出来るのか、という点は非常に注目度の高い取り組みです。

 

(2)システムに合わせた業務の見直しを契機として進める「しごと改革」

病院の電子カルテは「業務運用」の要になるシステムでもあります。

今回の取り組みを通じてベンダーの標準パッケージに合わせて業務の見直しを図ることで、これまでは「業務フローに合わせたシステム」だったのを「システムに合わせた業務フロー」にしよう、というのが今回の二つ目の期待として書かれています。

「14病院統合」の象徴的な取組として、全病院が一体となって様々な業務の見直しに取り組み、機構としての「しごと改革」も実現します。

 

上手く行くかどうかは、「電子カルテのパッケージに基づいた業務運用の標準化」ができるか否かに全てにかかってる感じがします。

電子カルテの更新準備の裏側で、先んじて院内の業務フローの統一も進めていく必要がありますので、病院関係者的にはこちらの方が大変な取り組みになっていきそうです。

一方で、ここまでの規模感で「業務運用の標準化」を成し遂げたケースはないように思いますので、非常にチャレンジングな取り組みだと感じました。

 

(3)東京のモデル医療機関として牽引する「医療DXの推進」

最後は、「医療DXの推進」とありますが、こちらは(1)・(2)で触れた内容と比較するとまだ全容が見えてこない印象。

「AIや音声ツールなど先進的なサービスを実装することで、更なる医療の質向上や業務効率化につなげていく」とありますが、こちらが電子カルテと連動する取り組みなのか否か、などなど、続報を待ちたいと思います。

 

Xでの反響

Xでも様々な反響がありました。

概ね好意的な受け止められ方のようですが、一方で医療現場でのカスタマイズニーズを肌で知っている方々からは「これを実現できるのか?」というのが最大の関心事のようです。

いくつか宮坂副知事のポストへの反響をまとめてみました。

 

あとは、「14病院の更新を44億円でNECはできるのか!?」というNEC側を心配する声も。対応する範囲などもここから決めていく段階なのかもしれません。

ちなみに、こんな記載もホームページにありました。↓

上記契約は、パッケージ製品及び導入作業等に関するものであるため、クライアント端末、ネットワーク整備、運用保守等に要する費用は含まれていません。

 

NECが展開する電子カルテの情報はこちらから↓

MegaOak/iS: ソリューション一覧 | NEC

 

まとめ

「国レベルでカルテが統一されていたら、診療の効率化や医療費の節約につながる」という話はよく言われますが、一方で各病院での事情や既に長らく動き出している歴史もあり、全統一は難しいのが実情です。

都内の広範なエリアにまたがるとはいえ、同一都道府県内で14病院が同一のシステムに更新していくプロジェクトは上記の考え方に近く、今後の医療の未来を考えるうえで非常に興味深いものになります。

始動したプロジェクトの続報を引き続きウォッチしていきたいと思います!