地図なき「下り坂」時代を生き抜く病院経営(インタビューVol.1)

新企画、インタビュー記事「病院経営に関わるあの人に聞きたい」の第一弾です!

今回は、昨年は医療マネジメント学会への参加をきっかけに交流をさせていただいているべりーさんにお伺いしました。

Xアカウント:https://x.com/berryrosso

 

医療介護の施設を広く見られてきた経験を飲み会でお聞きし、お話をもっと掘り下げて知りたいと思い、お声がけさせていただきました。病院経営への考え方や仕事への向き合い方など、みなさんの活力になるインタビュー記事となっております。ぜひご覧ください!

ーーーーーー

これまでのキャリア

キャリアの始まり:偶然の入職から本部勤務へ

ー早速ですが、べりーさんのキャリアについてお伺いさせてください。今の法人には新卒の時からいらっしゃるのですか?

はい、新卒の時からで、もう23年になります。きっかけは積極的なものではなく、大学時代はバンドに明け暮れていました。4年生の時は部長をしていたのですが、就職先が決まらないまま卒業を迎えそうになっていて、それを見かねた部活の顧問が「部長のお前が就職していないのはまずい」と、いくつかの企業を斡旋してくれたうちのひとつが今の法人です。

 

ーなるほど、医療業界に入るきっかけは顧問の先生の紹介だったのですね。

そうなんです。学生時代に医療業界や病院に特別関心があったわけではなく、本部スタッフ募集というのを見て「事務作業ならはできるだろう」というくらいの考えで試験を受けて、就職することになりました。

 

ー新卒で配属されたのはどのような部署だったのですか?

最初は法人本部の経理スタッフとして採用されたのですが、経理はもちろん、給与計算や法人単位での契約など様々なことに関わっていました。病院の診療報酬に直接触れる機会はありませんでしたが、会計処理やチェック作業を通じて、法人全体の収益や費用のボリューム感、お金の流れを俯瞰して把握できたことが新卒後の配属部署で得られた大きな経験でした。

 

施設の立ち上げや病院移転のプロジェクトに参画

ーその後、様々な現場を経験されていますが、どのような流れだったのでしょうか。

本部で3-4年働いた後、有料老人ホームを立ち上げる話があり、法人登記や借入れから任される形で立ち上げたばかりの別会社に出向しました。経理経験があって収支構造を理解しているだろうということで、若い時期に抜擢されたのですが、当時は「なぜ俺に?」と思いましたね(笑)

その後、一度本部に戻りましたが、今度は既存の病院の新築移転プロジェクトに投入され、移転が完了するまでおよそ5年ほど携わりました。

 

ー若くして、新しい事業所の立ち上げや移転などのプロジェクトに関わっていたのですね。病院の移転となると、老人ホーム立ち上げとはまた違った難しさがあったのでは?

病院は収支構造が複雑で、特に苦労しましたね。その病院の施設基準や算定実績をもとに収入を予測し、移転に係る費用(借入返済含む)とのバランスを調整する必要がありました。私は医事の専門ではなかったので、現場で医事業務に精通していた同僚とも密に相談をしながら数字を詰めていきました。その後は、同じく系列の精神科病院にも異動するなど、法人内の新しい動きがあるたびにあちこちへ行かされていましたね。

 

法人全体の経営を見渡す立場へステップアップ

各事業所での経験を経て本部での「経営戦略部」を立ち上げ

ー現在は「経営戦略部」という部署を立ち上げられたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか。

病院に配属されながらも法人全体の業績が芳しくなくなっているのを肌で感じていました。人口減少に加えて、複雑な医療制度が刻々と変わりゆくなかで、法人全体の経営を医師でもある理事長一人で把握し、判断し続けるのは非常に難しい。そこで、全体を俯瞰して経営に進言できる独立した部署が必要だと私から提案し、今のポジションを作ってもらいました。

 

ー各施設の事業継続には職員の雇用が重要なポイントになりますが、現状はいかがですか。

看護師などの有資格者は言うに及ばず、事務系の確保も深刻です。法人全体の事務方は50名ほどですが、6〜7割が40代以上で、20代は現状ゼロです。 採用しようにも、給与面で他業種に劣りがちであり、単純な「見栄え」の時点で負けてしまうのが非常に悩ましいです。

 

ーそのような厳しい状況で、どのような対策を打たれているのでしょうか。

今回の診療報酬改定を機に、事務職の給与を思い切って引き上げる方向で理事長と相談を行っています。 人件費を上げることに対し、「将来的に診療報酬改定で賃上げの項目が無くなり、梯子を外されたときにリスクではないか」という声も出ますが、私は「賃金を上げないことで人材やマンパワーが枯渇し、経営が成り立たなくなることこそが最大のリスクだ」と説明し、議論を重ねています。

 

ー誰かが旗を振らなければ、組織は変わらないということですね。

そうですね。賃上げについては各施設の事務長や本部の人事担当者も言い出しにくいと思います。それでも誰かが責任を持って口火を切り、「(今は特に)人に投資しないと事業が成り立たない」こと、それと同時に「投資しても事業継続できる資金的な裏付け」を理事長に理解してもらえるように取り組まなくてはなりません。これが私の、今のポジションに課せられた使命のひとつだと思っています。

 

ー地域の病院事務長のネットワークも構築されていると伺いました。

コロナ禍で一度途絶えていたのですが、他の病院さんと「共存共栄」でやっていくべきだと考え、再開させました。かつては隣の病院同士で、商売敵のようなイメージもあったかもしれませんが、今はどこかが欠ければその皺寄せがどこかに来るだけという状態です。定期的に近隣の事務長たちが集まり、診療報酬や補助金制度の情報共有、各病院の動向について意見交換をするなど、日頃の困りごとを本音で情報共有しています。

 

病院経営において重要な「三方のバランス」と難局の乗り越え方

ーここまで、キャリアの話を軸にお伺いをしてきましたが、改めて、べりーさんが病院経営において大事にしていることはなんですか?

私が大切にしているのは、「患者さんのため」「職員のため」「経営のため」という3つの要素のバランスを取ることです。

 例えば「患者さんのため」に寄り添いすぎると、採算性やオペレーション改善の観点が抜け、自由気ままな活動となってしまうでしょう。逆に「職員のため」と待遇改善にばかり腐心した場合には事業の継続性が損なわれます。かといって「会社のため」と人件費を削り、建物がボロボロだったりDXも進まない状態では結果的に患者も職員の心も離れてしまいます。

 

ー誰かがその「三角形」を維持し続けなければならないと。

そうです。重心は常に三角形の真ん中にいるわけではなく、時にはどこかに軸足を寄せることもありますが、その三角の中から重心が外れないように調整し、事業を継続していくための根拠を数字で示すのが、経営に携わる事務方の役割だと思っています。

 

ー病院経営のこれからの動向を、べりーさんはどう見ていますか。

今の医療業界は「未曾有の危機」にあると思っています。かつて診療報酬が右肩上がりであったころ、その後、診療報酬は横ばいだけれど需要が拡大局面で、かつ労働力の確保にも不安がなかったころまでは経営の難易度は今ほど高くなかったのではないでしょうか。

けれども、今これからは誰も経験したことがない「下り坂」の局面です。「誰もこの局面でのノウハウを持っていない」からこそ面白いとも言えますし、この局面をどう乗り切るか?をみんなで模索していく過程に大きなやりがいを感じています。ちょっとMな気質が求められるのかもしれませんが…(笑)

 

大切なのはポジションを取ることと仲間との交流

ー同じ業界で働く方へ伝えたいことはありますか。

医療業界が厳しい環境であることは紛れもない事実ですし、この環境の変化に追随しきれていない組織もたくさんあることでしょう。それでも必要以上に嘆いたり、悲観したりする必要はないと思っています。

もし、組織に不満≒改善の余地があるならば変えていきましょう。大丈夫です。先ほども話したように「誰もこの局面での絶対的な正解」など持ち合わせていないのですから。

その変革に組織内のポジションが必要であれば「変えるために自分がポジションを取る」という気概を持ってほしいです。ドラマ『踊る大捜査線』の中で、「正しいことをしたければ、偉くなれ」というセリフがありますが、「私のポジションではできない」と他責にするのではなく、組織を変えるためにそこまで登っていこうよ、と言いたいですね。

登っていくにあたっての近道は持ち合わせていませんが、それぞれの組織で「重宝がられる」ような人材になることをイメージすると良いのではないでしょうか。

 

ー熱いメッセージ、ありがとうございます!!私も、和久さんのそのセリフ、印象に残っています。

私も50歳が見えてきており、全力で動ける時間は限られていますが、これからは「人を残す」ことにも念頭に置き、医療経営を面白いと思ってくれる若い世代を育てていきたいと考えています。

 

ー最後に、事務職として成長し続けるためのヒントを教えてください。

私自身は、病院の中だけに閉じこもらず、外の世界や異なる価値観に触れることを大切にしています。例えば、学会への参加をしてみるだけでも、開ける視野があると思いますし、同業の仲間との交流を通じて刺激を受けることも多いです。

自己研鑽は「自分の貢献度を上げ、経営を継続させるための引き出しを増やすため」、それと同時に個人の「人間的な魅力アップ」のため、日々インプットも行うようにしています。 

 

ー本日はお忙しいところありがとうございました!また、学会の夜にピザを食べながら、いろいろお話させてくださいっ!

 

編集後記

第一弾から、かなり濃い内容のインタビューになりました!

私自身とべりーさんの勤務地は離れていますが、全国で病院経営のことを考え、ノウハウや悩みをシェアする関係がフラットに築かれているのがこの業界の面白いところだなーと改めて感じました。

 

また、インタビューの最後にべりーさんおすすめ書籍をお伺いしました。私もポチって見ながら、勉強したいと思います。

 

①「だから僕たちは、組織を変えていける」

組織マネジメントを考える一助として。

 

②「秋霜」

正しさの多面性や、仕事に対して自分なりの軸をどう持つかを考えるために。

 

③「貞観政要

リーダーとしての立ち振る舞いや、他者の意見をどう内包するかを学ぶ古典として。

 

改めて、インタビューにご協力をいただき、ありがとうございました!