インタビュー企画「病院経営に関わるあの人に聞きたい」の第二弾は、
病院某課の事務マン さんにお話を伺いました。
以前に私が地域連携のセミナーをする準備でお話をお伺いして以来、定期的にやり取りをさせていただいています。今回は、病院に転職した方のお話をもっと掘り下げて聞きたいと思い、お声がけさせていただきました。
病院では様々な仕事に関わる機会がある!ということがよく分かる内容になっていますので、是非ご覧ください!

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キャリアの原点:医療系民間企業から病院事務への転身
ー 早速ですが、転職で病院に入られたとのことで、前職での仕事内容や転職のきっかけを教えてください。
福祉系の大学を卒業後、臨床検査の会社に約10年ほど勤めていました。営業も行いつつ、検体回収や配送も行う業務でしたが、当時は本当に過酷な環境だった記憶が強いです。
ーどのようなスケジュールで働かれていたのですか。
取引先はクリニックが多く、診察が終わる18時半や19時頃に検体を回収しに行きます。そこから会社に戻り、ルーチンが終わるのが21時半頃で、役職に応じては更にデスクワークが始まります。 終電時間が23時40分だったのは今でも覚えています(苦笑)
深夜に帰宅するような生活が続く中で、30代を過ぎてもこの働き方を維持するのは難しいと感じ、転職を決意しました。
ー 病院を選んだのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。
前職の体験から、福利厚生や会社の安定性があるのは大きな判断基準になり、同じ医療業界の中でとあるグループ病院のエリア支部の採用に応募したところ内定をいただき、県内の急性期病院に配属となりました。
ー 実際に病院へ転職してみて、ギャップなどはありましたか。
衝撃的だったのは、「17時にちゃんと帰れること」です。周りが明るくて電車に人がたくさん乗っている時間帯に帰れることが信じられず、とても嬉しかったです。(笑)
ー 勤務時間なども含めて、ある程度想定した通りの転職になったのは本当によかったですね!今年でいまの病院に勤務されてちょうど10年目になるとのことですが、これまでにどのような部署を経験されてきたのですか?
最初に地域連携課に配属されて4年、その後経営企画課に3年、人事課に2年いて、今の部署(DX推進室・地域連携課の兼務)という流れです。
10年間の歩み:地域連携、経営企画、人事の三部署を経験
【地域連携課時代:前職の強みを活かしたスタート】
ー 最初に配属された地域連携課での業務はいかがでしたか?
前職の経験から周囲の病院や機能もある程度把握していましたし、医療知識が身についていたおかげで院内外の医療職との会話もしやすかったので、仕事自体はスムーズに入り込めたと思っています。この点は、前職の経験が非常に活きましたね。
後半の二年は、係長に昇進しマネジメントの経験も積むことが出来ました。

【経営企画課時代:コロナ禍での「不完全燃焼」と思い出に残った仕事】
ー その後、経営企画へ異動されたのですね?
はい。ただ、時期がちょうどコロナ禍と重なってしまっており、自院の急性期機能も高いため、病院全体がコロナ対応に追われました。経営企画としても緊急度の高い業務に忙殺され、取り組みたいと思っていた広報活動などをする余裕もなく、正直、かなり「不完全燃焼」な期間でもありました…。
ー そのような中でも、印象に残っている仕事はありますか。
思い出に残っているのは、地元の小学校から病院宛に、応援メッセージをもらったことです。私は、これをただ掲示するだけでなく、絶対にお返事をしたいと思い、院内の医師や看護師に呼びかけて、結果的に100通以上の返事を集めることが出来ました。それを小学校に届けに行ったら、校長先生がわざわざ全校児童を集めてくださり、子ども達の前でお礼を伝える機会を作ってくださいました。医療者への偏見もあった時期でしたが、このような交流ができたのは本当に嬉しかったです。

【人事課時代:管理職として必須の経験と信頼】
ー その後、人事課へ異動されたのですね。
はい。これまでの部署は現場とも近かったですが、人事課では病院の最前線の情報――例えば、いまどのような患者が多いのか・各部署でどのような動きをしているかといった情報が、公表される数値以上には入ってこないんです。病院の中にいるのに病院っぽくない、ガラパゴスのような感覚がありました。
ー 現場から遠ざかるもどかしさはなかったですか。
もちろんありましたが、管理職を目指すなら人事は絶対に経験しておくべきだとも思いました。人事で特にありがたかった経験は、1年目に事務職のスタッフレベルでの「人事異動の素案作り」を任せてもらえたことです。
ー 多くのスタッフの人事異動を考えるのは大変な重責ですね。
そうですね。各職員から取っている希望を考慮しつつ、「この人は対人関係が得意だから交渉事を任せられる業務につけた方がいい」「この人はデスクワークよりフットワークを生かす方が向いている」といった視点で、一人ひとりの能力が活きる配置を自分なりに組み立て、最終的に私が考えた案がほぼそのまま次の年の運用に採用されたんです。
異動後のスタッフが強みを生かして働いている姿を見れたのはとても励みになりましたし、上司からは自分が考えた人事案を信頼してもらえたことが実感できて、人事という仕事のやりがいを感じました。
【再び地域連携課へ】入り口から出口までを統括する立場に
ー 様々な部署を経て、昨年からまた地域連携課に管理職として戻られているのですね。
はい。地域連携室は「前方連携」を担う事務スタッフと「後方連携」を担うソーシャルワーカーが在籍しており、課長として入り口から出口までを両方見ている形になります。
ー 管理職の立場としてのコミュニケーションで意識されていることはありますか?
自分の心の中で結論が決まっていても、「一旦、部下や担当者の話を聞く」ということを心掛けています。定期的な人事考課面談以外でも、10分、15分と個別に話をする機会を作る。トップダウンで決めるのではなく、相手の気持ちを聞いてから動く方が、結果的に物事は円滑に回ります。
これからの展望:「病院の常識」からの脱却とAIの活用
【病院事務に求められるスキル:コミュニケーションと「貸し借り」】
ー ここまではキャリアのことをお伺いしてきましたが、病院経営を支える事務職として、改めてどのようなスキルが重要だと感じますか?
やはり、第一はコミュニケーションです。病院は多職種で構成されており、どうしても医師を中心とした構造があったり、事務方でも縦割りな部分があります。その中でも、自分から挨拶を率先して行う・ちょっとした話をしてお互いのことを知るなどして人脈を広げておけば、いざという時に他部署に助けてもらえる。これが仕事のやりやすさに直結します。
ー 他部署との連携についてはどうでしょう。
少し変わった言い方かもしれませんが、「貸し借りを作る」ことですね。縦割りな組織であっても、自分たちから「今回はこれを引き受けるよ」と貸しを作っておけば、次に何かをお願いする時に乗ってくれやすくなります。

ーこの辺りは、前職の営業経験も生きていそうですね!
まさにおっしゃる通りで、これは前職の営業時代に身についたスキルですが、相手を嫌な気持ちにさせずに自分の意見を適切に伝えるアサーティブコミュニケーションは、病院事務でも非常に重要だと思います。
【これからの展望:AI活用と「病院の常識」からの脱却を目指して】
ー 昨年新設された「DX推進室」にも兼務で関わられているとのことですが、1年目として具体的にどのようなトピックがありましたか?
一番の成果は、8月に厚生労働省の「ICT活用による環境改善のモデル事業」に応募して、大きな金額での補助金が通ったことですね。
ー それは、非常に大きな成果ですね!その補助金は、具体的に何に活用されているのでしょうか。
院内PHSからiPhoneへの切り替えや、AIが退院サマリーを自動作成してくれるツールの導入などに活用させてもらっています。ICTは初期投資が必要ですが、こうした補助金制度にうまくアンテナを張りながらICT導入を進められたのは、新設部署として大きな一歩だったと思います。
ー 今後の病院事務の仕事のあり方について、どのように考えていますか。
病院事務こそ、もっと業務を楽をするためにAIを積極的に使うべきです。今はサマリー作成や画像診断での活用が注目されていますが、事務の仕事もどんどんAIに置き換わっていくでしょう。直近の診療報酬改定でも議論されていますが、例えば医師事務作業補助者は、今後はAIの活用に伴い人数規定すらなくなるかもしれない。そう言った前提のもとにAIの活用の幅を広めていくべきだと考えています。

ー 人手不足の中で、効率化は避けて通れない道ですね。
はい。少ない人数で回すにはITの力が不可欠ですが、病院業界は「IT活用はなんだか難しそう」と保守的になりがちです。でも、民間企業は当たり前にできていることが、病院内の職員にできないはずがないですし、実際に先駆的な病院ではIT活用で一歩も二歩もリードしている話をよく聞きます。
私は「病院の常識は世間の非常識」だとも思っています。転職組で外から来た人間として、こうした閉鎖的な慣習や思い込みを打破し、世間の常識を病院に取り入れていきたい。それが私の今の思いですね。

ー 事務マンさんのように、他企業の経験も踏まえて病院で活躍される方が増えると、病院の中もより活性化していきそうですね。民間企業から転職される中で、様々な部門を経験されたお話、大変勉強になりました!本日は本当にありがとうございました!
編集後記
今回の記事では取り上げきれませんでしたが、事務職としての災害派遣の経験もお持ちとのこと。
家族や友人に「事務が何しに行くの?」って言われるけど災害時のロジの重要性をもっと知ってほしい。医療行為“以外”のほぼ全てをやるんです。
— 病院某課の事務マン (@renkeiman_who) 2024年1月7日
車両の運転、災対本部での記録やブリーフィングへの参加、メンバーの食事や翌日の資材準備、活動後の日報作成など。
日陰の存在ですが頑張ってるんです。 https://t.co/Zp4AJGOr29
病院事務職には、医療において多種多様な仕事に関わる機会がある、という点もこの記事で知ってもらえたらよいなと思っています。
なお、NotebookLMで今回のインタビューのスライドを作っていたところ、最後にこんなスライドを生成してくれました。

今回のインタビューを通じて、転職先としての病院、ということも発信出来ていたら嬉しいなと思います。
改めてインタビューへのご協力、ありがとうございました!