病院の中で発生する業務は様々ですが、業務内訳をみると、どの部署もルーチン業務が非常に多いです。
クリニカルパスが導入されていくと、治療はどんどん標準化の方向に向かい、医師のオーダーとパスに基づき医療者がケアを提供してくことになります。
事務部門でも、私が前に所属していた医事部門では患者対応、電話対応、レセプト点検など、1日、1週間、1か月の単位でやることがほとんど決まっていました。
最近思うのは、「ルーチン業務の効率化」と「マルチな能力を持つ職員の教育体制」はトレードオフの関係にあり、非常に難しい問題だなーということです。
医事部門の入院患者の会計・DPCコーディング・レセプト業務を例にとってみると、
ルーチン業務を委託化しているA病院と、ルーチン業務も含めて職員が行うB病院では、業務分担がこのようになっていることが多いです。
A病院 | B病院 | |
①医事会計の作成 | 委託 | 職員 |
②DPC仮コーディング | 委託 | |
③DPCコーディング | 職員 | |
④退院日前日の会計確認 | 職員 | |
⑤請求書発行 | 委託 | |
⑥レセプト点検 | 委託 | |
⑦DPCエラーチェック | 職員 | |
⑧査定・返戻対応 | 職員 |
A病院の方が①~⑧までの業務分担としてはシステマチックに対応できているとも思うのですが、
一方で①会計作成を通じて病棟や手術室で、だれが、どのようなタイミングで治療をしているのか把握するという点では、日常業務でカルテをあけながら会計を作っているB病院の方が優れているのかもしれません。そして、そのような病院の流れを日常業務の中でつかめていることは、他の部署に異動した時に、その職員の財産になります。
また、提出したレセプトに対して審査結果が戻ってきて対応が求められる⑧の査定・返戻対応業務についても、なぜ審査を受けてしまったのかを自分のこととして考え、①や②の業務フローから素早く見直すことのできるという点からは、B病院のやり方もある程度理にかなっています。
このように、「業務フローごとに業務を分担する」ということにも一長一短があります。短期的に見れば業務分担したほうが都合がよくても、5年、10年というスパンで職員を育てるという意味では、ルーチン業務にある程度人手と時間をかけることが必要なのかもしれません。
ちなみに私としては、A病院とB病院のやり方をミックスする案がよいと思っています。
原則はA病院方式だが、新入職員には一定期間B病院のやり方で仕事を覚えてもらってからA病院方式に入り、委託業務の含めた仕事の流れを整理・改善していってもらう、という考え方です。…非常にありきたりな考え方ですが。。
ちなみにこのことを書こうと思ったきっかけが、薬剤室で入院患者向けの注射薬をあらかじめ薬剤師が調剤して、病棟に搬送するという取り組みにまつわる看護部の変化を見たことです。
病院が最近取り組み始めたプロジェクトで、
・調剤環境の清潔化・標準化
・病棟看護師が調剤するよりも、薬剤師が調剤をした方がミスが起こりにくい
・調剤業務に関する看護師の負担減
と、医療安全の観点から、病院にとってのメリットは大きいものがあります。
病棟看護師は常に3~4人の受け持ち患者に対応しながら薬の準備、食事の配膳下膳、バイタル管理など多重業務をこなさねばならず、その点では調剤業務などで注意が散漫になりやすくなりミスが起こりやすい環境にあるからです。
しかし一方で、「調剤されていない注射薬を投与しそうになった」というヒヤリハットが、若い職員を中心に少しずつ出始めているようです。看護部の管理職も、「調剤業務が薬剤師に移行するのは助かるが、看護師の調剤スキルが低下し、患者が具合が悪くなった時に病棟で緊急で調剤が出来なくなるのでは…」と少し不安視していました。ちょっと怖い話ですね…
ということで、業務効率化を図る際には、そこで働く職員のスキル維持も念頭に置く必要があるのでは?、というお話でした。