退院当日の看護師業務を削減するカギは、退院前日の医師の業務にあった!

全国各地の医療機関での新型コロナウイルスへの対応が長く続く中で、特に最近叫ばれているのが「病棟看護師の疲弊」です。(病院内で働いている身からすると、コロナ関係なくもともと忙しい方々ですけど…という感じでもありますが。。)

特にコロナ患者を受け入れる病棟の看護師の方は、ベッドサイドでのケアにかかる肉体的・精神的な負担が人一倍かかるはずですし、同じ医療機関で働くものとしても頭が上がりません。

看護師の疲弊は離職につながり、看護師の高い離職率は病院のケアの質低下にも直結します。それを防ぐためにも、以前経営企画の部署にいた時、看護部から相談を受けて「看護師の業務改善」の仕事に関わったことがありました。

今回はその中で、当時の上司が進めていた改善事例の中で、特に自分が印象に残っていたものを少し紹介したいと思います。

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「退院当日の看護師業務を削減してほしい」という依頼

各病棟の看護師をヒアリングしていた中で、看護師から上がった意見の一つに「患者が退院する当日の業務が多いため、朝早くから出勤してその準備する必要がある」というものがありました。

退院当日に病棟の看護師が担当する業務をヒアリングすると、

・退院薬の準備(with薬剤部)

・薬剤指導に入る患者の調整(with薬剤部)

・退院時の療養計画書や退院証明書の準備(with医師、医事課)

・退院後の生活指導(with医師)

・退院会計ができたか確認(with医事課)

・退院後の再診日確認(with医師)

と、かなり業務が多く確かに忙しそう。

私の働く病院では、午前中に入院患者が来院し、退院患者は帰っていくので、これらの退院患者への対応や業務記録に加えて、入院患者の対応も同時並行で進めなくてはいけません。(将来的には、午前退院・午後入院で患者のピークがずらせればもっと良いと思うのですが。)

 この現象を見ると、午前の業務負荷を減らすために

「看護師の午前のシフト人数を手厚くする」

「書類の準備は事務スタッフに手伝ってもらう」

など、人やお金を投入する、または一部の仕事を別の部署にお願いするといった解決策が出そうですが、上司の考えた解決策は違うところにありました。

 「医師に退院前日の早い時間に退院のオーダーを入れてもらえばいいのでは?」

退院前日の医師の動きが退院当日の看護業務に直結する

患者の退院日に実際に手を動かしているのは看護師ですが、退院することを決めるのは医師です。

つまり、医師が退院前日までに退院日を決定し、早いうちからカルテに退院オーダー(+必要な書類の作成や、退院日に渡す処方のオーダーなど)を出しておけば、看護師が忙しい退院当日の午前に準備すべき業務を、入院患者・退院患者の動きが少ない退院日前日の午後にできるわけです。

退院日の業務を「①前日までに出来るもの」「②当日しか出来ないもの」の二つに分け、①については前日までに済ませてしまえるような仕組みを作ればいいのでは?、というのが上司のアイデアでした。

このような考えのもと、上司は「退院当日の看護師業務削減」のための問題点を、「退院前日に医師が退院を決定し、必要事項を全てカルテに入力すること」という業務に設定したのです。

医師が早く退院オーダーを入れたことによる効果

実際に調べてみると、退院オーダーをカルテに入力する時刻は退院日前日の夕方以降(=夕方の回診が終わってから)が多かったのですが、その頃には日勤の看護師は夜勤の看護師に申し送りをして日中業務は終了しています。その結果、人数の少ない夜勤帯スタッフや、翌日の日勤帯のスタッフが退院の準備に追われていました。

そこで診療科別・医師別にいつ退院オーダーを入力しているかを調査・フィードバックし、「退院オーダーを早く入れましょう」というキャンペーンを張ることにしました。

具体的には、「出来るだけ退院に関わるオーダーは退院前日の12時までに出しましょう」と目標を設定し、院長からの発信という強力な援護射撃ももらいながら、医師の行動を変えていきました。(退院当日にオーダーを出した医師に院長が直接電話をして叱った、というエピソードがあったらしく、医師の行動はすぐに変わっていきました…)

その結果、かなりの病棟で退院日前日までに退院処方や退院時に必要な書類を準備することができ、退院当日の看護師業務削減に見事成功することができました。

ちなみに退院予定が早く分かるようになったおかげで、薬剤師も退院処方や薬剤準備をしやすくなり、退院会計を作る医事課の仕事も楽になった、というおまけエピソードまでついてきました。

様々な業務が絡み合っている退院当日の看護師の動きの中から、「退院前日の医師のオーダー入力」という問題点を設定し、そこにアプローチしたこの上司の仕事は、今までの社会人生活の中で特に印象に残っている仕事の一つです。

病院内における優れた問題解決には、優れた問題点の設定が必要である、ということを学ばせてもらった事例でした。