コロナ後の面会制限による影響を考える

新型コロナウイルスの流行下で病院が最も恐れていることのひとつが、院内感染の発生です。

病院側と外部の来院者との接触を減らすための取り組みとして、3月~4月にかけて、「患者さんとの面会を原則禁止」とする医療機関がほとんどになりました。流行の最中でも「面会者がきっかけとなった院内クラスター」というニュースは聞いたことがないので、この状況下で取った面会制限には一定の効果があったと言えるでしょう。

一方で、やはり入院中の患者さんと面会が出来ないご家族には、大きな心理的負担や不安がかかっていることも事実だと思います。私の部署は入院患者さんの対応をメインにしているので、面会希望者からの問い合わせも数多く受けました。

今回は、そんな問い合わせ対応などから私自身が感じた「面会」が持っていた患者さん家族にとっての役割と、コロナ以後の面会に代わる患者さん家族とのコミュニケーションの在り方を考えたいと思います。

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「入院患者との面会」が備えていた3つの役割

今回の面会制限に関わる対応の中で思ったのが、「入院患者さんとの面会」には、ご家族にとって様々な役割があったということです。

私が特に感じたのは、以下の3つの役割です。

➀患者さんの顔を見て話をすること

②病院スタッフとコミュニケーションを図ること

③病院全体の様子を見ること

それぞれどういった役割があったのかを説明していきます。

➀患者さんの顔を見て話をすること

ひとつめは、いわゆる「入院患者との面会」に求められる役割です。

入院して心身共に弱っている患者さんに会いに来て、話し相手になったり励ますこと。

一時的に離れて生活することになった家族や同居人の様子を見に来ること。

入院生活において、患者さんの精神面でとても重要な役割を「面会」が担っていたことに改めて気づかされました。自分も祖父母が入院した時に面会に行ったことは今でもよく覚えています。これが制限されるというのは、患者さんとご家族の双方にとって大きな負担になっていることと思います。

②病院スタッフとのコミュニケーションを図ること

ふたつめは、面会を通じた医療者とのコミュニケーションです。

「面会者による患者さんの情報収集」と置き換えてもよいと思います。

面会が原則禁止になってからというもの、「病院からの連絡が特にないのですが、いま患者さんはどのような状態になっていますか?」という問い合わせが一日に何件も存在しています。ただ、個人情報の兼ね合いもあって当院では先方からかかってきた電話での病状説明は出来ないことになっており、

・申し訳ないがこの電話では医師や看護師から説明は難しいこと。

・病状については都度、医師や看護師から連絡をさせていただくこと。

を説明して、お詫びしてお電話を切らせていただいています。

しかしこのような電話というのは、以前の面会対応が通常通りに出来ていた時期にはほとんどないものでした。

これで改めて気づいたのですが、「患者さんのご家族は、面会を通じて医療者ともコミュニケーションを図っていた」ということです。医師の回診や看護師のラウンドに立ち会う中で、現在の病状や退院の見込み、使用されている薬剤の効能や今日行われた処置の内容などを、患者さんだけでなくご家族も面会の都度にアップデートしていたのだと思います。

これがコロナウイルス流行以後は、病院からの来院依頼がある時のみの面会になりました。この結果、家族が医師や看護師から「少しずつ良くなっていく(または悪くなっていく)」経過を聞くことが出来なくなりました。この点も、ご家族にとって大きな心理的な負担になっていることと思います。

またこのことは、病院のインフォームドコンセントの在り方に実は大きな影響を与えるのではないかと思っています。(詳しくは後述します)

③病院全体の様子を見ること

最後は、「患者さんが入院している病院がどのような施設やレベルなのか」という点も、実は面会を通してみられていたのではないかと感じています。

・治療を担当してくれる病院スタッフの感じがいいか

・病棟や病室は整理整頓、清潔な環境になっているか

・周りにいる病室の患者さんやご家族はどのような方なのか

などなど、病院に実際に来ることで副次的な情報を多く仕入れていた気がします。

②の医療者との立ち話を通じた情報と加えて、いま居る病院が信頼に足る病院か、またその病棟や病室の雰囲気から、患者さんの置かれている状況も感じ取っていたのだと思います。

オンライン面会の可能性と限界

このような状況の最中、面会制限への対応策として「オンライン面会」を導入する病院も増えてきているようです。技術的には、SkypeやZoomなどの無料テレビ電話のツールを使用すればOKですので、あとは院内のインフラと担当者、運用の仕組みを整えれば全国どの病院でも可能になります。

患者さんやご家族の気持ちを考えて、現場対応で忙しい中でもこのような施策をいち早く導入されている病院さんは本当に素晴らしいと感じています。

medical.nikkeibp.co.jp

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一方で、

・医療者との立ち話による情報収集

・病院全体の様子を見る

といったことについては、病院内で見聞きしたことが重要な情報になるため、残念ながらオンライン面会では補完することが難しいでしょう。

面会制限が今後も続くのであれば、オンライン面会に加えて、「ご家族への患者さんの情報の定期的な提供」という切り口も、病院側では検討が必要になってくると思っています。

今後のインフォームドコンセントの在り方も変化?

コロナウイルス流行に伴う面会制限以後に、私が請求関係で担当させていただいていた患者さんのご家族から、面談時にこんなご意見(クレーム)をいただいたことがあります。

「家族には患者に会うなというのに、病院側からは定期的な状況報告がないし、かと思えば重要な意思決定が必要な場面で突然に呼び出される。家族側で状況整理や心の準備が出来ていないうちに、病院側の都合で話を進めようとするのはどうにかならないのか?」

その場ではお詫びすることしかできませんでしたが、病院側で今後十分に考えなくてはならないご意見だと感じました。

これまでは面会を通じて当たり前のように出来ていた積み上げ式の情報共有が出来なくなることで、病院側と家族側のインフォームドコンセント時のコミュニケーションエラーが起きる可能性は高くなるのかもしれません。病院側でそれに対して手を打っておくことは、結果的に病院を守ることにもつながるでしょう。

重要になるのは、やはりインフォームドコンセントでの意思決定以前の、「段階的に病状を理解してもらい、次の意思決定を考えていく」という病院側のコミュニケーションになると思います。

私が考えうる対応策としては、いまのところ以下のような感じです。

・電話やオンライン面会システムを通じた、医師・看護師とご家族による相談時間の設置(大学で言う、生徒が先生のところに行って話を聞けるオフィスアワーのような時間。事前予約制だとなお運用しやすいかも。)

・メールを通じた、患者家族への日々の治療経過やバイタル等の簡易報告(→質問点は次の日の相談時間に問い合わせてもらう)

・回診のタイミングでの面会許可(面会の回数・時間はもちろん制限。面会をゼロにするのではなく、最小化するという考え)

もちろん、これ以外にも様々な対応策があると思います。この辺りは実際に臨床にあたられている方々のご意見も聞いてみたいところです。

最後に…

今回の新型コロナウイルスの流行をきっかけに、感染予防の観点から面会に関するルールがかなり厳しくなることは、どの医療機関でも避けられないことになると思います。

感染症が落ち着いた段階で、対面での面会をどの程度許容していくか、また面会回数を制限するのであれば、ご家族とのコミュニケーションをどのような方法で図っていくのか、各医療機関で検討すべきものになるでしょう。そしてその結果が、病院側と患者さん/ご家族側で足並みを揃えて医療を提供する、新たな道筋になると思っています。

ちなみに「患者参加」による意思決定の在り方として、以下の記事がとても参考になりました。 

project.nikkeibp.co.jp

面会から話は飛躍するかもしれませんが、記事の中で引用されている米ハーバード大学公衆衛生学教授のアトゥール・ガワンデ氏による次の言葉を、今一度考える時期に来ているのかもしれません。

「医療者は医学の仕事を誤って理解していた。我々の仕事は健康と生存期間延長を目指すものと考えてきた。しかし、本当のところ、それ以上のものである。ウェルビーイング(well-being)を可能とすることであり、ウェルビーイングこそ、私たちが生きたいと願う理由である」