「営業活動から考える医療連携」というテーマで記事を書いてきていますが、今回のテーマは「患者さんの受け入れをスムーズにする院内体制の整備」です。
各営業プロセスの概念や、PR・広報戦略をご紹介してきた前回までとは異なり、今回はコテコテの病院業務に関する話となりますが、一方でだからこそ医療連携の足場固めとして非常に大切であり、病院の実力差がが出てくる分野であるとも言えるでしょう。
今回はこの領域の業務を、「医療連携室における内勤営業」という表現を用いながら、ご紹介していきたいと思います。
前回までのおさらい
・病院における集患活動を四つのプロセスを置き換えて、どのような業務が発生しているのか?を考えてみると新しい視点が生まれそう。
・各施策のプロセスで共通のKPIを追いかけながら、分業体制を敷くことで集患活動の効率化を図れるのでは?
病院における内勤営業とは?
「外勤営業」はよく耳にする言葉ですが、「内勤営業」は特に病院関係者の場合、あまり耳にしない言葉だと思います。
一般企業における内勤営業は英語ではインサイドセールスと呼ばれ、見込み顧客に対して、メールや電話などを活用しながら非対面で営業を行い、アプローチやアポイント取得を行うポジションを指します。
一方で病院の場合、もちろん患者さんへのDM送付やクリニックへのテレアポなどはすることができません。そういう意味では、企業側から顧客側に積極的に接点を持ちにくい病院業界はやはり一般の営業プロセスではくくりにくい構造にあると言えるでしょう。
今回は、「病院における内勤営業=患者さんの紹介・受診につながるための体制づくり」と定義し、その領域での活動内容を考えていきたいと思います。
対患者さん:スムーズな受診のコーディネート
まず、対患者さんでどのような業務があるでしょうか。
考えられるものとして、以下のような業務が挙げられます。
- 受診問い合わせへに対する院内コーディネート・紹介先案内
- 紹介患者さんの対応(当日受診の調整、紹介状の処理など)
- 窓口での適切な逆紹介の推進
- 医療連携室が持つ紹介枠や検査予約枠の管理
- 紹介・逆紹介情報の整理
これらの業務の多くには「当日の受診受け入れ」「逆紹介先のアレンジ」など、マニュアルだけでは語れない知識と経験に基づくアドリブが必要な要素がたくさん詰まっています。
病院のことをよく知った人たちが患者さんにあった受診をアレンジし、またその対応を定期的に院内のフローに落とし込んでいくという循環が、スムーズな受診体制を生み出しています。
対医療機関:自院との定期的なタッチポイントの確保
次に、連携先医療機関との関係性構築です。
日常の患者さん対応は医療機関にとって最重要業務ですが、それと並行して新規に患者さんを獲得するのための医療機関との関係性づくりも同じくとても大切になります。
ここで皆さんが思われるのは、「各医療機関に訪問しての営業活動」かもしれませんが、その他にも医療機関との関係性づくりで出来ることはたくさんあります。
- 登録医登録・更新のための定期連絡、刊行物送付
- 院内での症例カンファレンスへの招待連絡
- 訪問活動の準備(Telアポ、営業リストやチラシ作成等)
これらの業務は地道なものですが、各医療機関へ連絡をする際にその時々の院内の状況も踏まえながら、端的にやり取りをしていくことは簡単なことではありません。また次の記事で触れたいと思いますが、この辺りの内勤担当者の支援がどれくらい日常的に得られているかが、外勤で営業をする担当者の業務効率にも直結することになるはずです。
内勤担当者を中心とした患者さん受け入れの事例
ここまで、「対患者さん」「対医療機関」という二つの視点から、内勤担当者が行う医療連携業務について書いてきましたが、ここからは患者さん受け入れをより効率的に行っている事例をご紹介します。
事例①:乳がんに関する診察を希望する患者さんの受診コーディネート
急性期病院を受診する患者さんは、近隣のクリニックからの紹介状を持って予約を取得します。急性期病院からすると、「紹介された患者さんの入院適用率」が重要な経営指標の一つとなりますが、全ての紹介患者さんが専門医を通って受診するわけではありません。ともすれば、初診枠の患者さんが実際にはほとんど入院適用がなかった、なんてことにも…。
この対策として、とある急性期病院では乳がんが疑われる患者さんの初診予約を取る際に、「がん診断のために必要な検査の有無」を予約時に確認し、検査をしていない患者さんにはまず提携している乳腺専門クリニック受診をご案内しているそうです。その上で、その検査結果としても急性期病院における加療が必要となった場合には、すぐに予約を取って受診できる体制づくりを行っているとか。
このような取り組みを実施することで、以下のような三方よしの効果を見込めます。
- 急性期病院…より入院適用率の高い患者さんに受診してもらえる体制構築
- クリニック…急性期病院と連携することで患者さんを受け入れ可能に
- 患者さん…急性期病院以外での専門クリニックのかかりつけ医に出会える
「急性期病院を受診する際には紹介状が必要」というのは、急性期病院が高度医療に集中するための制度ですが、そこからさらに一歩踏み込んだ施策であると言えます。
今回は乳腺領域のケースを紹介していますが、消化器疾患など他の領域でも応用ができそうですね。
事例②:入院治療につなげるための外注検査
外注検査とは、地域医療機関から受ける検査予約のことです。(「医療機器の共同利用」とも呼ばれたりします)
入院適用か否かを判断する検査になるのでうまく運用できると経営効果も大きいですが、一方で検査後のフォローは紹介元で行われるため、その後に入院してもらうためのアプローチが間接的になるという難しさがあります。
この対策として、とある急性期病院では外注検査後に作成する診療情報提供書にひと手間を加えています。
例えば、心臓CTを受けた患者さんであれば、放射線科医による所見と診断だけでなく、循環器内科医にも治療方針を書いてもらったうえで、紹介元のクリニックに渡します。そうすると、この診療情報提供書をみた医師は「ここまで治療方針を書いてくれているのなら、検査をした病院に紹介しよう」と、入院治療を依頼される可能性が高くなるそうです。
診療科間での協力や、医師のマンパワーの課題もありますが、急性期病院のメリットを生かした外注検査の返書運用が重要であると言えるでしょう。
まとめ:内勤営業こそが患者受け入れ体制のカナメ
ここまで、「内勤営業」という言葉を定義しながらその業務をご紹介してきましたが、私自身はこの患者さんからの問い合わせ対応や、各医療機関からの受入対応の精度こそが、病院の評判に直結する最も重要なポイントであると考えています。
新しい患者さんを獲得するためのPR・広報や営業戦略はもちろん大切ですが、各医療機関との関係性を考えると、「いかにリピーターとして新たに紹介してもらう患者さんをいただけるか」という点も同じくらい大切になります。
そのことを考えると、医療連携の足場固めとしてますやらなければいけないのは、今回紹介したような「患者受け入れをスムーズにする院内体制の整備」であると言えるかもしれません。
非常に地道で、目に見えにくい業務の積み重ねではありますが、この領域を日々磨き続けている病院こそが、「地域に愛される病院」になっていくでしょう。