病院におけるWi-fi提供問題を考える

先日、Twitter「日本の病院にはWi-fiが通ってなくて不便すぎる。サービス向上に努める姿勢がまるで感じられないし、今の時代ありえない!」みたいなツイートから病院におけるWi-fi提供問題の議論が盛んになりました。(定期的に、この議論起きてますね笑)

一般の方にとっては「そうだそうだ!」となる部分がある一方で、病院関係者にとっては「そんなこと言われても、みんなが使えるフリーWi-fiに投資できる病院なんてなかなかいないよ…」と思われた方も多いはず。

今回は、「病院におけるWi-fi提供問題を考える」というテーマから、現状の病院を取り巻く状況の整理と、いまから考えられるWi-fi提供方法を考えていきたいと思います。

病院にホテルと同じサービスを求めるのは難しい

①診療報酬制度では患者サービス向上をしても収益につながらない

この議論で持ち出されるのが、「全国のホテルではWi-fiがあるのが当たり前。それなのに、入院生活の長い病院では、なんでWi-fiくらい用意できないのか」というもの。

これに対する答えとしては、「病院経営は保険診療による診療報酬から成り立っており、Wi-fiなどの診療報酬にならない設備投資は全て病院側の持ち出しになってしまうから」と言えるでしょう。

病院側からすると「Wi-Fiを院内の患者さん用に飛ばす」ことはサービス向上になることは理解できている一方で、それによる診療報酬(病院収益)は全く増えません。一部の病院では全患者向けに開放されているWi-fiがありますが、それは収入の一部を自腹を切ってそのようなサービス拡大に充てているわけです。ここに、Wi-fiのようなサービスも加味された自由な値付けをすることが可能な民間サービスとの決定的な違いがあります。

公的価格の診療報酬制度のもと、極端な黒字が出にくい構造になっていることを鑑みると、病院側から見て患者さん用Wi-Fiへの投資はどうしても後回しになってしまうのは紛れもない事実でしょう。

②病院内のネットワーク管理が最優先課題

病院の中には、電子カルテをはじめとした様々な医療システムに関連するネットワークが存在しています。そこには患者さんの個人情報が多く集約されており、情報システム部門を中心に日々目を光らせながらその管理を行っています。

特に最近は、病院のネットワークを狙ったサイバー攻撃も増えてきており、セキュリティ強化が最優先課題となってきています。そんな状況下の中、もちろん院内用の回線を患者さん用にも提供するなどはできるはずもなく、対応するなら別の回線を引く必要があります。

そんなマンパワーのかかる情報システム管理が日々ある中で、費用対効果を考えると患者さん用Wi-fiにあまりパワーを割くことができず、結果的に優先順位が下がっている病院も多いのではないでしょうか。

Wi-fiの利用を管理・運用できる人がいない

最後が実務面なのですが、院内Wi-fiサービスに対して患者さん向けに誰が説明や対応をするのかと言うのが院内関係者の中で非常に揉めやすいポイントだったりします。

この業務について、情報システム・医事課・病棟看護師の三者間での押し付け合いになることが容易に想像できます。実際に自分も医事課勤務の時は、「患者さんのWi-fiが繋がらないからなんとか対応してくれ」と担当者でもないのに病棟から呼び出されたことが何度もありました…。

各担当者とも忙しい中で、Wi-fiの面倒を見ることに手上げすることができないというのも実は整備が進まない一つの理由なのではないかと思います。

患者さん側から見たWi-fiの必要性

Wi-fiはもはや必須インフラの時代

次に、患者さん側の視点に立って考えてみたいと思います。

「病院はホテルじゃないんだから自前で用意しようよ」という意見は病院経営の観点からはもっともかもしれません。しかし一方でインターネットがインフラになった時代、特に下記のようなシチュエーションになってしまった時は病院にWi-fiが欲しくなることも多いはず。

・緊急で入院して、家族・知人や保険会社へ至急連絡を取りたい

・海外からの旅行や出張で来た際に入院してしまい、現地への連絡が必須。

・長期入院が必要となり、オンラインで人と話したい・動画視聴やネットサーフィンなどの娯楽が欲しい

スマホを使えばいいじゃん(海外旅行者を除く)」と言われればそれまでかもですが、確かに自分が入院した時は、Wi-fi欲しいなと思うこともありそうです。

この辺りのシチュエーションに対応することは、結果的に治療をスムーズに運ぶきっかけにもつながりますので、改善できれば病院運営にも一定のメリットは出てきそうです。

解決のヒントは「アメニティとしてのWi-fi」という位置付け

では、病院側と患者さん側で、どのようにWi-fi提供問題への折り合いをつけていくか?

解決のヒントは、「アメニティとしてのWi-fi」という位置付けにしていくことではないかと思っています。

パジャマや履き物など入院に必要なものは自身で準備してくるのと同じように、データ通信についても基本的には自身で対応するものですという位置付けで説明は行う。

その一方で、必要な方には院内で有料でWi-fiを提供することが可能です、という二段構えでの説明にしておくと、納得感が得られるのではないでしょうか。

病院によっては、「個室では院内Wi-fi利用可能、大部屋では自身のデータ通信で対応してね」という位置付けにしているところもあるそうです。個室では室料差額を請求できるのでサービス投資の計算もしやすく、病院としても無理なく導入ができる方策になりそうですね。

個人的に考える病院Wi-fi問題への解決策案

最後に「全患者に無料Wi-fiを提供する」という前段階にある、はじめの一歩としての解決策案について個人的な考えを書いていきたいと思います。

①対象者

まず、院内の患者さんのうち、どの層を対象に提供するべきか?

「外来含めて全ての患者に提供」はここまで整理してきた議論を踏まえると非現実的ですので、まず対象とするべきは滞在時間の多い「入院患者」に限定すべきでしょう。

特に回復期リハ病院など1〜2ヶ月の入院を前提とすることも多いため、Wi-fiは家族や知人とのオンライン面会や入院中の社会接点確保のための重要なインフラになります。

急性期病院については、一般的には10日前後で退院になりますので必要性はそこまで高くないかもしれませんが、外国人の方含め緊急入院した方への対応オプションとしては需要がありそうですね。

②誰が費用を負担するか

前述の診療報酬制度とサービス投資の話を踏まえると、「患者さん側が必要時に有料で利用する」という立て付けが望ましいと思います。

病院側としても、設備がない・費用がかさむ・治療ではないから「投資しない」のではなく、「必要なものが患者さん側で院内で整えられる状況にしておく」のラインまでは引き上げておくという考え方を持つことは、Wi-fi問題にとどまらず「患者さんに選ばれる病院づくり」という観点からとても大切だと思っています。

③提供方法

最後に、提供方法について。

「患者さん側が必要時に有料で利用できるもの」と位置付けた際に、オプションとして病院側から有料提供することが現在の制度(療担規則)ではできないため、「院内で利用できる民間サービスとしてWi-fiを提供する」という方法が現実的でしょう。

具体的には、Twitterで以下のようなアイデアが出ていました。

・業者を介したポケットWi-Fiレンタルサービスを院内に設置

SIMフリーのポケットWi-Fiを病院側レンタル用で購入して、患者さんには売店SIMカード購入してもらう

・公衆Wi-Fiにアンテナを貸し出して、利用チケットを売店で販売

副次的ですが、病院外のサービスとしてWi-fiを位置付けることで、院内スタッフもその管理や対応から解放されるのも大きなメリットになりそうですね。

ちなみに…院内Wifi提供のためにこんなサービスがあります

①課金型Wi-fiサービス

こちらは、パースジャパンさんが提供しているテレビカード課金のシステムを応用してフリーWi-fiの課金ができるシステムです。

設置機器の選定はもちろん、導入後の問い合わせ対応を専用のコールセンターにお任せできるようで、病院側での業務負担を最小限まで抑えられることがメリットですね。

オプションで雑誌・マンガ読み放題のサービスも組み込むことができるらしく、これは患者さんの満足度向上にもつながりそう!

persjapan.co.jp

Wi-fi+端末のレンタルサービス

こちらは、Wi-fiタブレット端末をセットで貸し出してくれるサービスもあるレンタル業者さんです。このサービスを、院内コンビニとかで提供できると利便性が上がりそう。

タブレット端末もあると快適さも増すので良いですね。これで1日740円は安いかも…。

www.rental-store.jp

③番外編:産科病院でのWifi提供

産科病院(産科病棟)では、すでにWi-fiを自由に利用できるところも多いそうです。

出産は一部が自費診療になるためサービス提供分に応じた価格設定もしやすいですし、利用者層も20〜30歳代の若い方がほとんどですので、この層に対してWi-fiを提供した環境で入院してもらうのは極めて利にかなかった方法ですね。

また、出産後の赤ちゃんの様子を動画で送ったり、今のご時世だとオンラインで話をしたりと、入院するお母さんにとってネットは重要なインフラ。自院の優位性のひとつとして、「Wi-Fiが完備されてます!」とアピールできるのは集患文脈でも実は重要なポイントになっているのかも?

まとめ

今回の記事では、病院におけるWi-fi提供問題について書きました。

診療報酬頼みの病院経営では、Wi-fiなどの収益にならない設備投資にはどうしても二の足を踏んでしまいがちなのは紛れもない事実。一方でインターネットがインフラになっている時代、病院側としてもサービス向上のために段階的な解決策を考えていく時期に差し掛かっているようにも思います。

今回の記事で紹介したような考えた方や解決策を通じて、各病院の議論のきっかけになれば嬉しく思います!