今月より、気になったヘルスケアベンチャー企業のプロダクト紹介を行う企画を始めていこうと思います!
病院の中で働くうえで常々思うのは、院内オペレーションを改善できる部分を一通り潰したうえで、便利なITツールがあれば導入を検討するべきだということです。
最近、ヘルスケアベンチャーに関わる方ともお話をさせていただく機会があるのですが、病院の中にいる職員よりも、ヘルスケアについてのビジョンをもって、問題の核心を捉えたサービスを提供したいと思っている方ばかりです。外部のプレイヤーの意見やサービスを病院オペレーションに取り込むことは、今後の病院運営で必須であると思っています。
今回は、転院調整に関わる業務効率化を目指して、医療機関向けにクラウド型情報共有ツールを提供している3Sunnyさんのサービス「CAREBOOK(ケアブック)」をご紹介したいと思います。
※本記事内で紹介しているスライドは、3Sunny様よりご提供をいただきました。
医療機関が抱える転院調整の課題
転院調整とは?
現在の医療体制における重要なキーワードは、「地域連携」です。
「地域連携」、もっといえば「地域での医療機能分化」と呼ばれますが、
・慢性疾患の定期受診やかかりつけのクリニック
・手術や放射線治療などの大きな治療は急性期病院
・入院後のリハビリは回復期リハビリ病院
といったように、治療を受けるのに最も適した医療機関に患者さんがその都度受診し、地域全体でトータルの治療を提供していきましょうという考え方になります。
地域連携は、大きく以下の二つに分かれます。
診療所と急性期病院の間の外来患者をつなぐ「前方連携」
入院機能を持った病院間の入院患者をつなぐ「後方連携」
「後方連携」は病院内では転院調整と呼ばれる業務で、患者さん/ご家族の希望を確認したうえで、病院間でアレンジをしていくことが大きな特徴になっています。
転院調整のプロセス
転院調整においては、以下のようなコーディネートを患者さんのご希望に合わせて、院内のソーシャルワーカーの方を中心に行っています。
転院調整は、患者さんが持つ疾患や社会背景、居住エリアなどの条件に合わせて、ひとりひとりの個別のコーディネートを行う業務です。私は医事課の入院部門にいるので、隣の部屋でソーシャルワーカーの方が転院調整している姿を見ているのですが、
・患者さんやそのご家族からの要望
・転院先候補病院からの様々な情報のリクエスト
・医師をはじめとする院内関係者を巻き込んだ調整や情報収集
などなど、多方面からの要望に対応しつつ、患者さんにとって最適な次の医療機関を選んでいくソーシャルワーカーの方は本当に大変なお仕事をされているなぁと思っています。
転院調整の課題点
転院調整において一番大きい課題点だと個人的に思うのは、「病院間の連絡手段が電話で、診療情報の伝達がFAX」ということだと思っています。
「いま○○さんの紹介状をFAXしたのですが、届いていますでしょうか?」
「もらった紹介状に書いてなかったのですが、○○と××の情報も追加で欲しいのですが…?」
のような電話とFAXを利用したやり取りが、どの病院でも多く発生していることと思います。
そして、そのやり取りがその1回の電話で完結していればまだよいのですが、
「担当者が現在病棟のカンファレンスに行っていて席を不在にしています」
「他の病院からの転院依頼の電話に出ていまして、少ししたら折り返しするように伝えます」
などなど、「担当者と電話がつながらない」ことで転院調整がスムーズに進まないこともしばしば…。
ソーシャルワーカーの方の業務ストレスはもちろんですが、このような時間的ロスの積み重ねにより転院調整にかかる日数が長引いているとすれば、患者さんやそのご家族にとっても残念なことになってしまいます。
CAREBOOKが提供する転院調整の業務効率化
どのような機能を持ったサービスか?
上記のような医療現場の問題点を解決するためのツールが「CAREBOOK」です。
サービスの概要を一言でいうならば、「転院先の打診~転院先の決定といった事務調整的な作業は,電話やFAXではなくクラウド型の情報共有ツールを利用して対応していきましょう」というものです。
CAREBOOKを利用することにより、転院調整を担当するスタッフレベル・管理者レベルで、それぞれ大きな業務効率の向上を見込めることができます。
➀これまで電話とFAXで個別に行っていた転院打診を、ツール内の標準化されたフォーマットを用いて一斉打診出来るようになる
②転院先病院からの確認事項や受け入れ進捗状況を専用のチャットツールで行えるようになり、電話対応や折り返しによる時間ロスが無くなる
③病院全体が抱えている転院調整の案件管理を、ケアブックを通じて全体把握することができる
導入した病院での業務成果
お話を伺った際に業務改善の成果を教えてもらったのですが、情報伝達を電話からケアブック上での一斉打診&チャット機能でのやり取りに切り替えたことで、
・電話連絡での業務中断や折り返し電話による時間ロスが大幅に減少
・電話の折り返しが減ったことで、病棟での患者情報収集や退院支援、カンファレンス参加に集中しやすくなった
のいう点で、実際に導入した病院では大きな成果が見られているようです。
また、その他に発生した副次的なメリットとして、「やり取りの結果がチャット上に記録として残るようになった」ことがあるようです。
「○○さんについて、××の情報をお願いします」という内容を、電話上の口頭伝達ではなくチャット記録として後からも見れることで、業務を進めやすくなりますし、急なスタッフの休みや不在でも他のスタッフで対応が出来るようになったという事例をいくつも教えてもらいました。導入は医療圏単位で進めていきたい!という話を聞きましたが、単施設間でのやり取りでも十分な効果が期待できそうですね。
導入事例はこちらから↓
導入に向けた今後の課題点
成果事例と同時に、今後の課題点についてもいくつか教えてもらいました。
➀医療圏単位での利用率の向上
転院調整に利用するツールであるため、ひとつの医療機関だけの導入では意味がありません。ケアブックの価値を大きくするためには、複数の施設、理想は医療圏内の全病院が導入していることが求められます。
転院患者さんの情報をケアブック上に集約していくために、医療圏単位で各医療機関に導入の個別サポートをしていくことが、利用率向上のためのカギといえそうです。
②電話・FAX文化との戦い
二つ目が、「電話・FAX中心の現場の働き方をどう変革するか」という点です。
いままで代替手法がないために利用され続けてきた電話・FAXですが、その方法になじんだ病院職員の働き方をどう変えるか、という点は案外難しかったりします。私の病院でもそうなのですが、医療従事者は院内メールよりも電子カルテを見ている時間が圧倒的に長いので、仕事においてネット上でやり取りするという文化があまりありません。
情報セキュリティや個人情報保護のポリシーなどからも、ネット上での診療情報のやり取りをすることに抵抗がある職員は一定数いるでしょう。他業界では当たり前になっているネット上でのやり取りですが、病院にその働き方を理解してもらえるようになるためには継続的な取り組みが必要になりそうです。
③医療機関側のPC環境の整備
最後は、これは企業側ではどうしようもない問題ですが、医療機関側のPCやネット環境が良くないという問題です。
「1人1台のネット接続ができるノートPC」が当たり前なのは民間企業だけ。各PCに電子カルテが入っている医療機関では、情報セキュリティの問題からそもそもネット接続できるPCの台数に限りがあるところも非常に多いです。そのような環境の中でどのようにこういったITツールを浸透させていくべきか、営業戦略にも一工夫必要になりそうです。
最後に…3Sunnyが目指すのは、「医療・介護領域での情報インフラ」
インタビューの最後に、代表の志水さんがおっしゃっていた話で印象的だったのが、「医療・介護領域での情報インフラになりたい」とのことでした。
現在はサービスの提供カテゴリーを転院調整の領域に絞っていますが、「ITを通じた医療・介護施設間の情報連携」という考え方から行けば、前方連携の領域にも、医療機関から在宅医療介護の領域にも活用できるサービスになっていくはずです。
医療業界における現場レベルでのIT導入(特にクラウド型サービス)においては、上記で書いてきたとおり様々な障壁があります。でも、5年後・10年後も同じように電話やFAX中心のアナログな業務が残り続けるのかといえば、そんなことは決してないはず。(と、信じたい…!)
医療・介護領域にITを通じた情報連携による現場の生産性向上を推し進める一歩に、3Sunnyさんの提供するCAREBOOKがなっていくと良いなぁと、個人的にも応援し続けたいサービスです!