電子カルテのシステムダウンに備えて行うべきこと

医療機関電子カルテへの依存度は、時代が進むごとに切っても切れない関係になってきています。電子カルテを入れることにより、

・患者ごとの医療情報が逐次共有できる

・電子記録のためタイムスタンプがあり、医療記録としての機密性も高い

・各部門システムが、本体の電子カルテと連動して使用できる

などなど、医療機関の効率化のメリットは計り知れません。

一方で、パッケージ型の電子カルテは一度入れると更新が難しいため、定期的に大掛かりなシステム入れ替えを行う必要があります。私の病院でも、今年の正月休みの間にシステム入れ替えを行うことがあり、約1日半、電子カルテが使えない状態になりました。

そのシステムダウンの準備に部署担当者として関わった経験をもとに、今回は電子カルテのシステムダウンに備えて行うべきことをまとめたいと思います。

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電子カルテのシステムダウンに備えて行うべきこと

1.具体的なマニュアル作成

まずはなんと言っても、マニュアルの作成です。

電子カルテシステムが止まるときは、院内のネットワークが止まっている時かもしれませんので、「マニュアル、紙カルテ、診療に使用する書類を紙印刷して残しておく」ことがまず大切になります。

また中身について、「この時はこの紙カルテを使いましょう」だけなく、「この紙カルテの書き方はこのようになっていて、この欄にはこのように記載をする…」といったように、「書き方例」までマニュアルに記載しておくことを心掛けました。

その他、システムダウン中だけでなく、システムダウン後の手順もなるべく具体的に決めておくべきです。記載した紙カルテや、患者から授受した金額をどのように復旧後のカルテに打ち込むのか、その内容が正しいことをどのように確かめるのか、などなど。患者サービスを滞りなく行うという観点からも、システムダウン後のリカバリーをなるべく早くできるマニュアルを作ることが重要になります。

2.困った時の紙運用の準備

1でも少し述べましたが、システムダウン時に紙運用にすぐ切り替えられるように準備しておくことがとても大切です。

システム入れ替えのように、あらかじめシステムダウンがあることが分かっている場合、実は院内の体制は十分に整えられている時が多いですが、重要なのは、システムダウンが不意打ちのタイミングで起きた時に十分準備ができているか?という点です。

今回の事前準備を通じて思ったのは、「システムダウンがある時だけ、紙運用を準備しておく」のではなく、「システムダウンを想定して、日常業務として紙運用を準備しておく」のがとても大切だということです。

具体的に私の部署(医事課の入院部門)では、システムダウン時には各病棟のマップを紙印刷して、そこに患者の入退院情報や面会制限の情報を書き込み、面会者への対応をしていました。ただ、この準備はシステムダウン時のために考えた運用で、これまで毎日のシステムダウンの準備は入院患者の一覧表の出力だけで終わっていました。

今回のシステムダウンの経験を踏まえ、これまでの準備ではダウン時のスムーズな運用切り替えが難しいと思ったため、今後は各病棟のマップを夕方に紙印刷して、夜間帯に引き継ぐ運用に変更しました。

システムダウンを乗り越えられてよかったよかった…だけではなく、その中の業務で必要だった情報を日々の業務にも組み込んでおくことが、実はいざという時にとても役に立つのではないかと思います。

3.システムダウン時の業務はシンプルに

最後は院内全体の話として、システムダウンがあらかじめ分かっているのであれば、事前に業務を減らす工夫をしておきましょうという話です。

予期されたシステムダウンが起こるのは、病床稼働率が低くなり、外来も行われていない大型連休や土日になるのが一般的ですが、その際の業務は安全面を考慮して出来る限り業務を縮小化することが望ましいと思います。

・救急車受け入れの一時停止

・病棟間の患者移動を最小限にする

・翌日以降にできる手術や化学療法などのリスクの高い治療は行わない

などなど。

システム入れ替えは病院側の都合ではありますが、一方で電子カルテシステムを最新化し、より安全な治療を提供するための準備という目的があります。その日の患者さん側には一時的な迷惑をかけることにはなりますが、担当医を中心にその点を患者さん側にも理解してもらうことが、結果的に患者さん側の安全を守ることにもつながると思います。

クラウド電子カルテへの期待

最近、特にクリニック向けに導入が進んでいるクラウド電子カルテ

大病院に導入されることの多いパッケージ型の電子カルテとは異なり、カルテサーバーを院内に置かず、インターネット経由でカルテにアクセスするという性質から、

1.サーバー、サーバ室の管理費用の削減

2.システム専任管理者の人件費削減

3.5~7年毎のサーバ・システム更新費用の削減

などなどの経営的なメリットが大きいことが特徴です。

特にクラウド型に切り替えれば、大規模な病院が定期的に悩まされる電子カルテのシステム更新にも悩まされずに済むと思うのですが、いまのところ病床機能も含めたクラウド電子カルテはあまり市場に出回っていない印象。。

パッケージ型ソフトからの移行が難しい、メンテナンスするカバーが広すぎるなどなど、パッケージ→クラウドへの変化は参入障壁が大きい分野のだと思いますが、より便利に、コストの安い電子カルテが世の中に広まっていってほしいなぁと思います。

富士通は、クラウド電子カルテシステムを開発しているみたいですね。

クラウド型電子カルテシステム「HOPE Cloud Chart」のご紹介 : 富士通エフ・アイ・ピー

電子カルテシステムのトラブルは誰の責任か?

最後に、電子カルテシステム更新に伴うトラブルについて。

2018年に東大病院の電子カルテ更新後の外来で、院内の運用がうまくいかずにかなり長い待ち時間が発生した…ということがネットニュースなどで話題になりました。

正直このニュースは明日は我が身という感じで、電子カルテを入れている病院にとっては肝を冷やした内容だったのではないでしょうか。

tech.nikkeibp.co.jp

ニュースに書かれている「電子カルテが使用できないので、申し訳ないですが会計は後日払いとさせていただきます」というのは、医療機関側にとっては唯一の解決策なので、ここで叩かれてもなぁ…というのが正直なところです。

一方で、

・病院側の操作リハーサルが不十分であること

・操作リハーサルで発見されたバグが修正しきれていないこと

・職員が操作に不慣れであること

電子カルテシステムダウン時の準備が不十分であること

については、病院側の管理体制に再考の余地があった部分でもあると思います。

システム入れ替え時の留意点として、医療機関内のスタッフのITリテラシー(操作方法の習得スピードや、システムがどのように動いているかの理解度)は高くないので、その点を理解したうえで出来る限りの練習を繰り返し、見つけられる範囲のバグは可能な限り事前に潰しておくことしか、この問題を解決する手段は今のところないと思っています。

また、「パッケージソフトへのカスタマイズ」が電子カルテの更新にあたり初期化されてしまうことが多いので、どのカスタマイズが初期化されているのかを各職員にあらかじめ周知しておくことが実は非常に重要です。普段の病院の運用が電子カルテシステムにより行われている以上、その中の一部分でも使えない箇所が出てしまうと、結果的に全体の対応スピードが遅くなってしまいますので。

私の病院でも、電子カルテの入れ替え後にかなり混乱が起きましたが、内容を見るとリハーサル不足や新システムへの理解不足によるものが多かったように思います。システム更新の責任者は情報システム担当者やITベンダーですが、大事なのはユーザー側の準備と、電子カルテへの理解度を上げておくことなのだと痛感させられました。

いずれにせよ、今後の医療機関の運営において、電子カルテシステムへの依存度は高まる一方になると思います。システム入れ替えがスムーズに進み、病院側は効率的な運用を、そして患者さん側は素早く・分かりやすいサービスを受けられるようになっていってほしいと願います。