病院の経営企画室の役割とは?

「経営企画室」。なにしているかよく分からないけど、なんだか経営の中枢にいてカッコいい感じがします。

病院にも「経営企画室」という部署があります。「医事課」とか「施設管理課」のような、仕事名が部署名になっている部署と違い、「経営企画室」は、一見なにしているかよく分からない部署だと周りから思われていると思います。

私も少しだけではありますが「経営企画室」にいたことがあり、また他病院と交流する中で様々な「経営企画室」の仕事を見せていただく機会がありました。

今回は、病院の経営企画室は何をしている部署なのか?何が求められている部署なのか?について書いていきます。

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病院内における経営企画室の役割

経営企画室は、病院によって「ポジショニング」と「部署の構成方法」がかなり異なってきます。当然この二つが異なれば、求められる役割も変わってきます。

私見ですが、それぞれの中身を整理していきたいと思います。

ポジショニング:幹部の参謀か、現場のサポート役か?

まず、経営企画室のポジショニングです。大きく、①病院幹部の参謀か、②現場のサポート役か、という2つの軸があると思っています。

①病院幹部の参謀

トップの思いを組織図の中の各部署に業務として落とし込み、経営計画の立案やトップダウンのプロジェクトを切り盛りするような役割です。仕事内容としては、例えば経営の中期計画作成や予算案の審査、病床再編のプランニング、ある診療科の立ち上げ・統合・廃止とか、病院のサービス全般に関わる内容がイメージできるでしょうか。

トップダウンの特命プロジェクトは、現場の人に新たな文化・業務を求めることも多いので、嫌われ役になることもしばしば…。プロジェクトマネジメント能力ももちろんですが、トップの考えを自分なりに消化し相手に伝えるコミュニケーション能力や、時に相手ときちんと喧嘩できる、「嫌われる覚悟と技術」が求められるポジションです。

またカバーする範囲が広いため、「口は出すけど手はあまり出さない」のスタンスで、相手に仕事をさせながらプロジェクトを進めていくというスキルも求められます。これが実は難易度が高く、私もこの点が出来ず前の上司にはよく怒られていました…。

②現場のサポート役

こちらはどちらかというと、日頃忙しい医療者が考えているアイデアを実現させる役割です。前者がトップダウンであれば、こちらはボトムアップのイメージ。

仕事内容としては、各委員会の事務局や、部署内業務の改善支援、データ抽出や分析の手伝いなどが挙げられると思います。現場のニーズを汲めることがもちろん大切ですが、この仕事で最も大切なのは「何が問題かをきちんと見極める能力」だと思っています。現場には大小さまざまな問題が山積していますが、すべての問題を解決するのは困難です。最も解決したときにインパクトのある問題を見つけ、なぜその問題から手を付けるかを相手に説明する能力が求められます。

以前私が医療現場との話し合いを詰めることが出来ていなかったとき、先輩から「言い方は悪いけど、このままじゃミイラ取りがミイラになるぞ」と言われたことがあります。現場に寄り添うことは、現場に同情すること・肩入れすることではないということをその時に学びました。病院全体のことを考えて、現場でどのような問題を解決するべきなのかを考え、伝えることが大切です。

部署の構成:独立部署か、兼務部署か?

続いてが部署構成の在り方です。他の病院の人に聞くと、「経営企画室」にもいろいろな在り方があるなと思います。大きく、「独立部署としての経営企画室」と、「兼務部署としての経営企画室」の二通りがあると感じます。

➀独立部署としての経営企画室

ある程度の規模がある病院ではこちらがオーソドックスなパターンだと思うのですが、様々な課の一つとして「経営企画室」があり、企画室専従のスタッフが置かれるという在り方です。

業務内容として経営参謀的な役割が多ければ、経営企画室は院長や事務長の近くにある部署(一般企業で言う「社長室」)として位置づけられますし、現場のサポート役がメインになるのであれば管理部門のうちの一つとして位置づけられると思います。

経営企画室が独立して存在するメリットは、院内のプロジェクトマネジメントに専念するスタッフを抱えることが出来ることでしょう。病院の各部署はどこも定例業務を多く抱えており、その合間にトラブルシューティングやプロジェクトの進行を行うという構図になっています。経営企画室は定例業務をほとんど持たない性質の部署なので、そのような非定型の業務に対してスピーディに対応を行いやすい部署です。このような企画室が機能することで、結果として院内の問題に各部署がうまく共同して対処することができるようになります。

②兼務部署としての経営企画室

もうひとつが、兼務部署として「経営企画室」があるという在り方です。

人手不足のために経営企画室専属に人は配置できず、ルーチン業務を持つ部門(医事、経理、総務などなど)から優先してキーマンを配したいが、各種プロジェクトを行う際にはその実行部隊がすぐに欲しい…というニーズから、このやり方を取る病院も一定数あるようです。

私としては「各プロジェクトに合わせて人を出させればいいじゃん」とも思ったりもするのですが、部署や職種を横断したチームを一つ作ることで初動が早くなったり、各部署に企画的なマインドを持たせやすくするなどのメリットもあるのかなぁと想像しています。

独立部署として経営企画室がありプロジェクトの仕切りを担当すると、他の部署は企画室の交渉相手となってしまいます。一方で、兼務の部署であればそのプロジェクトが自分ごとにもなるわけで、不要・不毛なやり取りというのは少しでも減るのかもしれません。実際に知り合いの病院では、医事課、総務課、経理課、医療連携室、看護部、薬剤部の各スタッフが企画室を兼務し、部署横断的な取り組みを検討しているとのこと。確かにこのやり方も一理あるのかも…。

ポジショニング×業務内容で考える経営企画室の性質

縦軸がポジショニング、横を部署構成として、ここまでの話を簡単に図にまとめてみました。枠の中にはそれぞれの企画室に求められる仕事内容を入れています。

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 右下の「現場のサポート役で兼務部署としての経営企画室」は、正直企画室に求められる役割が見えなかったので自分の中では「不要」という位置づけにしています。

・兼務部署の場合、定型業務の量の影響から独立部署と比べると対応のスピードが遅くなるため、現場の問題に対してスピーディに対応することが難しいこと。

・兼務部署として各現場からそれなりの人物を集めて仕事をさせる時間があれば、その人物と時間を各現場の改善に充てさせた方が生産的なこと。

が、その理由です。みなさんの病院ではどうでしょうか?

 

もちろん、実際にはそれぞれの要素がある仕事が経営企画室に振ってくるのですが、自院の経営企画室がどのようなスタンスを取っているのかを知ると、自部署と経営企画室とでうまく付き合いながら仕事が出来るのかもしれません。 

経営企画室のスタッフをどう育てるか?

最後に、人員育成の問題ですが、これが結構難しい問題です。

各現場は管理職以上が問題解決の仕事を行うことが多く、スタッフはルーチン業務中心になっています。これ自体は、部署運営上どうしようもないところもあるのですが、この状態で現場から経営企画室(やそれに近い仕事をする管理部門)にいきなり異動させると、仕事の勝手がわからずにモチベーションや自己肯定感の低下を招くことがあります。

事務職員のキャリア形成として、問題解決に関わる仕事をさせるために、経営企画室で仕事をさせるのが良いのか、現場の管理職として登用させる方が良いのか。私個人としては、ありきたりな考え方ですが、現場と管理部門を行ったり来たりすることが仕事の幅を広げるうえでとても大切だと思っています。

現場で頑張っている人がいれば、そのまま管理職に挙げる前に企画室に行かせてみる。

逆に企画室で仕事の進め方は何となく覚えてきたが、場数をもっと踏む必要がある人がいれば、現場の部署に行かせてみる。

こんな感じの異動を活性化させることが、結果的に人材育成につながるのではないかなぁなんて思ったりしています。

あと「幹部の参謀×独立部署」のゾーンにある経営企画室では、経営計画の立案をはじめ、医療現場の問題の延長線にない、特殊な仕事も多いことが特徴です。この分野については、事業会社や銀行・コンサル会社で経験を積んだ転職組を入れることが、実は一番の人材問題の解決策なのではと思っています。なかなか人が集まらない業界ではありますが…。

 

ちなみに最も重要なポイントとして、変革のマインドを持った人は企画室だけでなく各現場の部署で求められています。というか、むしろ現場で周りと協調しながら問題解決できる人こそニーズは高いです。そんな感じの記事を過去に書いたので併せて読んでいただければ…。 

www.medical-administrate.org

まとめ

  • 経営企画室は、病院によって「ポジショニング」と「部署の構成方法」が異なり、この二軸の組み合わせにより求められる業務内容が決まってくる。(下図参照)

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  • 経営企画室には定型業務が少なく、プロジェクト管理や問題解決に関わる仕事がほとんどであるため、相手に動いてもらうための説明能力や交渉能力、時には嫌われ役を買って出ることも求められる。
  •  経営企画室スタッフの仕事は、他の部署と毛色が違うことも多いので、人材育成が実は難しい。その時の業務の性質によっては生え抜き組よりも転職組を据えた方が良いことも。