病院事務職が委員会運営を真面目にやるべき理由

1か月くらい前に、「病院運営における委員会の役割」という記事を書きました。

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簡単に内容をおさらいすると、

  • 病院における委員会では、各部署から横断的にメンバーが選抜され、テーマごとに討議をして、院内全体の業務に関わる意思決定を行う役割が求められている。
  • 病院内で起こる専門性の高い各分野の問題は、実質的には委員会が方針を決定することになる。
  • 個人的に考える委員会運営のポイントは以下の三つ
  1. 議題は事前に共有して、当日は「決めること」に集中
  2. 年度ごとに目標設定をして追いかけ続ける
  3. 議事録をきちんと書く
  • 病院内の既存の委員会をいかにきちんと回し、院内ルールの決定や諮問機関としてジャッジする役割を果たせるかどうかが、病院活性化のキモになる。

前回は、「病院運営における委員会の役割」を書きましたが、今回はその委員会の事務局を担当する事務職員の仕事にフォーカスを当てて、「病院事務職が委員会運営を真面目にやるべき理由」を考えていきたいと思います。

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委員会運営は病院事務職にとっての成長の機会

病院事務職員の仕事は、特に現場寄りの部署では「定型業務」が8割以上を占めています。例えば医事課であれば窓口業務や保険請求、診療材料購買であれば院内供給のチェックや業者対応、などなど…。

現場の部署の仕事を通じて肌身で感じられる、病院全体の業務の流れや基本業務の構造を知ることはもちろん大切なのですが、それだけでは「非定型業務」への対応方法を学ぶことができないのもまた事実です。

そんな中で、委員会の事務局を務めることは「会議運営を通じた問題解決」という定型業務とは離れたスキルを求められ、病院職員にとって貴重な訓練の機会の場になると思っています。

委員会運営を通じて得られる病院事務職のスキル

ここからは、委員会運営を通じて得られる病院事務職としてのスキルを三つ、考えたいと思います。注意したいのは、あくまでも「運営側」の立場を経験することで身に付くものだということ。いち委員としてお客様の立場で参加する会議では、これらのスキルは身に付きにくいことを予め添えておきます。

➀医療職との連携やコミュニケーション

病院の事務職は、医療職と連携して仕事が出来てなんぼの世界ですが、意外にも?医療職の方々と膝を突き合わせて仕事をする機会は実は少なかったりします。

例えば医事課だと、患者さん毎の請求方法について医師や看護師と連絡を取り合うことはあっても、「この請求って今後どうしていこうか?」と考え・発信する機会を管理職以外ではほとんど持っておらず、医療者との窓口役としてコミュニケーションを取る機会が少ないのではないでしょうか。

委員会活動では、特定の専門分野に関して医療者と一緒に業務で連携する仕組みを構築したり、時には交渉して相手に仕事をしてもらう場面があります。

  • 診療報酬請求の委員会で、査定や算定漏れを減らすために特定のテンプレートの医師の記載率を高くする取り組みを診療科部長と考える
  • 手術室の委員会で、稼働率を高くするためのオペレーションを外科部長や手術室の師長に提案する
  • 医療安全の委員会で、患者確認を正しく行う手順を把握するためのサンプル調査方法を各病棟の師長に依頼する

などなど。相手が日々臨床業務で忙しい中で、「これを病院のために、委員会としてやりたいです。なぜなら~~という理由があって…」というように働きかける経験は、日々の定型業務にはないスキルが求められ、他部署や他業界へ転職するうえでも価値のある経験だと言えると思っています。

②問題の設定・整理

「この委員会で~~をやりたいんだけど…」という意見は、ある程度議論がある委員会であれば毎月のように出てくると思います。

ただし、全てを拾っていては何もできないので、事務局のスタッフにはこの中からどの意見を吸い上げて委員会発信の提案として昇華させるかという、問題点の設定や整理を行うチカラが要求されます。

個人的に考える、問題の設定に際してチェックすべきポイントは以下の三つです。

1.問題を解決した際に、病院の経営に寄与できるテーマか?

特定の部署や診療科だけにメリットがあるような提案を通していては、病院の経営は成り立ちません。事務局という立場をわきまえつつも、全体最適を見通しての問題設定を行いたいところです。

主な個別最適の提案としては、「○○の部署に人を増やしてくれ」「機械を買ってくれ」などなど主には特定の部署にお金をつぎ込む提案が多いと思いますが笑、まずこの提案を事務局なりにきちんとジャッジ出来るようになることが必要です。

2.問題を解くべき理由が、委員会メンバーの共感を得られるか? 

二つ目が、委員会メンバーに響く提案をすること。

「やるべき理由はなんとなく分かるんだけど、なんだか提案が事務だけで考えたような内容で、臨床現場にとっては受け入れにくい」というプレゼンでは、ものごとはなかなか前に進みません。(私自身、これまで何度もこんな経験や失敗があります。反省。)

「伝え方が9割」ではないですが、「病院の経営に資する改善案である」ということを押さえつつ、委員会のメンバーをはじめとする医療者にも刺さる切り口で提案をまとめることがとても大切です。またこの提案を作るためにも、①に戻りますが医療者側での協力者を見つけ、巻き込んでいくことが重要だと思っています。

3.病院の現状を鑑みて解決可能な問題であるか?

例えば、手術室の委員会で「手術件数をもっと増やしたいから、手術室をあと一つ作ろう!」という目標を立てても、病院にそのお金や人員がなければ達成することはできません。 

長期的な目標は手術室の増室であっても、短中期的にはどのように手術室の稼働を上げるか、また現在の手術室の数を踏まえてどの手術に注力していくべきか、を考えるのが先になるでしょう。

理想像を共有することはとても大切なことですが、一方で現実を知り・見極めることもとても大切なスキルです。

その他:問題提起に論理的に反対する能力(応用編)

ここまでは問題設定のポイントを述べてきましたが、応用編として「相手の問題提起に論理的に反論する」という能力も大切になってきます。会議の中で声の大きい人のその時々の思い付きや個人的にやりたいことに対して、「なぜ今やる必要がないのか」を意見として出す能力と置き換えられるかもしれません。なかなかハードルは高いですが。笑

前回の記事にも書いた通り、年度ごとに目標設定をして追いかけることは委員会運営においてとても大切ですが、その目標設定をブレさせる提案については、残念ながらお断りする説明をしなければなりません。そして、その説明には現場のリサーチやデータ分析も必要になりますので、自然と調査・分析スキルも上がることになります。

そういった意味でも、委員会では「論点の異なる問題提起をかわす能力・違う話であることを相手に説明する力」が身に付くといえるでしょう。ただしうまくやらないと喧嘩別れになり、次の仕事に影響を及ぼしますので、ご注意を…。

議事録や資料の作成

最後が、いち社会人として求められるOfficeソフト操作や書類作成の能力を上げる機会が委員会を通じてあること。

例えば統計報告作成ではExcelPowerPointの基本的な使い方、議事録ではWordの使い方や「書く」というスキルを鍛えることができます。最近思うのですが、特に若手時代で現場部署に配属されると、こういったoffice系のツールに触れる機会や、「書く」ことをはじめとした文章や資料を通じて相手とコミュニケーションを図る機会がほとんどなかったりします。(少なくとも、医事課の仕事の9割は電子カルテと医事コンしか触らないので、このような状況が発生すると思います。)

そういった意味でも、いち社会人として求められるこのようなスキルを若手時代から上げる、ほぼ唯一の公式な機会が病院事務職員にとっての「委員会活動」なのではないかと思っています。

病院事務育成のために委員会事務局の経験は必須

ここまで、病院事務職が委員会運営を真面目にやるべき理由を書いてきましたが、私なりの結論としては、「病院事務育成のために委員会事務局の経験は必須」と思っています。

管理部に行ってからいきなりやらせるのではなく、現場部署にいる若手のうちからまずは委員会のメンバーとして参加してもらう。そして、小さなところから委員会でのリサーチや提案を任せ、慣れてきたら事務局としての会議の取り仕切りまで一通りお願いをしてみます。

ここまでは委員会運営のスキルに絞って書いてきましたが、正直、縦社会の病院では事務局として一人前の仕切りが出来るにはある程度の「顔」も必要だとも思っています。そういった意味でも、医療者から顔を覚えてもらい、時には失敗させるという経験を意図的にさせる意味でも、早めに委員会運営の仕事に若手をアサインすることには価値があるはずです。

最後に、もしこの記事を病院事務の管理職の方が見ていたらお願いがあります。現場の仕事を日中にこなしつつ、業務外に委員会運営の準備をすることはとても大変で、結果的に委員会の準備が毎回中途半端に終わってしまうことも多いです。

もし委員会の事務局を担当している部下がいたら、1か月の中で1日、いや半日でいいので、委員会の資料準備や運営方針を考える時間を、シフトの中で組んであげてほしいなぁと思います。「時間がない」という言い訳を無くして準備に専念できることで、委員会の中身はきっと濃くなり、それが結果的に部下の成長にもつながるはずです。

まとめ

  • 委員会の事務局を務めることは「会議運営を通じた問題解決」という定型業務とは離れたスキルを求められ、病院職員にとって貴重な訓練の機会の場になる。
  • 個人的に考える委員会運営を通じて得られる病院事務職のスキルは以下の三つ。

➀医療職との連携やコミュニケーション力
②問題点の設定や整理をする能力
③資料や議事録作成の能力

  • 上記のようなスキルが身に付くという意味でも、病院事務を育てるキャリアの中には、委員会運営に早くから触れる機会があるとよい。また日中に委員会準備に手を付けられない部下がいたら、1か月に半日で良いので現場を離れて委員会運営を考える時間を持たせるべき。