病院事務職のキャリアにおけるレンタル移籍制度を考える

急性期病院の事務職から医療関係のIT企業に転職して、3ヶ月以上が経ちました。

「IT関係の会社へ転職した」と捉えた時に、サービス開発はもちろん営業・導入支援まで様々な範囲で新しく身につけなければいけないスキルや知識がたくさん出てきており、日々格闘する毎日です。しかし一方で「医療関係の会社に転職した」という目線で見れば、これまで病院の中で働いてきた経験を大きく活かせているなとも感じています。

今までは、「病院の中でどのようなキャリアを築いていくか?」ということばかり考えていましたが、一般企業の立場で働いたり、仕事の中で多種多様な運営形態の病院の方とお話をする中で、病院事務職にも院内を一時的にでも離れて幅広く医療関係・ビジネス関係で仕事ができる機会があるといいのにな、と思うようになりました。

今回は、ちょっと夢見事的な記事かもしれませんが、「病院事務職のキャリアにおけるレンタル移籍制度」をテーマに考えてみたいと思います。

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病院の中で身につく経験やスキル

病院の中で働くことで学べることの一番は、「病院内のオペレーションや実務を事細かに理解できること」だと思っています。

例えば、下記のような流れは病院の中で働いたことのある人でないと肌感覚として分からないことが多いのではないでしょうか。

・院内実務の流れやスピード感

・各部署の連携体制や力関係

・決裁フローや予算の組み方、お金の使われ方

こんなことは病院で働いていたら、仕事中はもちろん、休憩時間でのちょっとした立ち話やお昼を食べるときの会話の中で自然と掴めていくことだと思うのですが、実際転職してみると病院関係の仕事をしている会社の中でも、病院の内部構造を掴むのに苦労することが多いということもよく分かりました。

各病院では様々なサービス導入や運用変更が行われていると思いますが、これらのプロジェクトの旗振り役として物事を進めていくことは、その大小を問わずにとても価値のある経験であったことが、転職してよくわかりました。

一方で、これらの仕事が誰にも回ってくるかと言われるとそうでもなく、

・部署の性質(医事課のような定型業務が多いか、企画室のような突発業務が多いか)

・年齢構成(若手中心でボールが回ってきやすいのか、ベテランが多くて自身が主体になれる仕事が少ないのか、など)

により、与えられる仕事の質は変わってきてしまうというのも現状だと思います。自分はそういう意味で、ボールが回ってきやすい部署にいることが出来てとてもラッキーでした。

同じ職場で仕事をしているのに、与えられた環境によりスキルや経験値にいつの間にか差がついていってしまう、というのは病院事務のキャリアのあるあるで、かつ解決しなければいけないポイントだなぁというのはずっと思っていたことでした。

キャリアにおけるレンタル移籍制度

病院の中で働くうえでの知識やコミュニケーションは取れるようになってきた、でもなかなか自身でチャレンジする経験が積みにくいとという閉塞感を感じている…。

そんな時に、「転職」という選択肢以外にいきなり飛ぶのではなく、少し気分転換や視野を広げさせてあげられるようなキャリアの選択肢を提示する必要があるのかなということを、病院勤務時代に感じていました。

プロスポーツの例ですが、各国のサッカーリーグには「レンタル移籍」という制度があります。才能豊かな選手をベンチに座らせておくのではなく、ポジションに空きがあるチームに半年〜1年間程度移籍をさせて実戦で経験を積ませ、時期が来たら自分のチームに帰ってきてもらい活躍を期待する、というシステムです。東京オリンピックで活躍したサッカーの久保選手も、スペインリーグの超名門レアル・マドリードに所属しながら、現在はリーグ内の中堅クラブにレンタル移籍して日々試合に出ながらレベルを上げています。

この考え方を病院事務のキャリアでも応用できないかな?と思い、たとえば以下のような選択肢があるのでは、という案をいくつか考えてみました。

他病院の同じ部署で期間限定のプロジェクトマネージャー

例えば、以下のようなプランでのレンタル移籍を考えられそうです。

・回復期リハビリテーション病院の医療連携室のスタッフが、急性期病院の医療連携室に行き転院調整プロセスの業務改善に取り組む

・3次急性期病院の企画室のスタッフが別の2次急性期病院に行って、手術室の稼働率向上プロジェクトに取り組む

ひとつの病院の中では、どこもオペレーションを回すのに手一杯で3~6ヶ月単位の期間でひとつのプロジェクトに専念できる人材の確保は難しいものです。そこで、外部の目線でかつ経験のある病院経験者を短期的に入れることで、プロジェクトを走らせるエンジンとしての機能を期待することができます。

人が抜けてしまうのが困る!ということであれば、送る先の病院から同じくらいのレベルの人を交換でもらうという「レンタルトレード移籍」もありかもしれませんね。

医療関係会社で営業・販売戦略担当の鞄持ち

・診療材料系の部署であれば医療機器メーカーや卸会社へ

・医事課や情報システムであれば電カルベンダーへ

など、関連会社へ出向?という形で在籍し、営業や事業開発の現場に立ち合い病院を外から眺める機会を作るというプランです。

「病院を顧客とした時に、外からどのように商品を売り込むか?どのように使ってもらうか?」を実体験として知れることは、病院に戻った時の購買活動や新商品の導入を考える際に大いに役立つと思います。また受け入れる会社側から見ても、病院との人ベースでのパイプができることや、病院側の事情を深く知ることができるというメリットがあるのではないでしょうか。

医療関係会社での事業開発のインターン

こちらは「商品を売り込む」のさらに手前の、「病院業界にこれから提案する商品を一緒に作る」というプランです。

・顧客ヒアリングや市場リサーチなどを担当して、ひとつのビジネスプランをテストマーケティングができるレベルまでにブラッシュアップする

・あるエリアにおける商品のテストマーケティングを担当する

などの方法が考えられそうです。

自身の担当業務に関連する領域(例えば医事系であれば診療報酬算定支援のシステム、医療連携関係であれば集患コンサルなど)の商品を提供している会社であれば、自分の病院に戻った際にそこで培った知識や経験をもとに新しい発想で仕事ができるのでは、と感じています。

また受け入れる会社にとっても、顧客となる病院職員が内部にいることで生の意見を吸い上げることができるのは大きなメリットではないでしょうか。

キャリアにおける環境変化がもたらすもの

私自身はこれが初めての転職なのですが、これまで自分が築いてきた環境を離れて新しい場所で働くことで、見えるもの・身につくものはたくさんあるなというふうに感じています。

一方で、環境の変化を起こすことで下記のようなリスクも当然起こり得るものだと思います。

「思い描いていた仕事と全然違う!!」

「新しい環境や人間関係に慣れるのが想像以上に大変…」

もちろん、これらを全て飲み込んだうえでキャリアの選択はされていくものですが、その前段階として擬似体験の「チャレンジする場」は、特に病院というひとつ屋根のしたでみんなが働いている組織においてもっと用意されて良いのでは、とも思っています。

「病院事務職のキャリアにレンタル移籍制度を」はあくまで一案ですが、ひとつの組織で働く中でも、定期的に外に出て環境の変化から刺激を得られるようなキャリアパスを用意することで、結果的にその組織をより深く理解出来たり、組織のために良い仕事を提案できるようになっていく、ということは自分が転職してから改めて思うようになりました。

病院事務職が様々な病院や会社を行き交って引き出しが増えるようになると、病院運営・経営ももっと盛り上がっていくのでは、と感じています。

まとめ

  • 病院の中で働くことで学んでいく、病院内のオペレーションや実務への事細かな理解は、実はとても価値のあること
  • 一方で、自身の部署の性質や年齢構成により、与えられる仕事の内容が変わってきてしまうというのも現状
  • 病院事務職のキャリアにもレンタル移籍制度を導入することで、ひとつの組織にいながら様々な病院や会社のノウハウを得ることが出来て、結果的に良いキャリア支援の方法になるのでは