先日、こんなつぶやきをしました。
看護部の方に一言。
— 病院で働く事務職員 (@medical_admini) 2020年11月6日
「明日からこの運用にするから患者対応よろしくね!医師もそれでいいと言ってるから問題ないよ!」は止めろと言っただろーーー。
いや、別に看護部を敵に回すつもりは毛頭ございません。。(自分も見切り発車の話をもって言って怒られた経験は何度もある…)
言いたかったのは、臨床の意思決定とオペレーションの見直しは全く別物、という話です。今回はこの辺りを少し深掘りしたいと思います。
臨床の意思決定とオペレーションの見直しの違い
ふたつの違いを一言で言ってしまえば、「医師のオーダーが必須か、そうでないか」だと思っています。
臨床の流れの出発点は「医師の指示」になります。チーム医療、他職種連携、看護師の権限拡大などなど、医師のタスクシフトを推進する活動が国の取り組みとして進んでいますが、医師の指示がないと薬の投与もできませんし、検査のオーダーもできません。手術でメスを握り執刀するのも医師の役目です。
なので、普段の臨床になれている病院スタッフは、「部長の○○先生はOKと言っているので、この方法で進めてください」という思考になってしまいがちなのですが、オペレーションの見直しでは医師のオーダーや承認は必要条件ではあっても、十分条件ではありません。
代わりにオペレーションの見直しのカギを握るのは、院内の各部署の承認と協力です。
例えば「入退院支援センターを設立する」のに必要なのは、入院時の患者説明を行っている看護師や薬剤師、入院手続きをする医事課の事務職員、当日入院する病棟のクラークや看護助手などが思い付くところで考えられます。(関係部署に派遣社員や委託社員がいる場合は、契約元の会社との調整も必要でしょう)
また、単に承認をもらうだけでなく、追加の業務を受け入れてもらったり、スタッフの配置転換をしたりと、各部署内での調整も必須になります。
上記は割と理解しやすい例ではありますが、このような感じに 「医師がやると言った」からといって、それがオペレーションの見直しのYESのサインであるとは必ずしも限りません。追加で発生する業務、人員、費用を精査したうえで、「YES or NO」のそれぞれのメリットデメリットを比較精査する必要があります。場合によっては「条件付きのYES」で対応することもあります。
臨床の中心に医師がいるのは間違いないですし、その医師が働きやすいオペレーションをつくっていくことは今後の病院運営において不可欠だと思っています。ただし、オペレーションの見直しに必要なのは医師のオーダーではなく関わる相手の承認と理解を得ること、というのは少なくとも病院の中間管理職以上は理解して・実践できる必要があるでしょう。ただでさえカオスな病院の院内調整は、意外と難易度が高い仕事なのです。
運用の見直しは、「やる」一択の時もある
ただし、病院の経営方針や、患者安全でシリアスな問題が起きた後の対策などなどで、オペレーションの見直しが「やる」一択の時も意外と多くある、というのも認識しておくべきことのひとつです。最近だと、コロナ対策のオペレーション変更は、手間はあってもやらざるを得ないことが多いと思います。
この「やる一択」の状況で私が思い出すのが、映画「シン・ゴジラ」で、ゴジラに核攻撃をするために関東圏の住民を10日間で全国に避難させることが決定したシーン。「10日間で集団避難なんてできっこない!!」と周りで否定し続ける官僚に対して、竹野内豊演じる赤坂官房長官代理は冷静に一言、こう言い放ちます。
「国の最重要決定事項だ、自治体レベルの話じゃない」
10日間後には関東圏が各被害に遭うのだがから、四の五の言わずにさっさと集団避難をやりなさいという意味で、意思決定のレベルが「承認と協力」ではなく「実行あるのみ」の次元にあることが分かるセリフです。
ひとつの病院内でも「やる」一択の意思決定が取られることがあると思いますが、その時は不満を言うことにエネルギーを使うのではなく、粛々と実行するのが結果的に良い成果を生むことになるでしょう。(もちろん、その意思決定が正しいものであることが前提です。正しくなければ可能な限り抵抗しましょう笑)
シン・ゴジラ、最後まで頑張って国民を救うのは組織の意思決定における実務担当者と現場のスタッフの頑張りというメッセージを感じて、個人的にとても好きな映画です。竹野内豊、カッコいい…。
オペレーションの見直しにおける事務の役割
昨今の 医療職の働き方改革において「タスクシフティング」という言葉が話題になっています。「記録の入力やその他雑務業務を出来るだけ医療職から取り上げ、主に医師の働き方改革に貢献しよう」というコンセプトで、その業務を担当するスタッフには医師事務作業補助者という名前がつき、一定の人数を置いた病院では診療報酬上での収益を得ることができます。
これはこれでとても大切な構造変化であり、ライセンスワーカーがやらなくてもよい仕事をノンライセンスワーカーが引き受けることは今後の医療現場の潮流であり続けるでしょう。
ただこのような業務の下請け先が病院事務の役割のすべてではなくて、もう一つの在り方として「事務職員が病院の全体最適を目指してオペレーションを最適化する」という役割があるということを、事務の働きを通じて知ってもらえる業界になって欲しいなぁと仕事をするうえで常々思っています。
「医療スタッフは臨床に専念できるよう、事務スタッフは医療スタッフが効率的に働けるためのオペレーション構築やプロジェクトマネジメントをやるべき。餅は餅屋で、それぞれの役割を全うできる病院になるべきだ。」
私が病院で最初に仕えた上司の基本的な考え方であり、ことあるごとにアドバイスしてくれたことでもあったのですが、いまでもその通りだと思っていて、私自身もそのような役割を担えるように努力し続けたいと思いながら仕事をしています。そしてこんなニッチなブログを見てくださる病院事務の方も、きっと同じ考えを持っているのではないでしょうか。
と、最後は事務のあるべき論に話が脱線してしまいましたが、今回は臨床の意思決定とオペレーションの見直しは全く別物、というお話でした。