シンポジウム:「これからの医療経営人材を考える」イベントレポート

先日、こちらのシンポジウムに行ってきました!

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聞いていて面白いお話が多かったので、イベントレポートという形でこのブログでもその内容をご紹介したいと思います。

2020年1月19日(日)「ケースとデータに基づく病院経営人材育成」シンポジウム2020実施します|課題解決型プログラム|ケースとデータに基づく病院経営人材育成

講演1

テーマ:地域を耕す医療経営ー地域包括ケアシステムの深化と医療機関

講師:田中滋(埼玉県立大学理事長、慶應義塾大学名誉教授)

高齢化社会における展望

  • 高齢者が増えていく世の中において、一つの疾患だけを抱えた患者(例えばがん治療だけなど)は減っていく。複合疾患を見れる医師や医療機関が必要とされる時代。
  • 高齢化は進んでいるが、一方でその子供などが同居する数も統計的に増えているのも事実。
  • これからの課題は、医療だけでなく、その先の介護や生活も含めたケアが出来るか。例えば、入院・入居する必要までは至らなくても、布団が干せない、風呂が洗えない、など生活が難しくなる人達が今後激増する。

急性期病院医療の成果指標

  • 2003年にDPCを導入した時代と比較すると、医療に関するデータは比較にならないほど揃ってきた。
  • 65歳以上の人口を、65歳~75歳,75歳~85歳,85歳以上とさらに細かく分けて、どのように変わっていくかを把握することが重要になる。
  • 退院時の状態だけでなく、退院して1か月後の状態がどのようになっているか、を把握することがとても重要で、これが次のアウトカム指標になってくるのではないか。
  • IADL(下記参照)をこれからのDPCデータの項目に入れることを検討中。
  • 生活面のクオリティを上げるためには、医療機関の中で日常生活に戻るためのケアを提供している介護職・リハ職・栄養職の重要性が増してくる。今後の医療機関の人員構成やケアプロセスにおいて、大きな役割を担う存在になるのでは。
  • 介護職と看護助手は同じではない。介護職は生活を取り戻すための仕事であり、看護助手は看護のクラーク、病棟のクラークといった位置づけであると思う。介護職の病院内での理解度や地位を高めるための努力が必要になる。

※IADLとは…手段的日常動作(Instrumental Activity of Daily Living)の略。 具体的な事例として、厚生労働省では以下の8項目をIADLの尺度の指標としている。

・電話を使用する能力(自分で番号を調べて電話をかけるか、など)

・買い物(すべての買い物を自分で行うか、など)

・食事の準備(自分で献立を考え準備・給仕までするか、など)

・家事(日常的な範囲のことをすべて自分で行うか、など)

・洗濯(すべて自分で行うか、など)

・移送の形式(自分で運転したり公的機関を利用して旅行したりするか、など)

・自分の服薬管理(適正な量の薬を規定の時間に飲めるか、など)

・財産取り扱い能力(銀行手続きやお金の出し入れ等、お金の管理をすべて自分で行うか、など)

参照元: https://kaigo.soudan-anshin.com/news/kaigo/20170407/

慢性期医療と介護分野の展望

  • 地域包括ケアシステムは、以下の三つの要素を軸に深化していくのではないか。
  1. Seamless:施設⇔病院⇔在宅 を切れ目なくつなぐ
  2. Comprehensive:医療・介護・福祉の多職種共同
  3. Continuous:24時間365日の安心
  • 支援を必要とする住民の包摂も重要になる。利用者も地域包括ケアシステムコミュニティのメンバーの一員であり、っそういった意味では社会福祉専門職の重要性が増してくる。地域のソーシャルワーカーと、病院のソーシャルワーカーをつなぐことも大切。

地方の病院の在り方

  • 病院は人が集まるところであり、地域の重要拠点・産業のひとつである。
  • 病院にも「まちづくり」の観点を持たせることが大切。これが出来る病院は栄えていくし、出来ない病院は廃れていく。

病院経営の課題

  • 「誰にとってどのような価値をもたらしているか」を考えることが大切。現在患者が来ているからと言って、それが価値を生み出しているとは限らない。
  • 若い医師が不満なく、喜んで働ける環境づくりが大切になる。
  • 中堅以上の医師が、他職種と連携・共同で来ているかは、病院経営を図るうえで重要なポイントの一つ。

講演2

テーマ:公立大学病院経営再建の経験から思う、医療経営人材の育成

講師:後藤隆久(横浜市立大学附属 市民総合医療センター 病院長)

公立大学病院の経営改革の難しさ

  • 公立大学病院は、「公立病院」と「大学病院」という二つの経営を難しくする要素を含んでいて、そもそも経営改善を行うために大きな労力を必要とするフィールドである。
  • 自治体病院の経営の課題として、事務職が役所のローテーションによって決まるため、病院経営のエキスパートが育ちにくいということがある。しかし、事務職がきちんとしていなければ健全経営を行うことは無理。
  • 収益の大部分を自分で稼いでくるという部署は役所には多くなく、医業収益をどのように上げるかを考える仕事と役所の仕事はマッチしていないことも多い。
  • 事務系管理職の人事権は市役所にあり、病院経営のガバナンスを難しくしている。
  • 職員の給与は公務員体系であり、医師の給与も他と比べると低い。また市役所の予算主義のため、専門医の増員が短期間で難しい。一方で、医師数が増えてきたことにより、収益は増加傾向にある。

院内改革をどう進めるか?

  • どのように医療従事者を経営再建に巻き込むか?という課題について、大きく三つの要素が重要になると感じている。
  1. 理で、熱く、粘り強く働きかけて巻き込むこと
  2. データで見せて、見える化していくこと
  3. 「金のため」という持って生き方はNG
  • 大学病院がどこまで救急に力を入れるべきか?という課題に頭を悩ませた。がん診療をはじめとする、予定入院患者の受け入れと相いれない部分も多かった。
  • 一方で、他院を見ると予定入院患者と並行して救急車を多く受け入れている病院ばかりで、そのことが積極的な受け入れに舵を切らせる一つのきっかけになった。
  • 看護師のマネジメントについて。体力的・スキル的には35歳前後が一つのピークを迎え、それ以降は専門看護師であったり、マネジメントスキルへの特化が必要になると感じていた。
  • 一方で、看護師の給与面は年功序列で下がりにくい体系となっており、特に公立大学病院という制約が多い中で悩まされる課題の一つだった。
  • 看護部の病床管理と粘り強く向き合い、縦割りの病棟管理体制でなく、受け入れた患者さんを空いている病棟・病室に入ってもらうことを4年かけて文化として根付かせた。その結果、院内全体でオーバーベッドの可能性があることを看護部から進言してもらい、今後は30床分を休棟し、余ったリソースを他の用途に有効活用する予定である。
  • 人を確保することが病院経営においてとにかく大切。またミドル層以上に、チームビルディングの技法を持ってもらうことも重要。
  • 公立病院の経営改革の手法として、上手な独法化が一つの解答となることは間違いない。

www.yokohama-cu.ac.jp

パネルディスカッション:これからの医療経営に求められる人材像

  • 医師については、医師でなくてもよい仕事を外に出していくことが大切なのでは。
  • 「代えの利かない臨床医」になるためには、数をこなすことが重要であるのは理解でき、そのための長時間労働に意義があったことは確かである。一方で、全員がそれを望んでいるわけではないので、初期研修以降の医師教育に何パターンかのキャリアパスを設けることも重要ではないか。
  • 仕事はリレーでつないでいけばOK。アメリカに麻酔科レジデントとして留学した際に、翌日の準備を休日出勤して行おうとしたらチームメンバーに怒られた。滅私奉公は日本では美徳とされているが、時にマイナスにもなる。

感想

シンポジウムのテーマは「医療経営の人材像」と言いつつ、登壇者が医師のみだったので後半のパネルディスカッションは「医師が生産的に働くためにどのような病院経営をするか?」にフォーカスがすり替えられてしまった感は否めませんでした。笑

一方で、やはりチーム医療と言っても患者受け入れや治療の開始は現制度だと医師がいないと始まらないわけで、「医師の働き方改革」というテーマにいかに真面目に取り組むかが、今後の医療機関の収益に大きな影響を及ぼすのだなぁとも感じさせられたシンポジウムでした。

あとは、本シンポジウムで話されたような今後の医療業界が進むマクロな視点(医療政策や人口動態など…)、また病院経営の中でも特に経営者視点から何をすべきなのか、という情報は、病院経営を志す者としてきちんとキャッチしなければいけないなぁと実感した次第です。なかなか現場で働いているとそのことを忘れてしまいがちなので、そういった意味で頭をアップデートするための良い機会となりました!