2020年の医療機関経営に思う雑感

新型コロナウイルスの発生により、激動の1年間だったと思われる全国の医療機関

まずそこに関わったすべてのみなさま、本当におつかれさまでした。

新興感染症対策への難しさはもちろんですが、それに伴う医療機関の運営・経営の在り方も大きく問われる1年間だったと思っています。また、院内のオペレーションや患者さんの健康意識が平場と全く異なるからこそ見えることも、現場レベルでも数多くありました。

今回は、「2020年の医療機関経営に思う雑感」として、今年1年間医療機関の中で働いた中での思いや気づきを、エッセー的ですがこの記事にまとめたいと思います。

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コロナウイルスが流行って経営が悪くなった医療機関

新型コロナウイルスという病気がもたらしたのは、少なくともこの半年という短期間で見れば外出控えに伴う不要不急の受診者数や、交通事故や労災などに伴う外傷疾患の減少、そしてなんといっても人と人との接触が減ったことによる感冒症状の激減でした。

今年を振り返ると、緊急事態宣言が発令されていた4月~5月は予定入院の患者がこぞってキャンセルとなり医療機関の収益は激減し、その後も感染対策を取りながら患者受け入れを行い、第3波では特に急性期病院は国からの依頼による病床確保への対応と、各病棟で働くスタッフの人繰りやストレスマネジメントに苦労し続けたのではないでしょうか。今年は本当に病院経営、病院運営にとって受難の一年だったと思います。

「病気が流行って医療機関の経営が悪くなる」という矛盾のような現象(ひとつひとつの関係を紐解くと別に矛盾していないのですが)は、医療機関経営の難しさを示す象徴的な出来事だったと思っています。

医療機関経営の理想と現実

個人的には、医療機関経営には以下のような「理想」と「現実」があると思っています。

理想…本当に治療が必要な人達に対し、必要な医療を惜しみなく届けたい

現実…標準疾患や利益率が高めの疾患を集患して治療することで収益・利益を確保したり、患者さんからは差額ベッド代も含めてお金を落としてもらわないと経営が成り立たない

一般的には、「現実」の部分で得たお金をまずは給与としてスタッフに分配しつつ、「理想」の部分の実現に向けた投資に回すことで医療機関のバランスは得られているので、この構図は問題ない、というか経営上は至極真っ当なものであるでしょう。「理想」への投資を怠らなかった医療機関では、コロナ禍においても感染対策へのキャッチアップやスタッフへの教育が一定水準で行き届いていたり、感染症患者の受け入れも並行して行っていったことで、地域内でのその存在意義が問われることは無かった、というか改めて見直されて行ったのではと思います。

一方で、これまで「現実」の比重が多かった医療機関にとっては、今回の患者数激減は本当に大打撃だったと思います。以下はTwitterで見つけたちきりん氏のツイート。

一応補足して言うと、

・急性期病院の紹介元・逆紹介先として、慢性疾患の診療や定期的な健康チェック、定期処方をしてくれるクリニック

・いざという時に救急を受診できたり入院機能を持っている亜急性期領域の病院

・発熱外来に対応できるクリニックや病院

は、これまで通りとても大切です。

このような医療機関がきちんと機能していることが、地域の医療的役割分担の維持につながり、結果的に地域内での医療全体を支えることになります。

なので、このツイートが100%事実であるわけはないのですが、一方で「本来であればセルフメディケーションへの切り替えでもよい治療」が多かった医療機関では、今年以降はかなり苦戦を強いられていくのではないかと思っています。

今回の新型コロナウイルス対応で見えたもの

個人的に考えたことは3つありました。

健康は自らの手で守るもの

今回のコロナ禍で見えた良い部分は、日本全体での衛生意識の向上と、それに伴う感冒症状の激減だったと思います。

具体的には手洗いうがいの徹底だったり、空気の定期的な換気、密集したところで長時間集まらない、などごくごく当たり前のことなのですが、このような日常的な感染対策の徹底に伴い、成人のインフルエンザや小児のRSウイルスは激減しています。

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東京都感染情報センターHPより抜粋

本来ならば、医療機関にかからず健康であることが一番です。注意すれば守れる病気にかかりにくくなったことは、今回の新型コロナウイルスのほぼ唯一?の良かった点であるといえるでしょう。

医療機関は意図せず不健康になった方のための場所

そんな健康な世の中になった後、医療機関には何が求められてくるのか?

あたりまえですが、医療機関のミッションは「意図せず不健康になった患者さんにどれだけ寄り添って治療できるか」を軸に考えていくものになると思っています。

具体的に言うと、

厚労省の定める5疾病5事業への対応

・その疾患に対応するための各医療圏での連携体制の構築

・在宅医療

・地域包括ケアシステムへの対応

あたりの、厚労省が診療報酬で点数をつけている/これからつけていく領域に改めてどれだけフォーカスしていくことになるのかなと思っています。

5疾病…がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患(今後はここに感染症が入ってくると言われています)

5事業…救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療

 

ただし国民の健康意識が上がったことにより、軽微な症状は今後も減っていくものと思われます。

なので、先に述べた現実の部分(治療が必要な疾患への着実な集患や、診療の質の向上への取り組み)により一層の磨きこみをかけつつ、理想の部分(医療機関の強みを作っていく努力、リスクマネジメントの徹底)に気を配る、という経営の本筋にどれだけ向き合っていくかが、これからの医療機関経営のカギなのかなぁと思っています。

コロナの影響をあまり影響を受けない自費診療領域

もう一つ分かったのが、「ほぼ無風の自費診療領域」ということです。以下、以前のつぶやきより。

自費診療領域も色々な幅があると思うのですが、

➀審美目的のニーズがある領域(美容形成や一部の歯科領域など)

②健康不安への対応としてニーズがある領域(格安の民間PCR検査センター、昔で言うと血液クレンジングとか…)

個人的には②の領域は国民の健康リテラシーの低さに付け込んだ、医療という看板を表向きにした商売なので医療とはジャンル違いと思ってはいるものの、民間PCR検査センターで出た検査結果のフォローがされず、感染者対応に真摯に向き合っている医療機関が苦労している、などのニュースを見ると、なんだかなぁと思ってしまったりします。

news.yahoo.co.jp

このあたりは国民の健康リテラシーに関わってくる問題なので取り扱いも非常に難しいですが、「医療を語る健康商品が医療現場の邪魔をしないで」というのは、医療機関に勤めるスタッフならだれもが思うところだと思います。(しかし、恐らくこういった医療ビジネスは収益性があるというところがまた悲しいところ…)

まとめ

今回の記事は良くまとまっておりませんが、とりあえず現時点での志向の整理で書きました。

新型コロナウイルスは収まるばかりか、ますます感染の勢いが広がる一方ですが、一日も早くそれに苦しむ患者さんがいなくなることを祈るばかりです。医療機関運営も、コロナ時代を乗り越えてアップデートをしつつも、そこで働くスタッフの方に過度な負担がかからないようになってくれることを、2021年に向けて願うばかりです。

改めて医療機関運営に関わったすべてのみなさま、今年1年間本当におつかれさまでした。