コロナウイルス患者受け入れに関する診療報酬上の特例対応まとめ

4/17に、「コロナウイルスの重症入院患者への診療報酬を倍増させる」というニュースが発表されました。

www.nikkei.com

「診療報酬の倍増」という部分が独り歩きしている気がするのですが、中身については

・2020年4月8日の事務連絡

・2020年4月17日の中医協資料

などで既にその具体案が出されています。今回の記事では、その内容を整理していきたいと思います。(記事の内容はあくまで厚労省からの通達・資料の抜粋です。詳細は原本をご確認ください。)

1.2020年4月8日の事務連絡

参照元

https://www.mhlw.go.jp/content/000620202.pdf

○外来:トリアージ実施料の算定

新型コロナウイルス感染症であることが疑われる患者に対し、必要な感染予防策を講じた上で実施される外来診療を評価する観点から、新型コロナウイルス感染症患者・またはその疑い患者への外来診療について、受診の時間帯によらずB001-2-5 院内トリアージ実施料(1回300点)を算定できることとする

外来診療については、トリアージ実施料の算定が広く可能になっています。

本来であれば、夜間・休日・深夜等の時間帯のみ算定可能になっている診療報酬ですが、「受診の時間帯によらず」という要件緩和がなされたことで、疑いのある患者が受診した場合には全患者に対して算定できることが特徴ですね。

○入院①:救急医療管理加算の算定

緊急に入院を必要とする新型コロナウイルス感染症患者に対する診療を評価する観点から、新型コロナウイルス感染症患者の入院診療に当たっては、医師が診察等の結果、緊急に入院が必要であると認めた患者について、A205 の救急医療管理加算1(950点/日)を算定できることとすること。その際、最長 14 日算定できることとする。

 一般病棟に入院した患者には、最大14日間の救急医療管理加算が算定可能になります。通常は7日間を限度とした加算ですが、特例で14日間まで算定可能となっており、ありがたいですね。

○入院②:二類感染症患者入院診療加算の算定

必要な感染予防策を講じた上で実施される入院診療を評価する観点から、新型コロナウイルス感染症患者の入院診療に当たっては、第二種感染症指定医療機関の指定の有無に関わらず、A210 の2二類感染症患者入院診療加算(個室加算は300点/日、陰圧室加算は200点/日)を算定できることとする。

新型コロナウイルスは第二種感染症であり、その患者を受け入れた際の加算も指定医療機関の有無にかかわらず二類感染症患者入院診療加算の算定が可能になっています。 

ちなみに、特定集中治療室管理料をはじめとしたいわゆる「集中治療室」に入院中の場合は、その集中治療室の特定入院料に二類感染症患者入院診療加算が含まれるという考え方となり、この加算の算定が出来ませんので、注意が必要です。

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2.2020年4月17日の中医協まとめ

続いて、2020年4月17日に議論された中医協の内容について。

こちらは対応案の議論でしたが、「承認」という決定がなされたので今後具体的な算定方法が各医療機関に通達されるものと思われます。

参照元

中央社会保険医療協議会総会(第454回)議事次第

○重症の新型コロナウイルス感染症患者の治療に係る評価

  • 特定集中治療室管理料等を算定する病棟に入院している重症の新型コロナウイルス感染症患者(※ECMOや人工呼吸器による管理等を要する患者)に対する治療への評価を2倍に引き上げること。
  • 特定の患者については、より長期間高い評価とすること。

→急性血液浄化(腹膜透析を除く。)を必要とする状態、急性呼吸窮迫症候群又は心筋炎・心筋症のいずれかに該当する患者:21日

→体外式心肺補助(ECMO)を必要とする状態の患者:35日

が、特例的な対応として打ち出されています。いずれも、ECMO(体外式心肺補助)や人工呼吸器(持続陽圧呼吸法(CPAP)等を含む。)による管理等、呼吸器を中心とした多臓器不全に対する管理を要する患者への治療が、診療報酬上で評価されるものとなります。

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○患者の重症化等を防ぐための管理及び医療従事者の感染リスクを伴う診療の評価

「中等症以上の新型コロナウイルス感染症患者については、救急医療管理加算の2倍相当(1,900点)の加算 を算定できる」となりそうです。

新型コロナウイルス患者の受け入れにあたっては、中等症以上の患者(※酸素療法が必要な患者を想定)の重症化や、他の患者及び医療従事者への感染を防ぐことが必要になりますが、そのような対応にはコストや人件費がかかります。この診療報酬は、そのような現場の大変さを評価したものと言えるでしょう。

また、「人員配置に応じて、追加的に二類感染症患者入院診療加算に相当する加算(個室加算は300点/日、陰圧室加算は200点/日)を算定できる」という加算も提案されています。こちらも、医療従事者の感染リスクを伴う診療への評価と位置付けることができます。

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新型コロナウイルス感染症患者の受入れに伴い必要な手続き等への柔軟な対応

  • ハイケアユニット入院医療管理料等について、同等の人員配置とした病床において、簡易な報告により、 入院料を算定することができることとする。
  • 救命救急入院料について、通常は、院内からの転棟の場合は算定できないが、患者の同意を得た上で、入院経路を問わず算定できることとする。

集中治療室の存在は、今回の新型コロナウイルス患者対応の一番の要です。

緊急事態のため、通常の入院医療とは異なる体制を各医療機関臨機応変に整えていると思いますが、その部分に配慮した措置と言えそうです。

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3.今回の特例対応への個人的見解

先日このブログに掲載した「コロナウイルス流行が病院経営に与える影響を考える」という記事の中で、病院には三つの収益減の要因があると述べました。

  • 集中治療室の枯渇による予定入院患者の減少
  • 救命救急センターの救命救急入院料の算定件数減少
  • レセプト審査による検査や薬剤への査定

www.medical-administrate.org

このうち、②については今回の特例対応でカバーされ、③について今回の資料内では触れられていないものの、救急医療管理加算の対応などがフレキシブルになされたことからも、コロナウイルス患者のレセプト請求に厳格な審査がされることは考えにくいかなとも思っています。

①の部分については、どの医療機関でも予定されている外来や入院診療の多くがストップしている現状があり、収益が一時的に大きく落ち込んでいるところがほとんどなのではないかと思います。ただし、他業界が軒並み大きな打撃を受けている現状もあり、医療業界がこの危機に最も現場で対応していることは分かりつつも、今後の一律での補助金対応などを待つしかないのかなとも感じます。

 

その他気になることとしては、「この特例通達はいつから適用可能なのか?」ということです。

既に連日多くの患者さんを受け入れている中で、ある程度の期間まで遡って対応が可能なのか、それとも通達が出た日からの算定になるのか。

医療機関への影響は1例目からあるはずなので、「遡ってコロナウイルスの診断名が付いた全患者に対して適用可能」としてほしいところですが、ここは公式見解を待ちたいと思います。

まとめ

  • 「2020年4月8日の事務連絡」「2020年4月17日の中医協資料」にて、新型コロナウイルス患者受け入れに関する診療報酬上の特例対応が発表された。各医療機関の請求担当者は、院内の運用とどのように合致するか確認が必要。
  • 今回の特例対応は、あくまでも新型コロナウイルス患者受け入れ時の診療報酬の上乗せであり、一般患者に対しては現状通りの請求となり、また患者数減少への補償は含まれていないことに注意。