医事課で日々患者請求に関わる方々にとって、ストレスフルな業務が「患者への診療費請求の対応」だと思います。
病気で弱っている患者さんと支払いの話をするのには気を遣う一方で、未払いなく帰ってもらうことが病院としては必要なので、医療機関にとっては無くてはならない仕事です。
しかしそんな努力にもかかわらず、診療費の未払いはどの医療機関も頭を悩ませている問題です。医療もサービス業の一つと考えれば、本来的には診療費の未払いや踏み倒しはあってはならないことなのですが…。(ビジネスホテルなどで宿代の未払いがあったなどはあまり聞いたことがありません…)
また、救急外来での受診料や緊急入院の入院費は「急な話だった」ということで、持ち合わせ不足などによる未払いは多いと思います。いろいろとやむを得ない理由はあるにせよ、医事課としては、できるだけ診療費の未払いを減らすような体制づくりをしておく必要があるといえるでしょう。
医療機関の未収金対策のキホン
私が医事課で働く中で学んだ三つの未収金対策をご紹介します。(限度額適用認定証の案内など、医療費自体を押さえる保険制度の話はここでは割愛しています)
1.クレジットカード決済での会計
まず一つ目が、「クレジット決済OK」にするということです。
当たり前では??と思う方も多いと思いますが、クレジット決済ができない医療機関もまだまだ存在するようです。(データはうまく見つけられなかったのですが…)
Twitterでも以下のようなつぶやきをしたのですが、キャッシュレス決済が増えてきている今日、クレジットカード対応は医療機関においてもマストと言えると思います。
クレジットカードが取り扱い可能になると、窓口での未収金も大幅に減ると思います
— 病院で働く事務職員 (@medical_admini) 2019年5月7日
「五万円持ってますか?」だと払えなくても、「クレジットカードで五万円払えますか?」なら払えると言ってくださる患者さんも多いです。
電子マネー決済を導入している病院もあるとのこと。
電子マネーは、1万円未満の外来会計にマッチしてそうでいいですね!急な受診でクレジットを持ってなくても、SuicaやPASMOは持ってる人は多そうです。 https://t.co/VPqoqCZO3W
— 病院で働く事務職員 (@medical_admini) 2019年5月8日
また、「サービスの性質からして、カード支払いを受け付けるべき」という意見もありました。これはおっしゃる通りだなぁと思いました。
利益率の問題はあるにしても、概算でしか入院費を出せない医療機関が、カード支払いを受け付けられないのは正直ナンセンス。
— 小迫 正実 (こさこ まさみ), MPH (@msks0408) 2019年5月6日
手数料を所与として経営してほしい。
交通費の経費だってタクシーOKにしてたり、紙の印刷しすぎてたり、締めるところ締めてから、最後に患者のところに手を入れたいですね。 https://t.co/rFAV3HYCpi
2.土日・夜間休日の事務受付体制
二つ目は、人海戦術的な話ですが、「365日24時間、診療費の請求ができるスタッフがいる体制にしておく」というものです。
私が勤務している病院では、土日の医事課の当番がありますし、夜間も専従の受付スタッフがいるので、この体制は当たり前と思っていたのですが、周りの病院の話を聞いてみると
「夜間受診した人には、翌日に請求書を発送している」
「土日に退院した人は、その翌週に請求書を発送している」
など、意外とタイムリーに請求ができていない病院があることに驚きました。
「誰かが会計のところで待っている」という事実を患者に伝えるだけでも、未収金は大きく減ると思います。
また「持ち合わせがありません」という人に対しても、
「〇月〇日までに支払ってください」
「支払いの誓約書を書いてください」
など、個々人に合った対応ができるため、その後の支払い率が大きく改善するはずです。
もちろん、夜間で働ける人がいない、土日の勤務までシフトを組んでいたら回らない、などさまざまな事情があると思いますが、年間の土日・夜間時の未払い金額(+会計を素通りできる時間帯があることを患者に知られてしまう)と、勤務にかかる人件費を天秤にかけると、個人的には前者の方が大きいような気がしています。
3.保証金の預かりと概算金額の説明
主に入院や、外来での高額診療(自費治療など)での導入になりますが、「事前の保証金」をお願いするという方法があります。例えば入院時に10万円の保証金をお願いして、退院時にそれを会計から差し引く、といった具合です。先に払うか後に払うかという問題なので、上記のシステムをきちんと説明すれば理解してくださる患者さんがほとんどだと思います。
また保証金の預かりと併せて治療費の概算金額を伝えることで、「こんなにかかるなんて聞いていなかった!」というトラブルを回避することもできます。お金の話は早めに、ということですね。
加えて、病院側のメリットとして「患者さんの支払い能力を事前に把握できる」ということがあります。「事前に入院時保証金で○○円お願いします」と説明した際に「すぐにはちょっと…」という人であれば、退院の時に未払いになる可能性も高いわけで、病院側として支払いの確認を細かくしたり、支払い計画を考えたりといった早期の介入が可能になります。
徳洲会グループなど、病院の理念として保証金はもらわない、というところもあるようですが、可能であれば未収金予防策としては大きな効果を上げられると思います。
それでも払わない場合は…
・法律事務所による督促(場合によっては裁判)
・再受診のお断り
などの強行策に出る病院もあると思います。
どこまでしつこく診療費の督促を行うかというところも、病院側のスタンスが現れるところだと思いますが、
・患者対応は一律に行うべきであること
・未払い患者(たいていはトラブル患者…)の横行が病院スタッフのモチベーションを下げること
などから、ある程度厳しめに行ってもよいのでは、というのが個人的な意見です。
まとめ
お金の話をすることは「誰かがやらなければいけない仕事」です。また、次の患者さんを診療するためにも患者さんから請求分をきちんといただくことが、病院の運営には不可欠です。
大変な仕事だからこそ、対応する個々人にできるだけ負担がかからないように、体制の整備や仕組みを構築することが、病院における未収金対策において重要であると考えています。