中医協資料を読む(第413回・2019年4月24日):2020年度改定に向けた青年期~中年期の課題

2020年度の診療報酬改定の議論に向けて、中医協で「患者の疾病構造や受療行動等を意識しつつ、年代別に課題を整理する」ということが行われています。

・青年期~中年期

・高齢期

が今回の中医協では議題として挙げられていましたので、各テーマでまとめをしたいと思います。

中医協のリンク:中央社会保険医療協議会 総会(第413回) 議事次第

その他、過去の中医協資料のまとめはこちらから。

medical-administrate.hatenablog.com

青年期(20~30代)~中年期(40~50代)の課題

生活習慣病に対する継続的な管理

生活習慣病の状況

生活習慣病(「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」)は、年齢とともに増加傾向にあります。そのうち、治療・服薬ありの割合も概ね年齢とともに増加傾向にあり、特に40代では治療・服薬なしの割合が多いようです。

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生活習慣病等で自覚症状がない患者は受診するまでの期間が長い傾向にあります。また、自覚症状がない患者の受診理由をみると、「健康診断で指摘された」が最も多いことがデータからも分かっています。

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生活習慣病の進行による医療リスク

生活習慣病は、介護が必要となった主な要因の約6割、死因別死亡割合の約6割、一般診療医療費の約3割を占める疾患です。

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高血圧診療ガイドラインや糖尿病診療ガイドラインでは、個々の患者の評価を行った上で、生活習慣の指導等の治療を行うことが求められています。

病院側の患者指導の重要性はもちろんですが、より早期の段階で生活習慣を改める診療ができるようなインセンティブを診療報酬でも設ける必要があり、現在は生活習慣病に関わる3疾患に対して処方箋を交付する場合は、「生活習慣病管理料」の算定が可能となっています。

生活習慣病管理料」の算定

生活習慣病管理料では、関係学会のガイドライン等を必要に応じて参照しつつ、生活習慣に関する総合的な治療管理を行うことを評価しています。

生活習慣病の進行を防ぐためには、より早期の段階で、生活習慣(不適切な食生活、運動・睡眠不足、喫煙習慣等)を改善することが重要ですので、次回の改定時にも引き続きこの診療報酬が評価されていくことになるでしょう。(算定回数が2014年度をピークに下がり続けているのが気になるところではありますが…)

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生活習慣病予防への取り組み:特定健診・特定保健指導の実施

特定健診・特定保健指導とは、メタボリックシンドロームに着目した特定健診及び特定保健指導を医療保険者の義務とすることにより、生活習慣病の予防及び医療費の適正化を目指すものです。

医療保険者は40歳以上74歳以下の被保険者・被扶養者に対して特定健診を実施し、 健診の結果、以下の基準に当てはまる者に対して特定保健指導を実施することになっています。

  1. 血糖 a) 空腹時血糖100mg/dl以上 又は b) HbA1c(NGSP値)の場合 5.6% 以上 の場合
  2. 脂質 a) 中性脂肪150mg/dl以上 又は b) HDLコレステロール40mg/dl未満 の場合
  3. 血圧 a) 収縮期血圧130mmHg以上 又は b) 拡張期血圧85mmHg以上 の場合
  4. 質問票 喫煙歴あり (①から③のリスクが1つ以上の場合にのみカウント)
  5. 質問票 ①、②又は③の治療に係る薬を内服している

メタボリックシンドローム該当者及び予備群の割合は、年齢とともに増加傾向にあります。「増加傾向にある」ということ自体は変えることができない現象かもしれませんが、特定保健指導と生活習慣病治療をより確実に結び付けるような施策が、次のステップとして求められているのかもしれません。この領域に診療報酬がどのように反映されていくのかも注目していきたいですね。

治療と仕事の両立のための産業保健との連携

治療と仕事の両立が青年期~中年期の大きな課題

日本の労働人口の約3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いていること、また日常生活における悩みやストレスを感じる割合は、男女ともに青年期~中年期が最も高いことがデータからも示されています。

また働く世代の女性のうち、妊娠・出産に伴う体調不良等により仕事との両立が困難となる方が全体の2割程度いらっしゃったり、月経関連の症状や疾病がQOLを損なっていることが分かっています。

離職経験がある方の離職理由をみると、「定年のため」や「契約期間が満了したから」の次に、「健康がすぐれなかったから」が多いことが分かり、「治療と仕事の両立」を実現させる施策が今後の大きな課題と言えそうです。(診療報酬というよりは、人事制度などの働き方の問題として取り上げられそうですが。)

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がん患者の就労支援

がん治療のため、仕事を持ちながら通院している方が全国に32.5億人おられます。

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また、近年の主ながん種の平均在院日数は短くなりつつある一方、外来患者数は増えており、通院しながら治療を受ける患者が増えていることが分かります。それとともに、治療の副作用や症状等をコントロールしつつ、通院で治療を受けながら仕事を続けている場合が増えてきています。

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これらの状況から病院側もがん患者等の就労を含めた社会的な問題について取り組むことが求められる時代となってきており、実際に2018年3月9日に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画では、「がん患者等の就労を含めた社会的な問題」が新たに施策として取り入れられています。

それに伴い2018年度の診療報酬改定では「療養・就労両立支援指導料」が新設されました。専任の看護師等が、がん患者に対し、就労を含む療養環境の調整等に係る相談窓口を設置した場合に算定できる項目で、1回の指導につき1,000点の評価が付いています。現在は6か月に1回に限り算定となっていますが、今後は算定可能な回数や点数が増えていく可能性もあるのかもしれません。

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ちなみに、がん以外にも治療と職業生活の両立支援のためのガイドラインが作成されている疾患が数多く存在しています。がん患者への就労支援をモデルケースとして、他の疾患にも同様の加算が算定できるようになる診療報酬が今後設定されていく可能性も大いにありそうです。

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まとめ:2020年度改定における青年期~中年期の論点

2020年度改定にあたり、以下のようなテーマが評価されていく可能性が高そうです。

  • 生活習慣病に対する早期かつ継続的な管理のための取組
  • 治療と仕事の両立のための産業保健との連携としての取組(生活習慣病精神疾患、女性特有の疾患、がん等の幅広い疾患が対象)
  • 成人に対するう蝕、歯周病、破折による抜歯等を減少させるための取組
  • 成人の歯周病の重症化を予防するための取組

※歯科領域は本記事からは割愛としております

私自身も会社勤めをしている身なので、特に「治療と仕事の両立」は気になる分野です。この年代の医療上の課題は、働き方の課題とも捉えることができますね。大きなテーマではありますが、どのような具体策が診療報酬として出てくるのかに注目していきたいと思います。