新卒採用でのミスマッチとその改善策

私が勤務する病院では、自分の同期も含め、事務職として入職した3~8年目くらいの若手・中堅世代の人たちが立て続けに辞めていくという現象が起きていました。

転職理由は人によって様々でしたが、「思っていた職場環境と違った」「働き続けていてもキャリアアップにつながらないと感じた」という、病院にとってはネガティブな理由で転職していく人たちも一定数いました。

なぜ、新卒採用でとった事務職員が病院を辞めてしまうのか?

採用前→採用中→採用後の三つのプロセスに分けて、病院側が改善できるポイントを考えていきたいと思います。

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①採用前…ホームページや説明会でのメッセージに誤りがある

「就職活動は会社と就活生の建前のぶつけ合い」というのは重々承知ですが、やはり入ってから働いてもらう以上、会社側でミスリードするようなメッセージを発信することはよくないと思っています。

労働条件や就労環境が提示していたものと違っていた、なんていうのは言語道断ですが、話し上手な特定のスタッフを広告塔のようにすることは、会社側にとって実はリスクのある活動のような気もしています。というのも、就職説明会の場で「こんな人と働けるのか!」と思っても、新卒で入った職員がそのようなスタッフ(おそらく、会社のヒエラルキー的には上層部にいる人)と一緒に仕事が現できる確率は極めて低いからです。

同様に、「病院に入ったらこんな仕事ができるのか!」と勘違いさせてしまうメッセージもあまり良くないと思っています。

病院に就職した事務職員はまず医事課に配属されることがほとんどだと思いますが、その説明を飛ばして院長や事務長の補佐としてのブレインの仕事だったり、経営企画や経理・人事といった管理部門的な仕事を前面に出して紹介すると、就職後のギャップが大きくなりがちです。

医事課に配属される可能性が高いこと、またそこでは、

・患者サービスという難しい接客業務に関わること

・土日勤務や遅番などの勤務体系もあり得ること

・現場のたたき上げのスタッフや派遣・委託スタッフと一緒にチームで働く仕事であること

を、大まかにでも伝えてあげるべきだと思っています。

そしてそのような経験を積んだスタッフが、他の部署に異動したり、医事課内で管理職になって活躍していますよというストーリーを提示してあげるべきでしょう。

「そういった仕事があることくらい想像しとけ!」という会社の理屈は、「こんな仕事だなんて聞いていなかった!」という就活生の理屈と衝突してしまいます。現実の話を聞いたことで足を遠ざける就活生も出てくるかもしれませんが、そこも覚悟のうえで、やはり会社が就活生の立場になって、ある程度具体的なキャリアパスや様々な先輩の仕事紹介の機会を作ってあげるべきだと思います。

②採用中…面接官の人を見る目がよくない

前に上司に教えてもらったのですが、会社によっては、面接を担当したスタッフごとの退職率などを把握する仕組みがあるそうです。

評価項目のチェックリストはあっても、そこにチェックを入れる際には必ずその人の主観が入ります。「誰の主観が正しいのか?」を数字で測ることは、継続的に安定した採用活動をする上で重要です。そして採点結果から、定着率が高い面接官、離職率が高い面接官の採点結果を比較し、面接官のレベルアップも図っていくべきです。

また採用面接官には人事だけでなく、新入職員を受け入れる部署の中間管理職も入れておくべきだと思っています。「採用面接はコミュニケーション」とよく言いますが、最初の上司になる立場の人が、就活生をどう感じるのか。逆に就活生が、最初に上司になる人のことをどう感じるのか。ここでお互いのコミュニケーションがうまくいけば、少なくとも「こんな環境や上司だと思っていなかった」「こんな職員が入ってくると思わなかった」というミスマッチは減らせるのではないでしょうか。

③採用後…人を育てる仕組みやマインドがない

これが実は一番難しい問題です。

仕事を教えるのは大変だし、一人前になった後は手放したくない。忙しい現場は、新人を病院全体の財産ではなく、どうしても現場の新しい労働力として見てしまいがちです。そうこうしているうちに2年、3年が過ぎていくと、慣れてきたが故に淡々とこなす仕事が増えていき、このまま1年、5年、10年経っていくのか…と思い、辞めることにした、というのは私の辞めた同期の言葉です。

「ジョブローテーション制の導入」というのは簡単ですが、せっかく育てた新人を引っこ抜かれる立場にある部署はたまったものではありません。新卒採用のスタッフを病院事務の総合職として育てていくのであれば、最初に人を育てる現場側の部署(主に医事課?)の中堅~ベテラン層を意図的に厚くして、教育体制の品質を保ちつつ、かつ業務レベルは向上を目指せる人員体制にしておく必要があります。

あとは、最初に配属される部署でも新人には「タスクをこなす」仕事だけでなく、「自ら問題を設定し、解決させる」仕事を意図的に与えていく必要があると思っています。

例えば医事課で言えば、窓口での接遇や待ち時間の改善や、レセプト担当の診療科の査定削減の提案などが、現場レベルで出来る「自ら問題を設定し、解決させる」仕事になってきます。これらの仕事はどうしても管理職が担当する分野になってきますが、管理職だけで行うと、若手スタッフの成長機会を知らずのうちに奪うことになってしまいます。

現場での仕事を覚えてきた若手スタッフに、現場業務の問題設定から解決策の立案・実行までを担当してもらうことが、次の部署で活躍するための下地づくり、そして仕事の面白さを感じてもらうという、最大の離職防止策になるのではないでしょうか。

 

現在医事課で中堅の立場として働いている自分には、新卒で入ってきたスタッフと関わる機会も増えてきています。これまで様々な部署で、様々な仕事を経験させてもらってきたので、それを下の世代にうまく還元できるような仕組みづくりを病院内で提案していければと思っています。