先日アップした「急性期病院における医療連携室の役割と今後の課題」の記事は、ありがたいことに多くの方からリアクションをいただけました。
医療連携室の業務やその重要性は、記事の中でお伝えできたかなと思っていたのですが、一方でTwitterの中でこんなコメントもいただきました。
マーケティングはもっと上位の概念で病院として全体的に何を武器にどう集患していくかを戦略化することであって、連携室はその戦略の一部を展開していく営業部隊だと認識しています。(連携室を否定しているわけではないです)
— やまもと@クリニック事務長・開業・経理代行 (@55ken25) 2019年11月29日
なので、連携室がマーケティングを担うのはあるべき姿とは思えないです
確かに、「マーケティング」という言葉を自分の中できちんと理解できないまま使ってしまっていたのかも…と少し反省。一方でこんな意見も。
地域連携はマーケティングである
— ハイエイシュ (@haieishu) 2019年11月29日
病院経営における顧客は誰かを煮詰めるとすべきことは明確
地域でのポジショニングこそが再編統合時代の生き残り策であり、全方位的なアプローチでは資源が薄まり効率的でない
CRM(Customer Relationship Management)が地域連携のキモ
医療連携室に求められる役割は前回の記事で整理できたと思うのですが、その先にある
という点が今度はもやもやしてきました。
ということで、これから「医療機関におけるマーケティング戦略」をテーマに、全4回に分けて記事を書いていこうと思います。
今回のテーマは、「医療におけるマーケティングの4つのP」について。
医療機関におけるマーケティング戦略とは何なのか?
そもそも、マーケティング戦略とは?
まず、教科書的な要素から、医療機関のマーケティング戦略に求められるものとは何か?を考えていきたいと思います。参考にしたのは、有斐閣アルマの「わかりやすいマーケティング戦略」です。(大学の授業で使った教科書を10年ぶりくらいに引っ張り出しました。笑)
4つのP
マーケティングの4つのPとは、Product(製品)、Place(流通のチャネル)、Promotion(顧客との情報のやり取り)、Price(価格)を指すものです。
それぞれ、医療機関に当てはめるとどのような要素が関わってくるのでしょうか。
Product(製品)
まず第一に来るのが「製品」です。医療機関であれば、持っている診療科や疾患の得意分野、抱えている医師の専門性や人数、患者の受け入れ体制などが挙げられます。
また、「医療機関のブランド力」「患者に対するフォローの手厚さ」などの副次的な要素として考えられますね。
その他、その医療機関が持っているサービスの組み合わせ(例えば、循環器×産科で、循環器疾患のある妊婦の受け入れが可能になったり、腫瘍内科×腎臓内科で化学療法をしている患者への透析治療ができるなど)のバリエーションも、製品価値を高める重要な要素です。
おそらく4つのPの中で一番重要な要素になります。
Place(流通のチャネル)
流通チャネルとは、「メーカーから最終ユーザーに製品が渡るまでの経路」のことです。主に小売業を想定した概念ですが、サービス業にも適用は可能です。
医療機関で言えば、「アクセスのしやすさ」と「受診のしやすさ」と置き換えられるのではと思っています。
「アクセスのしやすさ」は、立地の問題にほぼ尽きる気がします。ただし、自病院の医療圏内でのアクセスの良さを改善する(駅やショッピングモールからのシャトルバスを運行するなど)ことは、病院側の努力で可能です。
「受診のしやすさ」は、予約の取りやすさ、地域の医療機関との連携度合いなどでしょうか。どちらかと言えば、こちら側に病院は注力すべきだと思います。
Promotion(顧客との情報のやり取り)
プロモーションとは、「企業が特定の製品に関する情報、あるいは自社に関する情報を顧客に伝える活動」です。
こちらについては以前の記事でご紹介した通りですが、
地域の医療機関向け…営業活動、広報誌の作成、返書の管理など
地域住民(≒患者さん)向け…HPや広報誌での診療実績の公開、健康講座の開催、SNSでの情報発信など
などが考えられ、まさに医療連携室が日常から関わっている業務と言えると思います。
Price(価格)
価格について、医療機関は公的価格(診療報酬)による運営がなされていますので、医療機関ごとに価格が変わることはありません。
あるとすれば、差額ベッド代の料金体系くらいかと思いますが、一般的な病院であればVIP向けの有差額部屋~多床室の無差額部屋まで、各価格帯で差額ベッドを持っている病院がほとんどだと思います。「価格」は、医療機関では差別化要因にはなりにくいということが大きな特徴です。
4つのPを組み合わせた「マーケティングミックス」
この4つのP を組み合わせることを、「マーケティングミックス」と呼びます。
自身の医療機関を発展させるために、顧客(地域医療機関や患者さん)のニーズと製品サービスをフィットさせることはもちろんのこと、それを具体化させるためにPlace(流通のチャネル)やPromotion(顧客との情報のやり取り)を適切に行う必要があります。長期的な成功を持続するためには、4つのPが適切にフィットしていなければいけません。
例えば、予約や手術枠が取りにくい診療科を広報でプッシュしても、問い合わせがあった時に対応ができないですし、自院であまり強みがない診療領域に対して地域医療機関に営業をかけてもその後の効果は薄いでしょう。
医療機関で言えば、Product(製品)とPlace(流通のチャネル)を理解したうえで、適切なPromotion(顧客との情報のやり取り)を行うことが重要、と言えるのではないでしょうか。
まとめ
〇マーケティングの4つのPとは、Product(製品)、Place(流通のチャネル)、Promotion(顧客との情報のやり取り)、Price(価格)を指す。
- Product(製品):自院の診療科や疾患の得意分野、医師の専門性や人数、患者の受け入れ体制など。副次的な要素として、医療機関のブランド力、患者に対するフォローの手厚さなども含まれる。
- Place(流通のチャネル):「メーカーから最終ユーザーに製品が渡るまでの経路」のことであり、医療機関では患者にとっての「アクセスのしやすさ」と「受診のしやすさ」と置き換えられる。
- Promotion(顧客との情報のやり取り):地域の医療機関向けと、地域住民(≒患者さん)向けの二つの情報発信がある。
- Price(価格):医療機関は公的価格(診療報酬)で運営されており、価格は差別化要因になりにくい。
〇4つのP を組み合わせることを、「マーケティングミックス」と呼ぶ。長期的な成功を持続するためには、4つのPが適切にフィットしていなければならない。