医療機関におけるマーケティング戦略を考える②:ターゲット市場の選定

前回記事のまとめ

マーケティングの4つのPとは、Product(製品)、Place(流通のチャネル)、Promotion(顧客との情報のやり取り)、Price(価格)を指す。

  • Product(製品):自院の診療科や疾患の得意分野、医師の専門性や人数、患者の受け入れ体制など。副次的な要素として、医療機関のブランド力、患者に対するフォローの手厚さなども含まれる。
  • Place(流通のチャネル):「メーカーから最終ユーザーに製品が渡るまでの経路」のことであり、医療機関では患者にとっての「アクセスのしやすさ」と「受診のしやすさ」と置き換えられる。
  • Promotion(顧客との情報のやり取り):地域の医療機関向けと、地域住民(≒患者さん)向けの二つの情報発信がある。
  • Price(価格):医療機関は公的価格(診療報酬)で運営されており、価格は差別化要因になりにくい。

〇4つのP を組み合わせることを、「マーケティングミックス」と呼ぶ。長期的な成功を持続するためには、4つのPが適切にフィットしていなければならない。

www.medical-administrate.org

 

今回は、自身の医療機関の特徴を4つのPからまとめたうえで、

「ターゲット市場をどのように選定していくべきか?」を考えていきたいと思います。

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ターゲット市場の選定

セグメンテーションを行う

セグメンテーションとは、一言でいえば「市場の細分化」です。

「地域医療機関へのマーケティング」「患者さんへの広報活動」と言っても、相手が大きすぎてどこに何を届ければいいのかが分からなくなります。地域医療機関であっても患者さんであっても、疾患・年齢・エリアなど、実際にはより細かく分類が可能になり、この分類を「市場セグメント」と呼びます。

このように、「市場」は細分化することが可能であり、その中で自身の医療機関が持つ特性(マーケティングミックス)に対して、どの市場が良い反応をしてくれるかを考えることが重要になります。ここで分解された市場セグメントに対して、自身の医療機関がどの市場を狙っていくか、つまりターゲットを絞ることが次のステップになります。

セグメンテーションのチェックポイント

ターゲットを絞るにあたり、次の4点をチェックする必要があります。

➀セグメント内が同質か?

②セグメント間が異質か?

セグメント内の同質性が高ければ、自院のマーケティングミックス(4つのPの組み合わせ)から、潜在的な顧客グループに効率的な働きかけができます。

例えば、

セグメント:30代~60代の働く女性層、及びその患者層を持つクリニック

自院の状況:

・製品(Product):産科があり、婦人科や乳腺外科、小児科の評判も高く、別に検診施設を持っている

・流通チャネル(Place):都心部

・患者への情報発信(Promotion):外来は待ち時間管理ができていて、入院は個室が多く、プライバシーに配慮している

という環境であれば、一つの診療科の売り込みだけではなく、働く女性に関わる疾患を総合して診療することができます、というアプローチが可能になるでしょう。

逆に、セグメント間が異質であることが分かっていれば、それぞれのセグメントに対して自院の4つのPをどう当てはめるかを考えなおしたり、逆にこのセグメントからは撤退しよう、と判断することが可能になります。

③セグメントの市場規模は予想できるか?

これは、「誰がセグメントに含まれているか?」「セグメントに含まれる人数は何人か?」を簡単に考えることができるという意味を持ちます。

セグメンテーションを一通り行ったとしても、そのセグメントがどこを指すのかが分からなければ、その後の打ち手が出てきません。ただ分類するだけでなく、「どの領域を指しているのか?」までをイメージしながら分類していくことが大切になります。

④セグメントの市場規模は十分か?

③と併せて考えたい部分です。「分類しすぎた結果、それぞれの領域が小さくなりすぎてしまった」では商売になりません。特に医療機関の場合、営業の実働に充てられる人数や時間が限られています。「分解した結果、一部の疾患や年齢・性別層だけが残った」にはならないようにすることが大切です。

セグメントごとのターゲット設定

市場を細分化した後に考えることは、「複数のセグメントのうち、どれをターゲットに設定するか」を決めることです。ターゲット設定には、大きく三つの方法があります。

➀単一ターゲット

単一の市場セグメントのみを対象とする方法です。医療機関で言えば、一つの診療領域に特化した病院やクリニックに適した方法と言えるでしょう。

うまくいけば、小規模な医療機関でもターゲット市場内で強みを確立することが可能になります。いわゆる「ニッチャー」と呼ばれるポジショニングを狙うターゲット設定です。

②複数ターゲット

細分化した市場のうち、対象とするべきセグメントを複数選び出し、マーケティングミックスを構築するやり方です。場合によっては、すべてのセグメントをカバーすることもあり、製品ラインはフルラインになります。

医療機関で言えば、大学病院などの総合病院が取るターゲット設定で、各医療圏内のリーダー格病院が取るターゲット設定です。

③結合ターゲット

細分化を行ったうえで、その中のいくつかのセグメントに同様に受け入れられるようなマーケティングミックスを構築するやり方です

例としては、先ほど挙げたような「30代~60代の働く女性層、及びその患者層を持つクリニック」に対して、働く女性に関わる疾患を総合して診療することができます、というアプローチを取るというのが結合ターゲットのやり方と言えるでしょう。

結合ターゲットを行うためには、逆に言うと「結合できないセグメント」の見極めが必要です。医療機関で言えば、特定の診療科や診療領域を切り離すことがその方法であり、リーダー格の病院に対抗して医療圏内で生き残るべく、正確なコスト計算がなされる必要があるターゲット設定です。

 

このように、まず「自院の医療圏の市場セグメントを正確に行うこと」「セグメントに対するターゲット設定を行うこと」が、マーケティング戦略において非常に重要になります。 

まとめ

セグメンテーションとは、「市場の細分化」のこと。「市場」は細分化することが可能であり、その中で自身の医療機関が持つ特性に対して、どの市場が良い反応をしてくれるかを考えることが重要になる。

〇セグメンテーションのチェックポイントは次の4つがある。

  • セグメント内が同質か?
  • セグメント間が異質か?
  • セグメントの市場規模は予想できるか?
  • セグメントの市場規模は十分か?

〇市場を細分化した後に、「複数のセグメントのうち、どれをターゲットに設定するか」を決める必要がある。ターゲット設定には、大きく三つの方法があります。

  • 単一ターゲット
  • 複数ターゲット
  • 結合ターゲット

〇「自院の医療圏の市場セグメントを正確に行うこと」「セグメントに対するターゲット設定を行うこと」が、マーケティング戦略において非常に重要になる。 

参考

今回の記事も、引き続き以下の教科書を参考にしました。大学の授業が10年ぶりによみがえってくるのは、自分にとってもいい勉強になります。あの時にもっと勉強しておけばよかったとも思いますが…。笑

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