急性期病院の経営において、最も力を入れるべき施策の一つが「新規入院患者の獲得」です。
現在の医療制度においては、医療機関の特性に応じて求められる機能が分かれています。急性期病院には、「急性期(すぐに治療が必要)の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供すること」が求められており、DPCの係数や入院基本料といった診療報酬にもその考え方が大きく反映されています。
それでは、その急性期に該当する患者はどこからやってくるかというと、大きく二つの受診経路があります。
➀一般外来を経由して入院となる患者
②救急外来を受診し、そのまま入院となる患者
➀も②も、「急性期病院に入院するべき患者さんにどう来てもらうべきか?」という点を念頭において外来の運営を行う必要があります。今回は、①の「一般外来を経由しての入院」の中にどのような病院運営があるのかを、医療連携の観点から見ていきたいと思います。
急性期病院受診の概略図
急性期病院受診には以下の2パターンがあります。
A:患者がかかりつけ医を受診→紹介状をもらい予約を取る→外来受診をする
B:患者がかかりつけ医を受診→かかりつけ医が迅速な治療が必要と判断し医療連携室へ連絡する→外来受診をする
大まかにですが、以下のような図を作ってみました。
先にも述べた通り、赤の矢印(一般外来から入院治療)の数をどれだけ増やすか、そのために初診患者をどう増やしていくかを考えたうえでの外来運営がとても重要になります。
新規の外来患者を増やすためには、
・どのようにして、地域の医療機関からのご指名(紹介)をもらうか?
・どのようにして患者さんに自分の病院を選んでもらうか?
という観点が非常に重要であり、そこに大きな役割を果たす部署が「医療連携室」になります。
医療連携室とは?
「医療連携」とは、言葉の通り地域の医療機関と連携を取り、患者さん紹介を行っていくことを指します。
急性期病院の目線からでは、地域のクリニックなどからの外来患者さんの予約取得などを行う「前方連携」と、状態が安定した外来患者さん入院患者さんの転院・在宅調整などを行う「後方連携」の二つが存在します。
先にも述べたとおり、急性期病院では「いかにして入院する必要のある患者さんに外来に来てもらうか?」という点を念頭において外来の運営を行うことが、経営的に重要になります。クリニックでは治療に限界がある患者さんを受け入れ、逆に治療が一段落した患者さんをクリニックに紹介する実務を担うことが医療連携室の業務であり、病院に来る患者さんの動きを握る部署になります。
医療連携室に求められる業務とは?
➀紹介患者数を増やす
まず一つ目が、「紹介患者数を増やすこと」です。『紹介率』(他院からの紹介患者÷初診患者)が、その指標となります。
地域の医療機関とのネットワーク構築
「紹介患者数を増やすこと」の王道中の王道として、「地域の医療機関とのネットワーク構築」があります。
「急性期病院で診断・治療が必要」と紹介元の医師が判断したということは、必然的に入院治療が必要となる可能性も高いということになります。急性期病院にとっては患者を紹介してくれるような関係性を持った医療機関をいかに増やすかが、経営において非常に重要なポイントとなってきます。
・地域のクリニックへの営業活動
・自院の取り組みの広報活動
・紹介を受けた後の返書作成
・クリニックと自院での患者カンファレンス
・地域のクリニックからの患者の即時受け入れ
などが、医療機関との関係構築の具体的な業務として挙げられます。BtoB(Business to Business)の業務と言えると思います。
広報活動では、例えば広報誌の発行などが挙げられます。紹介先の医療機関を知っている、信頼を置けるということはとても大切ですよね。
今日とある眼科クリニックから電話がありまして、広報誌の白内障記事がすごく良いからあと50部追加を送って欲しいと言われました。
— 病院広報人 (@hospital_prman) 2019年10月30日
こういう評価が一番嬉しいなあ。頑張って記事にして本当によかった。
これもあと一回でおしまい。
急に寂しくなります。
また、一番大切なのは「患者さんの即時受け入れ」を実践できるかという点のようです。「相手が困ったときにすぐに受け入れる」という姿勢を行動で示すことが、相手の医療機関にとっては一番の信頼の材料になりますし、何より病状の悪い患者さんが早く治療を受けることができます。
医療連携室には、地域の医療機関の医師や看護師から直接診察の依頼が来ることも多く、連携室を経由することで通常よりも早く外来予約が可能になることもあるようです。お互いの関係性が構築されることで、患者さんの治療を第一に考えた紹介ができます。
地域住民(=患者層)への認知度向上
こちらは、地域の医療機関からの紹介状を持った患者さんが、自分の病院を選んでくれるための活動になります。
・病院HPの定期的な見直し、リニューアル
・患者さん向けの病院の広報誌の発行
・市民向けの健康講座などを通じて自院の得意分野のPR・地域住民との交流を図る
などの施策が挙げられ、こちらはBtoC(Business to Customor)での業務と言えると思います。どちらかというと、「営業」よりも「広報」に近い仕事ですね。
地域住民への認知度向上のために、市民講座で以下のような声掛けをできると、患者さんが困ったら自然と自分の病院を選んでくれるようになるかもしれませんね。
私が健康教室の司会をする時は、
— 病院広報人 (@hospital_prman) 2019年11月13日
「皆さんは健康に関心がある素晴らしい方々。我々は健康の大切さに気づいていない方にも情報を届けたい。先生の話を聞いたあなたが、家族やご友人に伝えてほしい。親しい人の声は届きます」
的な話を最後にします。
司会の一工夫で参加者の次の行動を作れたり。
予約コールセンターは患者コーディネートの場になるべき?
これは、以前医療連携室の課長から聞いた話なのですが、外来予約のコールセンターに医療連携の視点が加わると、患者さんファーストでかつ地域の医療機関とのネットワーク構築がしやすくなると思っています。
例えば、「○○のような症状があって、いまは紹介状など持っていないんですが、今後こちらの病院で診てもらえないでしょうか…」という問い合わせに対して、
「まずはどこかのクリニックにかかってください」とだけ答えるか、
「その症状でお住まいの地域だと、○○クリニックが専門の疾患を見ていて、当院にも過去に多くご紹介をいただいています。まずはそちらにかかってみてはいかがでしょうか?」と答えるのでは、相手の受け取り方も違いますよね。
当然、後者の答え方が親切ですし、「まずここに行ってください」と紹介したクリニックとのパイプを太くすることが可能になります。実際には、予約コールセンターのマンパワーの問題もあってここまでのフォローは難しいかもしれませんが、実現できればBtoBとBtoCの視点を一気に取り込んだ医療連携が可能になってくるかもしれません。
②逆紹介率の向上
医療連携室の二つ目の業務が、「逆紹介率の向上」になります。『逆紹介率』(他院への紹介患者÷初診患者)が、その指標となります。地域の医療機関の患者へ、急性期を脱した患者さんを紹介する「逆紹介」が実現できて、初めて医療連携におけるネットワーク構築と言えます。
なぜ逆紹介が大切なのか?
一言でまとめるならば、「急性期病院で見れる患者さんの数には限界があるため」です。
医師が1週間の中で外来診察に充てられる時間には限界があります。入院患者の治療や手術の時間に多くを取られる中で、外来診察に十分な時間はとれません。その中で、入院を必要としている患者さんを診なければいけない…という状況があります。
そうすると、急性期を脱した患者さんは地域の医療機関に紹介し、初診の患者さんを診る余裕を作ることが非常に重要になります。これが、急性期病院が逆紹介を大切にする理由です。
地域に根差した逆紹介支援の推進
「逆紹介」は、ただ紹介状を地域の医療機関に対して書けばよいという問題ではありません。患者さんの疾患や、紹介先医療機関の専門性(専門医がいるか、検査機器があるかなど)を加味して紹介先を選定していく必要があります。
紹介先の医療機関の特性とマッチしていない患者を紹介すれば、その病院の信頼が下がりますし、その医療機関からは今後患者の紹介が行われないかもしれません。そういった意味では、患者の受け入れ以上に、質の高い逆紹介こそが、地域の医療機関とのネットワーク構築に重要な役割を果たすといえるのかもしれません。
医療連携は急性期病院運営で最も重要な分野!?
私自身、これまでの業務であまり接点のない「医療連携」の分野なのですが、急性期病院運営において最も重要な分野であると思っています。
というのも、院内において「患者を増やす」ための施策に直接かかわることができる唯一の部署だからです。一般企業でいうところの「マーケティング戦略」と「営業」を一手に引き受ける部門です。
企画室がオペレーション改善をしたり、医事課が算定、総務が施設基準を正しく行えていたとしても、病院の中に患者が来なければ経営は良くなりません。
逆に言えば、患者さんが病院に来さえしてくれれば、その患者さんたちに早く医療を提供し適切な診療報酬を請求しなければという意識が働きますので、オペレーション改善や算定・施設基準の見直しが自然に進んでいくとも思っています。
病床利用率を向上させるには新規入院患者数がキーの一つであるのは周知の事実。
— ハイエイシュ (@haieishu) 2019年11月8日
いろいろな病院を回っていると、自院の新規入院患者の流入経路とリードタイム、拒絶理由の上位5つくらいを即答できる連携室などの担当者に出会えるとシビれる。
キーとなる経営数字を我が物にしてる担当者は強い
そういった意味で、医療連携室は病院経営戦略の根幹となるべき部署なのですが、実際の現場では、
・地域医療機関や患者さんからの電話問い合わせや予約取得で手一杯
・地域のクリニックや医療機関への営業活動が十分にできていない
・自院の強みを知ってもらうための「広報活動」に手が回らない
という現状も多いようです。
医療連携室にエース級の事務スタッフを配置し、「営業活動・広報活動」と「逆紹介の推進」の戦略立案と実行をいかにできるか、また医療連携室のトップに院内で意思決定権のある職員(副院長クラスの医師)を置き、院内の診療科に理解を得てもらいながら活動ができるかが、急性期病院の経営においてとても重要であると思っています。