前回の記事はこちらから。今回は解決策編です。
前回記事のおさらい
・病院の待ち時間には、大きく以下の3種類が存在する。
- 病院に来るまでの待ち時間
- 病院に来てから診察を受けるまでの待ち時間
- 診察が終わってから帰宅するまでの待ち時間
・病院の待ち時間問題には、病院側のマンパワーや保険制度で求められる事項への対応、診療の流れ(診察→処方→会計など)を変更することができないことなど、様々な要素が絡み合っている。
・一方で、ひとつひとつの問題をかみ砕くと、意外と原因はシンプルなものであり、現場での工夫やオペレーションの見直し、ITツールの活用などを通じて解決できるものも多いのでは?
こんな問題点を踏まえ、今回は外来の待ち時間問題を解決するためのポイントを自分なりに考えてみましたので、ご紹介したいと思います。
外来待ち時間問題を解決するための3つのポイント
色々な要素が絡み合っている病院の待ち時間問題。個人的に考えている解決のポイントは以下の三つです。
- まず取り組むべきは院内のオペレーション改善
- 電子カルテに影響が出ない範囲でのITツールの導入
- 他産業でのサービスを病院に置き換えて考える
それぞれについて、詳しく紹介したいと思います。
➀まず取り組むべきは院内のオペレーション改善
全体の待ち時間を改善の話になると、「もっと外来運営に関わる人・モノ・システムに投資しよう!」という解決策になりがちですが、まずチェックするべきは「病院としての機能やオペレーションが現在の流れで最適化されているか?」ということだと思っています。
例えば、以下のようなところがチェックポイントになります。
・予約を取得するルールの中で、時間がかかる煩雑なプロセスは存在しないか?
・初診患者中心に見なければいけない病院なのに、再診患者で外来が溢れかえっていないか?
・オーダー内容が見直されず、不要な検査や処方が続けて行われていないか?
・会計作成を、患者が診察終了から会計フロアへ移動するまでに行うことはできないのか?
大切なのは、「外来運営に関して時間がかかる仕事を一つでも減らすこと」です。患者1人で5分の滞在時間が削減できれば、1,000人患者が来る病院だと1日あたり5000分(約83時間)の待ち時間を短縮できることになります。その間に起こるトラブルやクレームは減るでしょうし、職員の生産性も確実に上がるはずです。
②ITツールの導入は電子カルテに影響が出ない範囲で導入するのがベター
お金をかけずに改善できる部分を一通り潰したうえで、便利なITツールがあれば導入を検討するべきだと思います。最近、ヘルスケアベンチャーに関わる方ともお話をさせていただく機会があるのですが、病院の中にいる職員よりも、ヘルスケアについてのビジョンをもって、問題の核心を捉えたサービスを提供したいと思っている方ばかりです。外部のプレイヤーの意見やサービスを病院オペレーションに取り込むことは、今後の病院運営で必須であると思っています。
ITツール導入の注意点
「ITツールの導入は、電子カルテに影響が出ない範囲で行うべき」というのが個人的な持論です。(想定は、富士通やNECなどに代表されるパッケージソフトとしての電子カルテです。クラウド型カルテだと、連携のハードルが下がるのかもしれません。)
個別カスタマイズには、時間とお金がかかりますし、導入後もそれをメンテナンスするためのお金と人員が必要になります。「待ち時間の短縮」というのは、診療報酬では評価されておらず、直接的な利益になる業務改善ではないので、どこまで投資すべきかという点については慎重になった方がよいでしょう。
※もちろん、待ち時間削減により評判がよくなって新患が増えたりとか、スタッフの残業が減るとか、ポジティブな効果は出ると思っていますが。
また、ITツールの導入ですべてが解決するわけではありません。ITツールの機能に合わせて病院内の業務フローを見直すなど、現場リーダーの応用力が成功のカギになると思っています。このあたりのお話については、以下の記事がとても分かりやすく解説してくださっています。
最近面白いと思ったITツールの導入事例
予約管理:亀田京橋クリニックの外来オンライン予約サービス
紹介するのは大病院ではなくクリニックですが、亀田グループの持つクリニックでオンライン予約のサービスが始まっています。
【外来オンライン予約をはじめました】
— 亀田京橋クリニック(医療法人鉄蕉会) (@kamedakyobashi) August 29, 2019
内科・消化器内科・腎臓高血圧内科・婦人科・泌尿器科の外来予約を、ホームページからとることができるようになりました。
パソコンやスマートフォンから24時間いつでもご利用可能です。ぜひご利用ください!https://t.co/3sJBsVtgPB pic.twitter.com/p2OjlcS4qA
都心部のクリニックなら受診者層も若そうなので、Web予約にもすぐに馴染んでくれそうですね。どのように電子カルテの予約システムに反映させているかが気になりますが、「予約システムに入った情報を電カルに転記する」という運用でも、病院側はピークタイムを外した時間帯に予約管理ができ、患者側は自由な時間に予約手続きができるので、双方でWin-Winな運用となる気がしています。
大病院にもこのようなシステムが導入されていけば、外来の予約コールセンターの運営もかなり楽になりそうです。
医療機関の予約取得=電話のイメージが強いですが、Web化出来ればその分の仕事がまるっと無くなるので業務改善に直結しそう。
— 病院で働く事務職員 (@medical_admini) August 30, 2019
大きな病院だと、外来予約専門のコールセンターのような部署があり、結構な人数と煩雑なマニュアルを抱えています。。
問診:UbieのAI問診
続いては問診ツール。この辺りで有名なのはUbieのAI問診ですね。
慶応義塾大学病院や順天堂医院など、名だたる大学病院・総合病院でも試験運用が開始されており、どのようにこの領域での業務効率化が広がっていくのか注目です。
外来会計の待ち時間:外来診療費の後払いシステム
最後は、既に当たり前のツールになりつつあるかもしれませんが、外来診療費の後払いシステムです。患者側に登録してもらう必要があるというハードルはありますが、会計に待つ患者を減らすことができ、診療費の未払いも防ぐことができるという点で、病院側にも大きなメリットがありそうです。
順天堂や東京医科大学病院ではすでに導入実績があり、東京医科大学ではホームページで詳しく説明がなされていて、分かりやすいです。
領収書や明細書、お薬引換券がスマホで見れるのは便利かも!
ちなみに、下記の場合はサービスが利用できないようです。ITツールは決して万能ではなく、該当の患者を定義して対人作業の負荷を少しでも減らすという考え方がとても大切だと思っています。
- 当月の保険証未確認の患者
- 申込み日の診療が自費診療の患者
- 平日午後2時半以降・土曜午前11時以降のご利用をお申し出の患者
- 時間外・休日診療の患者
- クレジットカード(VISA又はMaster Card)のご利用限度額が5万円未満の患者
- 妊婦検診等の補助券を利用される場合や公費負担制度(難病医療費助成・自立支援医療等)などの医療券を利用される患者
- 入院費の支払をされる患者
病院側がITツールの導入に求めること
病院側がITツール導入に何を求めるかというと、実は一番に来るのは「人件費の削減」だと思っています。
「患者サービスの向上」「医療スタッフの負担軽減」という重要なテーマがあるので表立っては語られませんが、経営判断として重要なのは「ITツールを導入する代わりにどの程度のコストが削減できるのか?」というポイントです。
例えば、外来会計の後払いシステムを検討している病院をケースに考えてみると…
- 現在の状況:1500人/日の外来患者に合わせて、ピークタイムに合わせて外来の会計業務に関わるスタッフを8名配置している。
- 後払いシステムの導入により、会計窓口に並ぶ患者が1000人に減り、ピークタイムの待ち患者も減るので、今後はこれまでよりも2名少ない6名配置で問題なさそう。
- 外来会計窓口に関わる医事課スタッフの人件費は年間で400万円/人
- 後払いシステムの導入費用は、初期コストが1000万円、ランニングコストは200万円/年
試算上ですが、3年間のスパンで考えた際に、
- 後払いシステムを導入した場合:システム費用が1600万円(1000万円+200万円×3年)
- 後払いシステムを導入しない場合:2名分の人件費が2400万円(400万/年×2人×3年)
となり、後払いシステムを使えば人件費が3年間で800万円減るので、導入してもいいのではないか!という意思決定がなされるはずです。
大切なのは、ITツールの導入の提案は人員減が前提になるということです。上記の例だと、システムを導入するだけでは3年間で追加費用が1600万円増えただけになり、ただの赤字垂れ流し事業になってしまいます。
他産業でのサービス体験を病院に置き換えてみる
最後は、病院をサービス業ととらえた時に、他産業で行われている取り組みが導入できないか?を考えてみるということです。
例えば、
- 飛行機の「アーリーチェックイン」の仕組み→当月の保険証確認や問診作業を事前にWeb上で行い、来院したらすぐに診察室に行けるようになる。
- フードコートの呼び出しシステム→診察までの待ち時間はラウンジなどゆとりあるスペースで待機してもらう。
- 次回の予約日時の確認→リマインダメールや通知が届くようになる
などなど。ここでも、「電子カルテとの連携」がハードルになりそうではありますが、他産業で当たり前になってきているサービスを病院でも導入することが、待ち時間のみならず病院の患者体験を高めるものになると思っています。
まとめ
➀まず取り組むべきは院内のオペレーション改善
・不要な業務を極力減らし、外来運営に関して時間がかかる仕事を一つでも減らすことが待ち時間対策の出発点。
・コストや人手のかからない改善を積み重ねることが大切。
②電子カルテに影響が出ない範囲でのITツールの導入
・「待ち時間改善」は直接の利益を生みにくいため、人手やコストがかかる個別カスタマイズは極力避ける。
・ITツールの機能に合わせて病院内の業務フローを見直すなど、現場リーダーの応用力が成功のカギになる
・ITツールの導入の目的は、人件費の削減であることを理解する。
③他産業でのサービスを病院に置き換えて考える
・他産業で当たり前になってきているサービスを病院でも導入することが、待ち時間のみならず病院の患者体験を高めるものになるはず。
今回の記事を書いてみると、私が勤務する病院でもできていないことばかりでした。患者さんが少しでもストレスなく、かかりやすい病院にできるよう、これからも知恵を絞って仕事をしていきたいと思います。