中医協資料を読む(第427回・2019年10月23日):医療機器の効率的かつ有効・安全な利用

診療報酬改定が来年の4月を控え、中医協も改定に関わりがありそうな項目を精査する段階に入ってきています。

具体的な項目案・点数案が出るのはまだ先ですが、「改定に関わりそうな」トピックをこのブログでも紹介していきたいと思います。

今回のテーマは、「医療機器の効率的・有効・安全な利用」

www.mhlw.go.jp

①CT・MRIの共同利用

論点1:CT・MRIの効率的な利用について、共同利用の一層の推進を図る

日本のCT及びMRIの台数は他国と比較して多い傾向にあり、 CT及びMRIの人口当たり検査数は、CTについては最多、MRIについてはドイツに 次ぐ2位となっています。

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患者の治療方針を立てるうえで、CTやMRIの検査はなくてはならないものですが、一方で高機能(=購入費用も1回あたりの検査費用も高額)な診断装置は、適正かつ効率的 に利用される必要があります。

このような観点から、2016年度改定より新たに施設共同利用での撮影を評価する点数が設けられました。

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2020年改定でも、この動きが活性化されると思われます。ただ、普通の検査に+20点は、正直あまり旨味がない気も…。

論点2:CT・MRIの安全な利用について、診療報酬算定にあたり保守点検を要件とする

もう一つは、医療機器の保守点検をきちんと行いましょうという論点です。

放射線領域の医療機器は、リスクが高いことや法律での規制などもあることなどからかなり高い割合で保守点検がきちんと行われていることが分かっています。

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また、病床規模の大きい医療機関ほど、医療機器安全管理責任者の設置率や、保守点検計画の策定率が高い傾向にあることが分かっています。

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中医協資料にはこれだけしか情報が紹介されていませんが、「医療機器の点検を適切に行っているかも含めて、医療機器の使用に関わる点数の評価を行います」という流れになっていくのではないかと思います。

医療安全においてとても重要な論点ですし、医療機器管理をこれまできちんと行っていた医療機関には追い風になる内容です。具体的な改定案に注目していきたいですね。

ガイドラインに基づく画像検査の利用

日本の医療被ばくの線量は世界的にみて高いという現状があり、特にCT検査による被ばくが大きな要因となっていることが分かっています。

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この現状を踏まえ、日本学術会議により「CT検査による医療被ばくの低減に関する提言」が行われています。

その例として、軽度の頭部損傷を有する小児について、頭蓋内損傷のリスクを評価したうえで、リスクが低い場合には頭部CT検査を行うべきではないとしています。

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2020年度改定の論点として、このような「ガイドライン等に基づく画像検査の推進」が挙げられています。画像検査の適正利用に資する診療が、診療報酬でも点数として評価されるかもしれません。

個人的には、「不要な治療をしないことに対する診療報酬」は極めて画期的で、医療費の適正化を図るうえでこのような点数評価はどんどん行っていくべきだと思っています。

③超音波検査の活用

「CTやMRIと比較して簡便、低侵襲であり、かつ診断に有用な検査」として超音波検査(エコー)が紹介されています。

論点1:超音波検査の領域別の診療報酬での評価

現在の診療報酬の基準として、

・超音波検査を同一の部位に同時に2以上の方法を併用する場合は、主たる検査方法により1回として算定する。

・同一の方法による場合は、部位数にかかわらず、1回のみの算定とする。

となっています。

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これに対して、1回の検査で多臓器を精査する場合もあることを踏まえ、評価方法を見直してもいいのでは?という見解が出ています。

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厚労省の考えとしては、「エコーの点数を算定しやすくするので、エコーで済む検査であれば、医療費が高くなるCT・MRIは極力使わないように」という方向へ誘導したいのではないかと思っています。各病院における検査の在り方が、これにより少しずつ変わっていくかもしれません。

論点2:超音波検査の結果の取り扱い

もうひとつは、ややマニアックな論点ですが「結果報告書の作成」についてです。

スライドだと以下の(3)のみでしか触れられていませんが、放射線検査は放射線科医が読影することを前提に運用されているのに対して、超音波検査は必ずしも医師が読影しているわけではなく、技師だけで報告書を作成している場合もあるようです。

また、(2)では、検査の手順や方法が各病院によって異なっていることも紹介されています。

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「エコー検査の点数を上げる代わりに、エコー検査の手順や結果報告書の作成を全国の病院で標準化していきましょう」という動きが、今回の診療報酬改定を通じて行われるのかもしれません。

このような医療の質の向上・全国的な標準化を目指す論点が診療報酬の話題の中で出てくるのは、日本の医療の発展においてとても重要なことだと思っており、注目したい論点の一つです。

まとめ

検査機器の使用に関して、今後の重要になってくるのが以下の三つの考え方だと感じました。

「検査機器を一医療機関だけでなく、地域内で効率的に使っていくべき」

ガイドラインに基づいた検査を行うべき」

「検査機器の使用手順、検査結果の作成、保守点検体制についても全国で標準化していくべき」

これらを適切に行えている医療機関に対して診療報酬が加算される、というのはとても良い方向性だと思います。医療を提供するうえで、医療機器の使用は非常に大きな役割を持ちますし、多かれ少なかれどの病院にもかかわってくる論点ですので、改定案に注目していきたいですね。

※「中医協資料を読む」:過去記事はこちらからどうぞ!

www.medical-administrate.org