病院における災害対策

現在は医事課で働いている筆者ですが、前部署では院内全体の病院の品質管理に関わる仕事に携わっていました。その中でも、「施設の安全管理」には施設課や災害対策委員会の方と一緒に深く関わらせていただいたので、その経験を関わらせてこのブログでもシェアしたいと思います。

まずは、病院における「災害対策」「火災対策」の基本を、2回に分けて紹介します。

災害対策と火災対策は別物

「防災訓練」という言葉でひとくくりにされがちですが、「災害対策」「火災対策」は別物として検討される必要があります。

具体的にどのような違いがあるか、私なりに以下のように整理しました。

災害…対象は「地震」「洪水」「テロ」など多岐にわたる。発生時は、病院全体で組織的に対処する必要があり、訓練は病院全体で実施しなければ効果が薄い。

火災…対象は「火事」のみ。発生時は、発生元の部署での初期対応や迅速な避難を行う必要があり、訓練は部署単位で行うだけでも十分に効果的。

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上記の違いをイメージしたうえで、今回は「病院の災害対策」についてまとめていきます。 

「災害」の対象範囲

地域内で発生する可能性がある緊急事態または自然災害が「災害」であり、具体的には以下のような内容が想定されてきます。

地震

津波

・テロ

「病院における災害対策」は極めて広範な範囲を考えるべき問題であり、一医療機関だけでなく、他の医療機関や行政と一体となった対応が不可欠となる、ということを念頭に踏まえ、災害対策の準備を行う必要があります。

実際に、2018年には北海道や大阪での地震、中国地方での洪水などが発生していましたが、いずれも地域内の医療機関や行政との連携し、対応を行っています。

www.asahi.com

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災害対策を考える際の手順

1.地域で発生するリスクの高い災害の特定

まず災害対策を考えるうえで大切なのは、「自分の病院の地域で起こるリスクの高い災害は何か?」を特定することです。例えば、海に面した地域であれば津波が最もリスクの高い災害になりますし、東京や大阪などの大都市では、テロを想定した訓練も必要になるかもしれません。

災害の発生可能性を考えるうえでは、リスク分析のマトリクス(影響度×発生頻度)を用いて、リスクの特性やリスクレベルを把握することが有効と言われています。

リスク分析(Risk Analysis)|リスク管理Navi [用語集]

過去の災害の発生実績や病院内の各職種の意見をもとに、リスクの高い災害を選定するプロセスが、院内全体を巻き込む災害対策の第一歩となります。

2.災害の影響の特定

自院にとってリスクの高い災害を特定した後に行うのは、「災害の影響」を確認することです。

具体的には以下のようなところがチェックポイントになります。

・対患者:地震や洪水などの自然災害が、患者の治療に及ぼす影響は?

→救急外来や手術室の運営、人工呼吸器や透析の高度な治療などには、病院のインフラ(水や電力など)が必要不可欠ですが、災害時には断水や停電といったトラブルへの対処が必要となります。また電子カルテシステムを導入している病院の場合は、災害時にはシステムダウンになる可能性が高いです。災害が病院にもたらすこのような影響を、各職種の観点から特定することが重要です。

 

・対職員:災害発生時に、病院職員はどのような動きをとるべきか?

→職員が病院に参集する義務をどのレベルまで持たせるかという問題。地域の中核病院は、被災者の救護や治療を行うことが求められる一方で、職員の居住地域や家庭環境によっては、職場(病院)に行くことを選択できないこともあります。災害時に病院職員がどのような動きをとることになっているかは、事前に職員へ周知しておく必要があります。

 

・対地域:災害発生時に、病院は地域内でどのような役割を担うべきか?

→地域内の医療機関が一斉に被災した際に、どの患者をどこの医療機関に転院させるか、また行政と連携してどのような患者をどのように受け入れるのか、などは、災害が発生する前段階で把握しておく必要があります。

3.災害対策のマニュアルの作成

自院が考えるべき災害、およびその影響を特定した段階で、災害対策マニュアルの作成が始まります。1と2の作業は、災害対策を考えるチーム(多くは委員会がその役割を担っています)が行うものですが、マニュアルの作成は各部署単位で行う必要があります。というのも、部署の性質により災害発生時に求められる動きが全く変わってくるためです。

外来部門では、救急外来が最も重要な役割を果たす一方で、再診患者を診ている一般外来は休診として他部署の応援を行う必要があります。

病棟部門では、集中治療病棟は治療をどのように継続するかが喫緊の課題になる一方で、慢性期の患者を診ている病棟であれば即時の対応は求められないかもしれません。

事務部門も、医事課・資材課・施設課などで、求められる業務が大きく変わってきます。

 

最初に述べた通り、災害対策には病院全体で組織的に対処する必要があります。一方で実働部分の対策を考える際には、「 病院としての災害対策のルール」が、各現場の業務や役割に落とし込まれていくことが重要です。

4.災害対策訓練の実施

1~3までを行ったうえで、災害対策訓練を病院を挙げて実施し、災害対策のマニュアルが適切に運用できるのかを確認することになります。

地域の医療機関や行政も交えての訓練はなかなか難しいですが、もし実現すればより実践的な訓練となるはずです。毎年の災害対策訓練がマンネリ化しているという感覚があれば、病院外の医療機関や役所との連携を訓練に取り入れてみることも一つのアイデアかもしれません

また、災害対策訓練は年に一度行うことが望ましいです。一般企業と比べると、病院は1年単位で多くの職員が入れ替わりますし、緊急事態への備えは職員全体が「分かっている」状況になることが大切だからです。

 

なお災害対策訓練後は、各部署からの報告や振り返りをきちんと行ってもらうことも重要です。複数の部署から同じような反省点や改善ポイントが出ている場合には、次の災害対策訓練に向けて対応を行うよう、事務局が主体となって準備を進めていく必要があります。

おまけ:他病院の災害対策訓練の様子

Youtubeに挙がっていた、病院の災害対策の参考になりそうな動画もご紹介しておきます。このように自病院の取り組みを無償で公開してくださるのは本当にありがたいですね。

www.youtube.com

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まとめ:病院における災害対策のチェックポイント

  • 病院の置かれた地理的状況を踏まえ、病院にとってリスクのある災害(発生可能性・重大性などを考慮する)を特定することが災害対策のスタート。
  • リスクのある災害を特定した後は、その災害が院内のどのような部分に影響を及ぼすかを確認する。
  • 災害の種類と影響を踏まえて、自部署で求められる役割をまとめ、マニュアルを作成する。
  • マニュアルが適切に運用できるかの災害対策訓練を行う。(年に一度の実施が望ましい)
  • 災害対策訓練後は院内の各部署で振り返りを行い、複数部署で問題点があった事象については次の災害対策訓練に向けた対応を行う。
 
今年から災害対策の担当になった方にも、そうでない方にも、頭の片隅で災害対策のことを考えていただけるヒントになればうれしいです。