業務改善は個別事例対応を大切にするため行うもの

最近考えているテーマなのですが、こんなことをつぶやきました。

例えばある業務フローを見直しましょう!となった時に、せっかく良い改善案や業務効率化ツールが提案されてきても、

「業務フローに流れてくるすべての案件を改善できないならやらなくてもよいのでは?」

「一部改善できない部分があるなら、場合分けもややこしいしこの改善は意味がない」

といった理由でその提案が却下されやすい、という話で、皆さんにも経験があるのではないでしょうか。

これが医療機関特有のあるあるなのか、それとも業界にかかわらず現場が抱えやすい問題なのかは私もよくわかっていないのですが、今回は医療機関でこのような業務改善への反発が起きやすいことについて考えてみたいと思います。

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医療現場で語られやすい個別事例

医療現場は個別事例の積み重ねの場所

医療現場は、マクロでみると一日に何百・何千という患者さんを対応する場所であり、各部署のオペレーションの塊のようなところです。一方でミクロの、いちスタッフの立場からすると、目の前の患者さんに対してどのような最善の治療やサービスを提供していくべきか、という個別事例の積み重ねの場所です。

ひとりとして同じ患者さんはいませんので、現場で働いていると(私自身もそうなのですが)「この患者さんにはこのように対応」「あの患者さんにはこのように対応」といったように、個別的に対応する思考が強くなっていきがちです。

マニュアルによる業務標準化とその限界

この個別対応をできるだけ標準化するものとして、現場には「マニュアル」が存在します。患者確認や手指衛生といったどの医療現場にも共通する業務マニュアルから、ICU独自のマニュアル・医事課のマニュアルなど一部署でしか利用しない業務マニュアルまで多種多様な内容が存在しています。

業務を標準化させる「マニュアル」を頭に叩き込みつつ、一方で目の前の患者さんの要望に最大限応えるための個別対応をするという二律背反な状況に置かれながら、その場その場の判断で日々の仕事をこなす医療現場の仕事は非常に難しいものだと思っています。

業務改善の位置付け

そんな中での業務改善は「標準化された業務を見直す」ということが求めらます。しかしながら現場でうまく流れている業務がある日突然すべて効率化するなんてことが起きるわけもなく、「もともとは全て手作業だった業務が一部がITに置き換えられ、残りは引き続き手作業で行う」という折衷案が出てくることも多いのではないでしょうか。しかしながら、この案だと単純計算で覚える工程が2倍になるのでそれは業務改善じゃない!と反発に合いやすく、本来ならば全体の業務効率を大きく上げられたはずの案が承認されないということが起こるのもよくある話だと思います。

改善をするときに頭に入れておきたい80:20の法則

80:20の法則は、パレートの法則とも呼ばれます。

経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているとした。80:20の法則、ばらつきの法則とも呼ばれる。

パレートの法則 - Wikipedia

経済活動だけでなく、

・売上の8割は、全従業員のうちの2割で生み出している。

・仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。

・故障の8割は、全部品のうち2割に原因がある。

みたいな感じで、80:20の法則は生産管理にも応用が可能な考え方です。

イメージ的にはこんな感じ↓

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 この考え方でいうと、「もともとは全て手作業だった業務が一部がITに置き換えられ、残りは引き続き手作業で行う」という改善案は、ITに置き換える業務が結果の80%に関わる部分であれば、効果は絶大なものになるはずですね。

なのでマネジメントの立場で大切なのは、

「現場で起きている定型業務のうち、時間がかかる部分はどこかを突き止めること」

「改善の結果、手順が一つから二つに増えてもそれを補って余りあるだけの業務削減時間があることを示すこと」

の二つなのかなと思っています。

「個別事例を大切にするために業務改善する」という考え方

最初に述べた通り、医療現場は目の前の患者さんに対してどのような最善の治療やサービスを提供していくべきか、という個別事例の積み重ねの場所です。しかし一方で、定型的なタスクも多く存在し、それが現場スタッフの多くの時間を奪っていることも事実です。

医療現場の改善において個人的に大切だと思うのは、本記事で紹介した「80:20の法則」を頭に入れながら、「定型業務を改善して時間を作り出し、その時間を個別事例に割けるようにする」という考え方です。

あとは伝え方の問題ですが、「今までやっていた業務は無駄が多いから減らしましょう」よりも、「現場が個々で対応する事例に余裕をもって向き合えるようにしてほしいので、業務を見直しましょう」のほうが、現場に対するメッセージとしても受け入れられやすいでしょう。

これらを踏まえると、現場のマネジメントには「一日に何百・何千という患者さんを対応する医療現場」というマクロの視点と、「目の前の患者さんに対してどのような最善の治療やサービスを提供していくべきか」というミクロの視点の両方が必要になります。時々、ミクロの視点だけで管理されるマネージャーの方を見かけるのですが、そうなると現場で働くスタッフは苦しくなってしまう(もしくはその下で働くスタッフがマクロの視点を持てないまま次のマネージャーになってしまう)のだろうなと残念な気持ちになってしまいます…

外の部署や外部企業から「この業務、見直してみれば?」と言われた時には、「いやいやそれは現場に馴染まない」と否定せず、一旦現場の立場から離れて業務を見直してみることが、実は大きな業務改善のきっかけにつながるのかもしれませんね。